2022年7月7日木曜日

消費税を問う 2014 湖東京至

 




消費増税を問う
消費税の何が問題なのか
世界 SEKAI 2014.2

湖東京至
ことう・きょうじ 一九三七年、東京生まれ。一九六五年税理士一般試験合格。一九七二 年以降、欧米諸国を歴訪、諸外国の付加価値税制の研究を深める。 静岡大学教授、関東学 院大学教授を経て、現在、中野合同税理士事務所所長。著書として『消費税法の研究』(一九九九年、信山社)、『税が悪魔になるとき』(二〇一二年、新日本出版、共著)ほか。

不公平性を払拭できない欠陥税制
 安倍内閣は二〇一三年一〇月一日、一四年四月から消費税 の税率を八%に引き上げることを閣議決定し、さらに一五年 一〇月から一〇%に引き上げることを予定している。
筆者は、消費税は典型的な不公平税制であり、増税はもと よりこの世に存在してはならない税であると考えている。食 料品に軽減税率を導入すれば不公平は解消すると思っている 人もいるが、筆者はそうは思わない。 そこで、本稿ではまず、 消費税はなぜ膨大な滞納が発生するのか、なぜ食料品への軽 減税率が不公平性を除去できないのか、消費税の本質的性質 を明らかにしながら、その理由を明らかにする。 次に、輸出 企業に膨大な還付金がもたらされるカラクリと不公平性につ いて指摘する。最後に、財源を確保しつつ公平な税制にする ため、消費税の仕組みを変更することを提言する。

消費税はなぜ膨大な滞納を招くのか
 消費税は国税の中で最も滞納税額が大きい。 法人税、所得 税、源泉所得税、相続税、酒税などの滞納税額中、常に第一 位となっている。 二〇一二年度に新たに発生した消費税の滞 納税額は三一八〇億円で、この額は国税全体の滞納税額五九 三四億円の五三%を占めている(次頁表1参照)。


 なお、二〇一一年度分の消費税の滞納税額三二二〇億円は 同年における消費税収入約九兆三〇〇〇億円(確定申告により 納付された額)に対し三・四六%に相当する。 この滞納率は全 国平均値であり、各国税局別の滞納率を見ると、次頁表2に 示すように、平均値を引き下げているのは東京国税局の二・ 五四%であり、他の国税局は高松国税局の二・八七%を除け ばすべて平均値を上回っていることがわかる。とくに、札幌六・一九%と沖縄六・一一%は群を抜いて高い。



 さらに各国税局内 においても、産業が 活発な県とやや産業 が停滞している県と では滞納発生率に差 が生じている。たと えば表にはしていな いが、福岡国税局管 内にある福岡県と佐 賀県、長崎県の新規滞納発生率を比較すると、福岡県が四・九二%、佐賀県が五・ 九六%、長崎県が六六一%となっている(二〇一一年度分)。
 より細かくみると、各県内の税務署のうち、県庁所在地に ある税務署の滞納率と郊外・過疎地の税務署の滞納率にも乖 離があることがわかる。たとえば長崎県の場合、次頁表3に 示すように県平均滞納率六六%に比して高い滞納率を示し ているのは島嶼部などである。これは、過疎的地域ほど滞納率が高く、地域社会の崩壊が進んでいることを示している。
 以上のように、消費税の滞納問題は現行税率五%でもすで に重大な社会現象をもたらしているが、これが八%、一〇% に引き上げられたならば、より一層深刻な事態を招くにちが いない。



滞納を招く消費税の性質
 消費税に滞納があるというと、消費者の 中には「私たちが払った消費税が国に納め られていないなんて許せない」という人が いる。だが、こう考える人は消費税の本質 的な性質を理解していないと言わざるを得 ない。なるほど政府・財務省は「消費税は モノやサービスにかかる間接税であり、 次々と転嫁し最終的に消費者が負担する税 「金」だと説明する。
 だが、この説明には無理がある。仮にモ ノにかかる間接税であれば、たとえば切手 の場合、いま税込みで八〇円の切手は税抜 きで七六・一九円だから、税率が八%に引 き上げられれば八二・二八五円になるはず である (76.19 × 1.08 = 82.285)。また税込み で五〇円の切手は税抜きで四七・六一九円だから、八%になれば五一四二八円になるはずである。 し かしそうはならない。日本郵便の案では八〇円切手は八二円 に、五〇円切手は五二円にしてつじつまを合わせるという。 切手の例を引き出すまでもなく、消費税はきちんと価格に 転嫁しなければならない間接税ではなく、価格決定権が事業 者に委ねられる、いい加減な税なのである。 そもそも消費税 法には「消費者」という文言も、「価格への転嫁」という文 言も、「預り金」という文言もない。
 消費税はよくアメリカにある小売売上税(州税)と同じ税金だという人がいるが、これはまったくの誤解である。 アメリカの小売売上税は小売店でモノを買う消費者 (顧客)が納税義務者であり小売店は一個一個の商品にかかる税金を預り、 手つかずそのまま税務当局に納付する。 こちらはいわば透明 度の高い間接税だといえよう。
 これに対し消費税の納税義務者は事業者であって、事業者 は年間売上高の五%から年間仕入高 (この仕入高には必要経費の うち消費税課税物品や機械等の購入費も含まれる)の五%を差し引 いた額を税務署に納付する。つまり、事業者が自己の責任に おいて年間税額を計算するのであり、一個一個のモノにかか った税金を集めて納める仕組みではない。このことは判例で も明確に示されている。 判決は次のように述べる。
 消費者が事業者に対して支払う消費税分はあくまで商品や役務の提供に対する対価の一部としての性格しか有 しないから、事業者が、当該消費税分につき過不足なく国 庫に納付する義務を、消費者に対する関係で負うものでは ない(東京地裁平成二年三月二六日判決。 この判決は原告(消費者 側)も被告(国側)も控訴しなかったため確定判決となっている)。 判決内容をかみ砕いていうと、消費者が税金だと思って負 担している消費税分は、じつは税金ではなく、物価の一部で あって、事業者は消費者から税金を預かったこともなければ、 消費者が事業者に預けたこともない、ということになる。 要 するに、事業者と消費者は完全に断ち切られており、事業者 は自ら年間納税額を計算して納めればよいわけである。この 判決内容は国側(被告)の主張をそのまま受け入れたもので ある。国は消費税の本質的性質をよく承知しているのである。 にもかかわらず、 「消費税は一個一個の価格に転嫁され消費 者が負担する間接税だ」と説明し続けている。その理由は後 述する。
 おどろくことにアメリカは今から四五年前、ヨーロッパ諸 国が一九六八年に採用したフランス型付加価値税(基本的仕組 みは我が国の消費税と同じ)について、その性質を要旨次のよう に指摘している。

・・・・・付加価値税は消費者に転嫁されると思われているがそれは誤りである。 仮に本体価格と税額が別記されていた としても転嫁はされていない。 製品価格は需要と供給の関 係で決まるものであり、競争原理が働くから付加価値税を 含む原価が引き下げられてしまい、結局、付加価値税は価格の一部に吸収されてしまう。
    ~~一九六九年一二月一日付米国税制改革小委員会議事録より 

 つまりアメリカの税制専門家は、ヨーロッパ諸国が請求書 などに付加価値税を別記して、いかにも間接税のように見せ かけても、結局、税は価格に埋没し、間接税というよりむしろ直接税的要素が強いと言っているのである。
 消費税の滞納が大きいのは、消費税が転嫁の保証もなく、 預り金でもなく、事業者は赤字でも納税しなければならない からである。法人税や所得税は赤字すなわち利益や所得がな ければ納税する必要は生じない。だが、消費税は売上げがあ れば納税額が発生する。そのため滞納が発生しやすいのであ る。滞納額が大きいのは事業者の責任ではなく、消費税の仕 組みそのものに基本的欠陥があるからに他ならない。
 以上に指摘したように、消費税は個々の商品に課税される 間接税ではないから、仮に食料品に軽減税率を採用したとし ても、食料品の価格がその分安くなると考えることは滑稽で ある。商品価格は需要と供給の関係で決まるから、消費税は 価格に埋没し、不公平性の解消にはほとんど役に立たない。
 ただ軽減税率を勝ち取った商品を扱う事業者(業界)は消費 税の納税額が減少する。その分を消費者価格に反映させれば よいが、そうならないのが消費税の仕組みなのである。

消費税はなぜ間接税でなければならないのか
 消費税・付加価値税の生みの親は戦後我が国税制の基礎を 築いたシャウプ博士である。 シャウプは法人事業税(地方 税) にかえて「附加価値税」(税率四%)を導入することを勧 告し、「附加価値税法」は一九五〇年に国会で可決成立した。 法案は成立したが国民の反対が強く、一度も施行されないま ま一九五四年に廃案になっている。 シャウプの「附加価値 「税」は事業税にかえて導入するものであったから、間接税に 区分されるわけはなく直接税に区分されていた。
 そもそも付加価値とは、売上高から原材料と費用(人件費 と利子・地代を除く)を引いた額をいう。逆にいうと人件費と 利子・地代家賃に利潤を加えた額が付加価値となる。シャウ プはこの付加価値という、いわば外形標準に課税することを 提言したのである。したがって付加価値税は事業者が計算納 付する直接税ということになる。
 ところが、我が国で 「附加価値税」が廃案になった同じ年、 一九五四年にフランスが付加価値税という名の税を導入した のである。その仕組みはシャウプの「附加価値税」とかわら ないものであったが、フランスは直接税ではなく「モノにか間接税」であると定義づけた。 フランスが付加価値税という名前まで頂戴しながら 「モノ にかかる間接税」としたのはなぜか。その理由はガット協定 にある。 ガット協定は公正・平等な貿易を保証するため、輸 出国の政府が輸出企業に対し輸出補助金を支給したり、税に よる優遇措置を設けることを厳しく禁じた。 フランスはそれ まで輸出企業に補助金を出していた。それがガット協定で禁 じられたため、何とか税を介して輸出企業に補助金を与える 方法はないかと模索した。だがガット協定がそれを阻んでい た。
 その網をくぐるため、フランス政府は事業者が請求書に付 加価値税額を別記し、「自分が払った税を返してもらうのだ からガット協定に違反しない」と説明したのである。つまり もともと直接税として考えられたシャウプの「附加価値税」 であるが、輸出企業に還付金を与えるため、どうしても「モ ノにかかる間接税」に仕立てなければならなかったのである。 繰り返すが、 本来、付加価値という外形標準に課税する直接 税=付加価値税を間接税に仕立てたところに、消費税・付加 価値税の不透明性、諸矛盾が派生しているのである。

輸出大企業に膨大な還付金をもたらす消費税
 財界は消費税の税率をヨーロッパ諸国並みの二〇%まで引 き上げたいと言っている。 財界が消費税の税率引き上げに賛成する主たる理由は輸出企業に対する還付金があるからだ。
 消費税の税率が上がれば上がるほど輸出大企業への還付金は 増える。筆者の試算によれば、現在の五%税率でもトヨタ自 動車は年間およそ一八〇〇億円の還付金を受け取っている (二〇一三年決算期)。


 筆者が各社の有価証券報告書に基づき有力二〇社の還付金 を推算したのが表4である。これらの二〇社だけでおよそ一 兆円が還付されている。 二〇一二年度における輸出企業に対 する還付金の合計額は三兆二〇〇〇億円にのぼっており、これは輸出還付金控除前の消費税収入一六兆六一 三七億円の約二〇%に相当する (いずれも税率五 %の数字)。
 なぜ消費税・付加価値税に輸出還付金制度が 認められているのだろうか。政府は「外国の顧 客から日本の消費税はもらえないから輸出企業 が仕入れの際に支払った消費税分を返すだけ」 と説明する。つまり、輸出企業は損も得もして いないというのである。ところが輸出大企業は 仕入先や下請先に経済的にも法律的にも消費税を払ったことは一度もないのである。経済的に 払ったことがないことは、下請単価をたたくことで証明されよう。仮に消費税が別記されてい ても本体価格をたたかれてしまえば何にもならない。これは先にアメリカの税制改革小委員会が指摘したところである。
 法律的に支払ったことがないことは、さきに紹介した東京 地裁の判決文をトヨタと下請業者の関係に置き換えてみれば 理解されよう。

.....
トヨタが下請業者に対して支払う消費税分はあくま で商品や役務の提供に対する対価の一部としての性格しか 有していないから、 下請業者が、当該消費税分につき過不足なく国庫に納付する義務をトヨタに対する関係で負うも のではない。(東京地裁一九九〇年三月二六日判決文をアレンジ) つまり判決は、トヨタが消費税だと思って負担しているも のは税ではなく、物価の一部であって、消費税をトヨタが支 払ったことも下請業者がトヨタから消費税を預かったこともも ないといっているのである。 至極明快に消費税の本質的性質 を指摘した判決である。 輸出企業は自分が税務署に納付する わけではなく、他人(下請業者など)が苦しみながら納税した ものを税務署から還付してもらうので ある。


 還付金を計算するカラクリは、年間 輸出販売高にゼロ税率を適用し、年間 仕入高 (輸出分と国内分の合計額) に五% を乗じた額を差し引くところにある (これを仕入税額控除方式という)。たとえ ば年間売上高一〇億円のうち五億円が 輸出、五億円が国内販売だとし、年間 仕入高が八億円の企業があったとする と、上に示す算式のように還付金が一 五〇〇万円となる。



 ここで用いたゼロ税率を考え出した のはフランスで一九五四年のことである。フランスはゼロ税率とシャウプの考えた仕入税額控除方 式を組み合わせて輸出還付金 (輸出補助金)を生み出す仕組み を発明した。フランス型付加価値税はフランスが世界に輸出 した恐るべきカラクリの税金である。この仕組みの恥部を見 破られないため請求書に税額を別記し、消費税・付加価値税 間接税だと言い張っているのである。
 いうまでもないが、消費税・付加価値税の税率が上がれば それに準じて輸出還付金額も増える。そのため財界が税率引 き上げに執着するのである。一方で税率引き上げによります ます納税資金に苦慮する中小事業者がいるのに、輸出大企業 は巨額の還付金をもらう。これこそ消費税における最大の不 公平であるといえよう。

消費税を直接税・法人事業税に組み変える提言
 消費税を廃止したら財源はどうするのか心配する向きが多 い。筆者は財源を確保したうえで消費税の不透明性、不公平 性を排除するため、消費税を事業税に組み変える提言をした い。じつは現行税制の中に消費税と類似した税がすでに存在 している。それは法人事業税(都道府県民税)の付加価値割で ある。 法人事業税の付加価値割は各事業年度の付加価値、す なわち給与+支払利子+支払賃借料+単年度の損益を課税標 準としなかでも大きいのは給与)、標準税率は○・四八%となっ ている。
 法人事業税の付加価値割の課税標準は消費税の課税標準と ほぼ一致する。つまり同種類の税なのである(筆者は仮にこの 税を「新付加価値税」と呼ぶ)。 消費税は間接税に区分されるの に対し、「新付加価値税」は直接税に区分される。したがっ て輸出還付金制度もなければ、価格への転嫁問題などは派生 しない。単に事業者が計算し納付するにとどまる。
 畢竟、「新付加価値税」は給与に課税することになるから、 正社員を少なくし派遣に切りかえる企業が多くなることが考 えられる。これを防ぐために派遣契約料も給与に含めること としなければならない(現行法人事業税法でも派遣契約料の七五% を課税標準に取り込んでいる)。 また現行法人事業税法の付加価 値割は資本金一億円超の法人に限定して課税しており、「新 付加価値税」においても中小事業者保護の観点及び滞納防止 の観点から、この基準を免税点とすべきである(その数はおよ そ二万八〇〇〇社)。
 ただ、今日では資本金が少額でも法人の設立が可能である ことから、資本金基準一億円だけでは公平性が保てない。そ のため、従業員数基準(たとえば三〇〇人以上) や売上高基準 (たとえば年間売上高一〇〇億円以上)を加味する必要がある。ま た、「新付加価値税」の課税を逃れるため法人成りをせず、 個人事業で営業を行う場合であっても、従業員基準や売上高 基準に該当すれば課税事業者となるようにして公平性を図ら なければならない。
 次に税率の設定である。 現行付加価値割の標準税率は○・ 四八%と軽微であるが、これを引き上げることとする。 仮に 現行消費税(五%)と同規模の税収を確保しようとすれば一 ◯%に設定する必要がある。 資本金一億円超の法人の付加価 値はおよそ一二八兆円と推定され、これに税率一〇%を乗ず れば一二兆八〇〇〇億円となり、五%税率の消費税収入とほ ぼ同額となる。 納税義務者となる企業は税率一〇%の消費税 とほぼ同額の納税額となる。 なお、筆者は課税標準の大きさ に準じて五%、 一〇%、 一五%、二〇%の超過累進税率を採 用し公平性を確保することを提言する。
また、「新付加価値税」は事業税にかえるものであるから 道府県民税になり、国税の税収は当然に減少する。 その分は 地方交付税を減らせば齟齬(そご)は生じまい。
 「新付加価値税」の特徴の一つは納税事業者数が消費税に 比して激減することである。 「新付加価値税」の納税事業者 数は多くても四万社の大企業であるから、現在の消費税の納 税事業者数約三二〇万 (二〇二年度) のうち、 九九%の中小 事業者が納税義務から解放される。そのため滞納が激減する。 加えて「新付加価値税」は価格への転嫁や外税・内税、 税込 み・税抜きの表示問題等々経済取引の邪魔をしない。また、 シャウプが考えた本来の付加価値税 (直接税) の姿に戻すこ とにより、消費税最大の不公平、輸出還付金制度や、景気後 退の懸念を払拭することができるのである。■






0 件のコメント:

コメントを投稿