支払いのバランスの例
全てのそれぞれの国家の住民(家計、企業、政府)はその他の国の住民と経済の取引を行なっている。そして、全ての取引はそれぞれの国の国際計算に記録される。その国際計算は以下のような多くの構成要素によって成り立っている。
・対外資産負債残高(International Investment Position,IIP)。それは、ある時点での「ある国の住民が保有するその他の国の住民に対して請求権がある金融資産」、「準備資産として保有されている金塊」、「ある国の住民がその他の国の住民に負っている負債」の価値を表している(IMF,2011:7)。
・支払いのバランス。それは、ある一定期間における、ある国の住民とその他の国の住民との間の取引を要約する、統計上の表現である。それは、財・サービス収支、第一次所得収支(所得収支)、第二次所得収支(経常移転収支)、資本移転収支、金融収支によって構成される(IMF,2011:7)。
・金融資産・負債における、その他全ての変化(IMF,2011:7)。
支払いのバランスとそれと関連する計算は、国家の統計を司る機関(イギリス国家統計局、オーストラリア統計局、アメリカ合衆国商務省経済分析局)が、国民経済計算を補強するIMFの「支払いバランスと対外資産負債残高に関するマニュアル」における国際標準に従った上で、行われている。各国間で専門用語の差異があるのにも関わらず、その原則は世界共通である。
そのIMFのマニュアルは、ある国家とその他の国家との間の、取引と資産負債残高に関する統計上の標準的な枠組みである(IMF,2011:1)。これらの様々な計算を区別している特徴は、国家によって提供・受領される経済資源の本質に関係している(IMF,2011:9)。
あらゆる計算の枠組みと同様に、支払いのバランスは複式簿記の手法に基づいている。記録されるあらゆる取引は、貸借対照表上の借方と貸方が等しい額となる仕訳、あるいは相殺される仕訳で処理される。それらは、資産の流入・流出の額と一致する。ここで、我々は単に純フローを記録する。
貸方は、「国内の住民に対する外国の住民の支払い」が行われている取引で構成されている。例えば、「財・サービスの輸出」、「海外からの投資による所得」、「対外資産の減少」、「対外負債の増加」が含まれる。
借方は、「外国の住民に対する国内の住民の支払い」が行われている取引で構成されている。例えば、「財・サービスの輸入」、「海外に対する支払い」、「対外資産の増加」、「対外負債の増加」が含まれる。
例1:財・サービスの輸出
オーストラリア国民は1,000豪ドル分の財をアメリカ国民に売るとする。
オーストラリアでは
借方:1,000豪ドルという金融資産の増加
貸方:1,000豪ドルの輸出
と支払いのバランスを記録する。
例2:オーストラリア国民によるアメリカの銀行からの借入
オーストラリア国民が1,000豪ドル分の借入をアメリカの銀行からしたとする。
オーストラリアでは
借方:1,000豪ドルという金融資産の増加
貸方:1,000豪ドル分の借入金という負債の増加
と支払いのバランスを記録する。
表24.1は、「オーストラリア統計局がオーストラリアとアメリカに関する支払いのバランスをどのように報告するか」ということを表している。まず、最初の行を見て欲しい。「当座勘定」と「資本・金融勘定」は支払いのバランスの主な勘定科目である。また、それぞれの勘定科目の間に、いくつかのイタリック体で表示されている副題がある。それは、オーストラリアとその他の国々との間の取引の異なる要素を記録する。
我々は今から、表24.1を参照しながら、当座勘定と資本・金融勘定について手短に議論するつもりである。
当座勘定
当座勘定は、ある国家の住民とその他の国家の住民との間の「財・サービス」「第一次所得」「第二次所得」に関する、全ての当座の(言い換えれば「現在の」)取引を記録している(表24.1の1行目)。
財・サービスに関する、あるいは貿易に関するバランスは、生産活動の産出物をやり取りする取引を記録している(IMF,2011:149)。そしてそれは、国内の経済とその他の国々の経済との間の交換を反映している(2行目)。データは一般的に国家の税関による輸出と輸入の管理から収集される。
輸出・輸入される財(3行目)は、運搬可能で有形なものに限られる。一方、サービスは財以外の(無形の)全ての生産物を表している。サービスは銀行業・保険業・運送業・教育も含んでいる。もし商品が観光客によって購入され、それが仮に有形のものであっても、IMFの慣習ではそれらの支出は全てサービスとして記録される。
第一次所得は、ある制度的な単位(個人や企業)が「生産過程への貢献」「金融資産の提供」「現実の資源の貸出」をその他の制度的な単位に行った時に生じる利得を表現している(IMF,2011:183)。
第一次所得には2つの種類が存在する(5行目)。
・生産過程から得られる所得。例えば、賃金、税、生産における圃場金などである。もしある国の住民がその他の国の住民から労働者として賃金を得た場合、第一次所得を得たとみなされる。
・金融資産の所有者へ与えられる利得。例えば、配当金・金利である。
もしそれらの取引が当座に行われならば、その時、これらのフローは第一次所得として計算される。この本の読者ならば、それらは国民計算のうちの国民所得の測定に影響を与えると、正しく理解しているだろう。
第二次所得勘定(6行目)はある国家の住民とその他の国家の住民との間の当座の移転を表現している。これらは国民所得を増加させない。しかし、国家間の所得の再分配にむしろ関与している。第二次所得の見返りとして交換されている経済的価値は存在しない。一般的に第二次所得勘定取引は、個人的な移転、慈善的な寄付、社会福祉(例えば、年金、外国からの支払い)、当座の所得・資産への税を含んでいる。
経済学者はよく当座勘定に注目する。なぜなら記録された取引は、国民所得の決定の妥当性に直接的に関係している。「部門間バランス」と「所得・支出決定」に関する我々の最初の議論は、全て支払いのバランスの当座勘定を明白に考慮している。
輸出(注入)と輸入(排出)は総需要にとって要となる構成要素である。
資本勘定と金融勘定
国家の当座勘定が、国家の支出と所得に影響を与える他国との取引に焦点を当てる傾向にあるのにも関わらず、資本勘定(8行目)はこれらの取引の金融側に位置している。
もし国家の輸出が輸入を超えたら、何が起こるのだろうか?1つ目と2つ目の勘定を一旦無視すると、財・サービスの純流出フローは、他国への金融債権の蓄積を伴う。なぜかと言うと、ある国の輸出によって発生する、輸入国の支払いの必要性を賄うための輸出国の貨幣への需要が、外国為替市場における貨幣の供給を上回るだろうからである。
この不均衡はどのように解消されるのだろうか?それには、いくつかの方法が存在する。最も明白な方法は、輸出国の住民に対して外国人(輸入国)が負債を発行する方法である。これは輸出国の住民たちが保有している、外国債権の純蓄積を導くだろう。この外国債権という代物は、借方に記録される。なぜなら、それは輸出国における取引を行うために、輸入国の能力を高めるからである。
他の方法は、輸入国の住民が自らの銀行の資産を減少させる方法である。これはつまり、輸出国の住民の純負債が減少することを意味する。
表24.1の8行目から10行目が示すように、資本勘定は、自国民と外国人との間の、生産されていない非金融資産と資本移動の取引を記録している。
金融勘定(11行目から16行目)は、「金融資産の純購入、あるいは金融負債の純売却」を記録している残高勘定である(IMF,2011:10)。
24.3 重要な概念
為替相場を組み入れたより複雑な所得と支出のモデルを考える前に、基本的な用語を理解しておく必要がある。
以下の重要な概念は開放経済の議論において使用される。
・名目為替レート
・外国為替市場
・為替相場決定メカニズム(それは、固定と変動の2種類がある)
・実質為替レート。あるいは実効為替レート。それは労働の費用・競争力を表す単位である。
この章の後半の節において、我々は為替相場制度の歴史を考察する。
名目為替レート(e)
名目為替レート(e)は、ある通貨1つで他の通貨がいくら購入できるかを表したものである。我々は相互の為替レートを2つの異なる方法で示すことができる。それでは豪ドル($A)と米ドル($US)との間における関係を考察してみよう。
我々は、米ドルの一単位分(1ドル)を買うために豪ドルがいくら必要なのかに興味を持つかもしれない。この場合、米ドルが我々が「基準通貨」と呼ぶものである。他の通貨は「基準通貨を一単位分買うためにいくら必要なのか」を表している。なので、1.25豪ドル=1米ドルという表記は、1米ドルを買うためには1.25豪ドルが必要であることを表している。
あるいは、「e」で「豪ドルの一単位分(1豪ドル)を買うためには米ドルがいくら必要か」を定義することもできる。この場合、豪ドルが基準通貨となる。なので、分かりやすい例を使うならば、0.8米ドル=1豪ドルという表記は「1豪ドルを買うために0.8米ドルが必要である」ということを表していることになる。
米ドルが基準通貨だった最初の方法の指標は、2つ目の方法の指標を逆にしたものである。しかし、為替相場の指標を理解するためには、必ず「どちらの通貨が基準通貨か」ということを理解しなければならない。
この章では、「e」は「自国通貨を購入するために外国通貨がどれだけ必要か」を表しているということにする。それゆえ、
「e」は「1豪ドルを買うために米ドルがどれくらい必要か」を表していることになる。
名目為替レートでの変化:減価と増価
それではまず「オーストラリア国民は、アメリカの生産者から36米ドルの製品を買いたいと望んでいる」ということを想像して欲しい。その時、1豪ドルと0.8米ドルが同じ価値である。したがって名目為替レートでは、その製品は45豪ドルになる(36 / 0.8 = 45)。この状況は表24.2の1行目に示したものである。
では、もし名目為替レートが2行目に示すように、1豪ドル = 0.6米ドルに変化した場合(豪ドルの米ドルに対する価値が下落した場合)、どうなるか?そこでは、1豪ドルを購入するのに0.8米セントが必要だった状況から、0.6米セントしか必要ない状況に変化している。
従って、「e」の数値の下落は豪ドルの減価を表している。1豪ドル(基準通貨)の外国通貨の価値が減少しているのである。表24.2の例では、36米ドルを購入するのに、1豪ドル=0.6米ドルでは、60豪ドルが必要にあってしまう(36 / 0.6 = 60)。それゆえ、たとえアメリカの生産者が生産する製品の米ドル表示の価格が不変でも、為替レートでの減価が起こった時、自国通貨(この例では豪ドル)での価格は上昇してしまう。
この例は、豪ドルの減価が以下のことを導くということを表している。
・外国の財の、豪ドル換算での価格が高くなる。そして、他の条件が全て同じならば、オーストラリ国民の輸入に対する需要は下落する。
・外国人がオーストラリアの財を買うときに払わなければならない価格が下落する。そして、他の条件が全て同じならば、オーストラリアからの輸出に対する需要が上昇する。
ここで、1豪ドル = 0.8米ドルが、1豪ドル = 1米ドルに変化した状況を仮定して欲しい。これは、1豪ドルを購入するのに1米ドルが必要であるということを表している。なので、為替レートを定義するならば、豪ドルが増価したと定義することができる。
表24.2で示した例では、36米ドルのアメリカ製品は36豪ドルである。この例は豪ドルの増価が以下のことを導くことを表している。
・外国の財の、豪ドル換算での価格が安くなる。そして、他の条件が全て同じならば、オーストラリア国民の輸入に対する需要は増加する。
・外国人がオーストラリアの財を買うときに払わなければならない価格が上昇する。そして、他の条件が全て同じならば、オーストラリアからの輸出に対する需要が下落する。
何が為替レートを決定するのか?
時々、我々は「Forex」(「foreign exchange」の略)という専門用語を用いて外国為替について言及する。貨幣に対する供給と需要は、国家間の「貿易と資本フロー」、「相対的な金利」、「金利の変化の予想」に連鎖的に関係している。為替レートの決定は非常に複雑であり、数値の予測は不可能である。これまでに、為替レートの動きを予想できる理論・モデルは1つも開発されていない。経済学者が持っている観点は、「国境を越える金融資産の取引に関係している為替レートを、貿易に関する取引が支配している」という観点と、それとは逆の因果関係があるという観点に分裂している。
為替レートは、世界的な外国為替市場(それは、国内銀行の外貨両替窓口や、観光客が使う駅のキオスクのようなその他の場所かもしれない)からの通貨の供給と需要から影響を受けていると考えられている。しかし、供給と需要が為替レートに影響すると言っても、現実世界の為替レートに関してそれらの影響は極めて少ない。
経済学者はよく、一般的な供給・需要曲線に基づいて、為替レートの決定に関する極めて単純なモデルを提供する。通貨の量は、横軸が価格、縦軸が為替レートのグラフ上に置かれている。しかし、学生はこの方法が、為替レートを観察する非常に簡略化された方法であるということを覚えておくべきである。
図24.1では、豪ドルと米ドルの外国為替市場に対する主流派のアプローチを考察する。ほとんどの通貨は外国為替市場において取引されているが、ここでは米ドルと豪ドルを使って話を進める。我々は、豪ドルに関する供給と需要の分析における、輸出と輸入のみに焦点を当てる。
それでは外国為替市場における豪ドルの供給について考察してみよう。オーストラリア国民が外国の財・資産を買うとき(輸入したとき)、あるいは外国に貸出をするとき、彼らは取引に使用する外国通貨を購入する必要がある。彼らが望む通貨を購入するため、彼らは豪ドルを供給する(売却する)。ここで、輸入に着目しよう。そこには、為替レート(e)が上昇し、さらに豪ドル供給されるので、供給曲線は右肩上がりになるという仮定が存在している。外国通貨では輸入価格が不変であると仮定すると、輸入における豪ドル価格が下落し、輸入に対する需要が増加する。為替レートが増加した時に、輸入の豪ドルの全体的な価値において発生した現象は、多くの経済学者が呼ぶところの「需要の価格弾力性」に依存している。弾力性とは、価格の変化に対して、需要がどれだけ敏感に変化するかをパーセンテージで表してものである。
・価格の下落率よりも需要の上昇率が小さい時、我々は商品に対する需要に弾力性がないと考える。総収入(あるいは総支出)は下落するだろう。
・価格の下落率よりも需要の上昇率が大きい時、商品に対する需要が弾力的だと考える。総収入(あるいは総支出)は上昇するだろう。
・価格と需要量が同じ比率で変化する時、商品に対する需要は一定の弾力性を持っている。総収入(あるいは総支出)は不変であろう。
図24.1の右肩上がりの供給曲線は、弾力的なアメリカ製品の輸入の需要によって説明するだろう。従って、アメリカ製品の輸入によって発生する、より安い豪ドルは、アメリカからの輸入においてより多くの豪ドルの支出を導く。
同様に需要側も見てみよう。外国人がオーストラリアの財・サービス、金融資産を買う時には、彼らは豪ドルを必要とする。彼らは外国為替市場において自国通貨と豪ドルを交換して、必要な分の豪ドルを手にいれる。ここで輸出に注目してみる。豪ドルに対する右肩下がりの需要は、オーストラリア製品の輸出に対して弾力的な、アメリカの需要を説明することできる。
・為替レートの決定に対する主流派のアプローチにおいて、「e」は供給と需要が等しくなる均衡点である。
・もし豪ドルの超過需要(供給量よりも需要量が多い状況)が存在する場合、豪ドルを他の通貨よりも増価させる圧力を生み出す。すでに示したように「増価」は、基準通貨(ここでは「豪ドル」のこと)の一単位分によって、より多くの米ドルが購入できるようになったことを表している。
・もし豪ドルの超過供給(需要量よりも供給量が多い状況)が存在する場合、豪ドルは減価する。そして、基準通貨(ここでは「豪ドル」のこと)の一単位分によって、より少ない米ドルしか購入できないようになったことを表している。従って、「e」は下落する。
「e」におけるこれらの変化は、供給と需要の不均衡を解消する(図24.1)。豪ドルにおける減価が起きた状況では、オーストラリアからの輸出品の外国での価格は安くなっている(ここでは、豪ドルで計算されている財を購入するために、米ドルの必要性は下がっている)。そして、輸出に対する弾力的な需要は、価格の上下の動きとは逆の動きをするので、輸出に対する需要は上昇する。これは「豪ドルに対する需要の増加」とも言い換えられる。一方で、輸入に対する弾力な需要があるため、豪ドルの供給は、米ドルに対する豪ドルの減価が発生するたびに下落する。
我々はすでに、もし「輸入へのオーストラリア国民の需要」と、「オーストラリアの輸出に対する外国人の需要」がどちらも弾力的であった場合、商品価格の低下に従って貿易収支が均衡に向かうということを見た。しかし、これら状況はあまりにも過酷な要求をすることになる。(言い換えれば、これらの状況は、重要ではあるが不可欠ではない)。
価格の低下に従い貿易収支が誤解の余地なく均衡している環境は、「マーシャル・ラーナー条件」で説明される。その理論は、輸出高と輸入高の弾力性の合計が一致して拡大する限り、価格の低下に従い純輸出は増加するということを説明している。ここで別にあなたは、この状況を実証するための証明方法を学ぶ必要はない。
要約すると、もしマーシャル・ラーナー条件が満たされるならば以下のことが成り立つ。
・外国為替市場における豪ドルの超過供給は、豪ドル建て商品の価格の下落(「e」の下落)を導き、純輸出を増加させる。この純輸出の増加は、外国為替市場における豪ドルの超過供給を減少させる。
・外国為替市場における豪ドルの超過需要は、豪ドル建て商品の価格の上昇(「e」の上昇)を導き、純輸出を減少させる。この純輸出の減少は、外国為替市場における豪ドルの超過需要を減少させる。
その当座勘定のもう1つの構成要素は、国内資産の外国人保有者あるいは国外資産の国内保有者によって発生する、純輸入である。このような資産の保有者がいる場合では、配当と利息の純フローを発生させる。他の条件が同じならば、純フローが正の数になった場合は国民所得が上昇し、純フローが負の数になった場合は国民所得が減少する。
オーストラリア国民の純所得フローが負の数である状況では、もし金利あるいは配当が外貨建てである場合は、豪ドル価格の減少は純所得を改善させるであろう。当座勘定のこの部分を通した所得は、貿易収支における価格下落の衝撃の結果として発生した、あらゆる所得を補うであろう。
簡単にいうと、我々は純所得において発生し得る衝撃を無視すべきであるそして、マーシャル・ラーナー条件を通して、自国通貨の下落は貿易収支を均衡させるだけではなく、当座勘定の収支を均衡させると仮定すべきである。
我々は以下の3つの貿易収支の結果を定義することができる。
・もし自国通貨で計算される輸出額が、自国通貨で計算される輸入額より小さい場合、貿易収支は赤字である。
・もし自国通貨で計算される輸出額が、自国通貨で計算される輸入額より大きい場合、貿易収支は黒字である。
・もし自国通貨で計算される輸出額が、自国通貨で計算される輸入額と同額の場合、貿易収支はゼロで均衡する。
オーストラリア国民を例にとってみよう。貿易赤字は、豪ドルの量の増加が外国人(オーストラリア国民以外の人々)によって蓄積されていることを意味する。同様に、外国人がオーストラリア国民に財・サービスを提供していることも意味する。
明らかに、外国人はオーストラリアが財政赤字になることを可能にしている。なぜなら、外国人が豪ドル建てで資産を保有することを好んでいるからだ。この選択肢は、彼らがオーストラリアの財・サービスを購入するために輸出を通して取得した、豪ドルを支出させるものである(すなわち、それはオーストラリアからの輸入になる)。
輸出によって手に入れた、オーストラリアからその他の財・サービスを購入するための豪ドルの全所得を外国人が使った場合、貿易収支の均衡が発生するだろう。
それゆえ貿易収支赤字は「外国人が名目値で貯蓄を増加させている」ということを意味する。その状況では、豪ドル建ての資産という形で貯蓄が明白になされる。
ついには、ほとんどの通貨がその他の通貨に対して自在に価値が変動するのにも関わらず、時々、中央銀行は為替決定に影響を与えるために外国為替市場に、通貨の買い手・売り手として介入するであろう。それは政府介入と呼ばれる。
この節に存在している単なる「供給・需要アプローチ」は、現実の世界における為替レートの決定を全く説明できないということを覚えておかなければならない。このアプローチの最も重大な欠陥は、国際的な財・サービスの貿易に焦点を当てていることだ。実際には、少なくとも世界の主な通貨において、金融取引は何桁にも増加する。
金融市場の規模は、為替レートへの圧力を招くことなく、「なぜアメリカのような国家が貿易収支赤字を継続できるのか」、また、「なぜ日本のような国家が貿易収支黒字を継続できるのか」ということを説明する。せいぜい、供給と需要の分析は、農産物市場での週の最終営業日における売買のバランスといったような、「直物市場」と呼ばれるものを理解するための助けにしかならない。外国為替のための「市場」は遥かに複雑であり、金利の予想と同様に、為替レートの予想にからも影響を受けている。
国家の金融資産への需要は為替レートの決定において大きな役割を演じるだろう。例えば、豪ドルなどの通貨に対するほとんどの需要は、豪ドルそれ自体に対する需要ではなく、むしろ豪ドル換算の金融および実物資産に対する需要である。同様に、米ドルに対する世界的な需要は、アメリカが提供する財・サービスの購入に対する需要ではなく、多角化した資産構成における資産を手に入れるための米ドル換算の金融資産に対する需要である。
資産市場における価格は金利から影響を受けているということは、注目しておく必要がある。外国為替市場において、参加者は相対的な金利の値(すなわち、外国の金利と比べた時の国内の金利の値)と将来の為替を考慮している。それゆえ米ドル資産を保有する決定は、外国の金利と比べた時の現在のアメリカの金利の値から影響を受けるだろう。しかしまた、「米ドルが他の通貨に対して増価するのか減価するのか」関する予想からも影響を受けるだろう。
これは為替の決定を考察した2つの相対する理論を導き出す。財・サービスの交換に焦点を当てた主流派の観点は、購買力平価説を提唱している。この観点に従えば、為替レートは価格を調整された為替レートに等しくなる傾向にあるだろう。言い換えるならば、ある人がマクドナルドのビッグマックをアメリカで買おうとオーストラリアで買おうと、為替レートの調節によって払う金額は同じになるということだ。もしそのハンバーガーの費用がアメリカでは4ドルで、1豪ドルあたり0.8米ドルの為替レートが存在しているならば、それと同じハンバーガーの費用はオーストラリアでは5ドルとなる。この点において、2つの通貨の購買力は、(「平価」において)等しい。もしそれぞれの国で異なる輸送費用などの取引費用が存在しているなら、明らかにその価格はこれから逸脱するだろう。重要な点は、購買力平価アプローチは「為替レートを動かしているのは財・サービスの取引である」と仮定していることである。
複合的なアプローチは、資産市場に焦点を当てたケインズ理論に従っている。これは、予想される資産の保有者に対する利益が為替レート全体で等しくなっている時に、為替レートは均衡すると仮定している。言い換えるならば、もし資産の保有者がオーストラリア国債とアメリカ国債との間で選択を行なっている場合、価格は予想される総収益に等しくなる傾向にあるだろう。総収益は予想される金利だけでなく、予想される相対的な為替レートも含んでいる。例えば、オーストラリア国債の金利が5%で、アメリカ国債の金利が3%だとしよう。この時なぜ、ある人はアメリカ国債を保有しているのか?彼らは米ドルが豪ドルと相対的に十分に増価すると信じている時のみ、彼らはそのようにしているのだろう。その状況では、豪ドルを米ドルに変換するならば、豪ドルの減価などを伴い、アメリカ国債から予想される収益はオーストラリア国債から予想される収益と等しくなるだろう。このアプローチは、財・サービスの取引よりも、金融資産の取引に焦点を当てていることに注目してほしい。
我々の目的のためには、図24.1で紹介したような簡略化された供給・需要アプローチを理解することは、「主流派の経済学者たちが為替レートの決定をどのように説明しているのか」ということを理解するために重要である。しかし、それはせいぜい為替レートを部分的に説明したまである。実際、現実の為替レートは説明と全く同じようには動かない。対照的に、金利平価説は比較的に多くの通貨全体を通して実証されている。
国際競争力
前節では、ある国家の為替レートの増価(減価)は、外国の財の価格を自国通貨建てで安く(高く)させるということを学んだ。また、他の条件が同じならば、それは国民の輸入に対する需要を上昇(下落)させるであろうということも学んだ。
さらに、ある国家の為替レートの増価(減価)は、外国人がそのある国の製品を買うためにより高い金額を支払わなければならないことを意味する。また、他の条件が同じならば、それがその国の輸出に対する需要を下落(上昇)させるであろうということも学んだ。
しかし、これらの結論は、国際貿易における財・サービスの競争力の1つ要素である名目為替レート、すなわち「e」にしか焦点を当てていない。
だが、「国内の財・サービスは外国で製造された財・サービスに対して高くなるのか、安くなるのか」という質問により正しく答えるために、「その他の条件が同じ」という仮定を緩めなければいけない。そして、国内と外国のインフレ率を考慮しなければならない。
これは実質為替レートという新しい概念を導く。それは、以下の2つの要素によって成り立っている。
・名目為替レート(e)の動き
・(国内と外国との)相対的なインフレ率
この状況では一定であると仮定される、供給の質や信頼性などの非価格(価格とは関係ない)競争の側面もまた存在している。
我々は、国内の物価(P)に対するその他の外国の物価(Pw)の比率を「Pw/P」と定義する。我々はこれを相対物価と呼ぶ。なぜなら、それが国内の物価水準に対する外国の物価水準を表現しているからである。我々は、前の節で名目為替レートを分析した時、「Pw/P」は一定だったと仮定する。
もし名目為替レート(e)が固定されていた場合、我々は以下のように結論づけることができる。
・もしPwがPよりも早く上昇している場合、国内の財は外国の財よりも安くなる。
・もしPwがPよりも遅く上昇している場合、国内の財は外国の財よりも高くなる。
相対物価の逆(P/Pw)は輸入物価に対する輸出物価の比率を表しており、それは交易条件と呼ばれている。
実質為替レート
名目為替レートの動きと/あるいは相対物価の動きは、国家間の相対的な貿易の競争力の動きを表している。実質為替レートはこれらの変数の影響を混合させた指標である。そして、ある国家の国際貿易における競争力を測定する時に使用される。なぜなら、それは名目金利を相対物価に対して調整するからである。
実質為替レート(R)は以下のように定義する。
(24.1) R = (Pw/e)/P = (Pw/Pe)
「P」は(豪ドルといった)自国通貨の物価水準であり、Pwは(米ドルといった)外国通貨単位の物価水準である。
実質為替レートは、「国内の財の物価」(P)に対する「豪ドルで測定した場合の外国の財の価格」(Pw/e)である。「Pw/e」は、外国通貨単位で表現されている外国の物価を示している。さらに、それを現在の為替レートに従って豪ドル(国内通貨)の物価に変換したものを表している。その時「Pw/e」と「P」は同じになり、よってそれらは直接比べられることが可能だ。さらに、実質為替レート(R)における動きは明白である。
実質為替レートの適切さをより良く理解するために、以下で例を使って考察してみよう。それでは、「P = 12豪ドル」、「Pw = 10米ドル」、「e = 0.8」と仮定する。「e = 0.8」は、豪ドル一単位あたり(つまり、「1豪ドル」のこと)を購入するために0.8米ドルが必要であると、表していることを思い出そう。(24.1)の変数にそれぞれ「P」、「Pw」、「e」をそれぞれ代入すると実質為替レートは「R = (10/0.8)/12 = 1.042」となる。それゆえ、アメリカが生産した財はオーストラリアで生産した財の1.042倍の価格である。すなわち、アメリカの方が4.2%高い。
実質為替レートは、以下の現象が生した場合、上昇し得る。
・名目の「e」の減価
・「Pw」が「P」よりも高く上昇(他の条件が同じ)
我々は実質為替レートの上昇を、「ある国家の貿易の国際競争力が上昇し、これがその国の輸出の増価と輸入の減少を導くであろう」ということを示す兆候であると考えている。
実質為替レートは、以下の現象が生した場合、下落し得る。
・名目の「e」の増価
・「Pw」が「P」よりも小さく上昇(他の条件が同じ)
我々は実質為替レートの下落を、「ある国家の貿易の国際競争力が下落し、これがその国の輸出の下落と輸入の増加を導くであろう」ということを示す兆候であると考えている。
第16章において、我々は国家の物価水準に影響を与えるかもしれない要素を考察した。もし物価が単位労働費用に煽られて変動する場合、物価水準を外国と比べて減少させる方法は、その外国の単位労働費用よりも自国のそれを早く減少させるか、利益の余剰を圧縮させる(値上げを断念する)ことだ。
もし名目賃金の成長率が労働生産性の成長よりも早い場合、単位労働費用は上昇する。遅い場合は、逆になる。第16章で見たように、実質賃金は、労働市場において決定された労働者と雇用者と物価水準(それは財・サービス市場において企業によって決定する)の間の契約の結果としての、名目賃金の複合物である。
問題は、もしある国家が実質賃金・単位労働コストの削減を目指すために名目賃金を削減することによって、自らの国際競争力を改善しようと試みた場合、それが総需要を阻害するだけでなく、生産性をも下げてしまうということである。
例えば、もし労働者の士気が名目賃金の削減によって下落した場合、おそらく産業的な怠慢(仕事における「なまけ」)や常習的な欠勤が増加し、労働生産性を阻害するだろう。
さらに、おそらくビジネス全体の投資は、不況期の長期化と(労働生産性を阻害する)賃金の削減に反応する形で下落するだろう。従って、この短期的な戦略が十分な単位労働費用を削減を導くという保証は存在しない。おそらく総需要にとって有害な結果がもたらされるであろう。
「高い賃金の支払いと安定的な雇用の提供によって、企業は国家の国際競争力の改善をもたらす高い生産性の恩恵を獲得する」という意見を補強する、有力な調査に基づく証拠が存在している
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