2021年2月17日水曜日

RIETI - 中央銀行デジタル通貨の発行を目指す中国― 予想されるマクロ面での影響 ―

RIETI - 中央銀行デジタル通貨の発行を目指す中国― 予想されるマクロ面での影響 ―

中央銀行デジタル通貨(CBDC)とは

近年、CBDCを巡る議論は、IMFや国際決済銀行(BIS)などの国際機関と各国の中央銀行を中心に、活発になっている。その背景には、①新たな情報技術による支払決済の効率性向上・コスト削減、②北欧など一部の国々における現金の減少や金融包摂の推進、③ブロックチェーン・分散型台帳技術と暗号資産(仮想通貨)の登場、④犯罪・脱税の防止や、マネーロンダリング及びテロ資金供与対策、⑤金融政策の有効性向上、⑥金融安定への寄与など、CBDCへの期待が高まっていることが挙げられている(柳川範之、山岡浩巳「情報技術革新・データ革命と中央銀行デジタル通貨」『日本銀行ワーキングペーパーシリーズ』2019年2月)。

通貨としてのCBDCの位置づけは、BISが提示し、①発行主体が中央銀行(法定通貨)か、それ以外(私的通貨)か、②形式がデジタルか実物か、③アクセスの可能性が広範囲に使用されるリテール型か、銀行の間など、限定された範囲で使用されるホールセール型か、④移転の仕組みが仲介機関を経由せず、直接行われるトークン型か、仲介機関を経由する口座型か、という4つの要素によって構成される「マネーフラワー」と呼ばれる分類法に基づいて確認することができる(図表1)。

図表1 マネーフラワーにおける中央銀行デジタル通貨の位置付け
図表1 マネーフラワーにおける中央銀行デジタル通貨の位置付け

(注)グレー網掛け部分は広い意味での中央銀行デジタル通貨に当たる。

(出所)Morten Bech and Rodney Garratt, "Central Bank Cryptocurrencies," BIS Quarterly Review, September 2017に基づき筆者作成

CBDCとは、中央銀行が発行し、デジタルの形式をとる法定通貨のことであり、マネーフラワーの①と②という二つの要素を同時に有するものである。同③と④の基準も合わせて考えると、CBDCには(A)リテール・口座型、(B)リテール・トークン型、(C)ホールセール・口座型、(D)ホールセール・トークン型、という4つの形態がある(注2)。

中国人民銀行デジタル通貨研究所の狄剛副所長は、中国人民銀行が開発しているCBDCには、ホールセール型である(C)と(D)が含まれておらず、リテール型である(A)と(B)という二つの形態に限定されていると述べている(狄剛「デジタル通貨分析」『中国金融』2018年17期)。

リテール型CBDCの中で、(A)の口座型と(B)のトークン型は、それぞれ次の特徴を持っている(日本銀行金融研究所「『中央銀行デジタル通貨に関する法律問題研究会』報告書」2019年9月)。

(A)の口座型のCBDCは、中央銀行の取引先(口座の開設者)を、現状のように金融機関に限定するのではなく、個人や企業といった一般利用者に広く認めるものだと位置付けられる。こうした口座型のCBDCは、一般利用者が中央銀行に対して有する「預金債権」である。利用者からの振替依頼に基づき、口座の減額記帳および増額記帳がなされることにより、預金債権たるCBDCが移転する。

これに対して、(B)のトークン型のCBDCは、いわば紙幣の電子化とも位置付けられるものであり、金銭的価値が組み込まれる媒体が、紙でなく、電子的なデータに変わると捉えるものである。スマートフォン上のソフトウェアやICカードといった専用のウォレット(電子財布)に記録されるCBDCに関するデータそのものが金銭的価値を持つことになる。決済は(中央銀行または商業銀行の)口座を経由せず、直接各ウォレット間のデータを通じて移転が行われる。一般的に、CBDCは、口座型と比べて、ウォレットを使用するトークン型の方の匿名性が高い。

穆所長の上述の講演をはじめ、関係者の発言と論述を総合すると、中国におけるCBDC構想は、先述の(B)リテール・トークン型に当たり、次のような特徴を持つ。

①M0の代替
CBDCは、M0(すなわち現金)を代替するもので、M1(現金+要求払い預金)、M2(M1+定期預金などの準通貨)を代替するものではない。このことは、CBDCに期待される機能が価値貯蔵手段よりも、決済手段であることを意味する。現在の中国の金融システムでは、M1とM2はすでに口座の管理という形でデジタル化されており、今さら別の技術を用いてデジタル化する必要性がない。 CBDCを推進する理由として、まず、デジタル通貨に比べ、紙幣と硬貨の印刷・鋳造、発行、貯蔵などのコストが高い上、偽造防止技術の研究開発に継続的に投資しなければならない点が挙げられている。また、現金は取引の匿名性により、マネーロンダリングやテロ資金に利用されるリスクがある。CBDCの発行は、現金の使用に伴うこれらの問題を緩和することができる。

②二層構造の運営体制
CBDCの発行・配布は、紙幣の発行・配布と同じように、二層構造の運営体制となる(図表2)。第一層は中国人民銀行と銀行などの仲介機関との取引で、第二層は仲介機関と個人や企業などリテール市場の参加者との取引である。第一層では、中国人民銀行が仲介機関などに対しCBDCを発行する。第二層では、CBDCを引き受けた仲介機関はそれを配布し、市場に流通させる。仲介機関には、四大銀行(中国建設銀行、中国工商銀行、中国銀行、中国農業銀行)に加え、アリババ、テンセント、銀聯なども含まれる可能性が高いと見られる(Michael del Castillo, "Alibaba, Tencent, Five Others to Receive First Chinese Government Cryptocurrency," Forbes, August 27, 2019)。CBDCの移転は、銀行の口座ではなくウォレットの間で行われる。

図表2 中国におけるCBDCの発行・配布・流通の仕組み
図表2 中国におけるCBDCの発行・配布・流通の仕組み

(注)個人間、企業間においてもCBDCが使われる。

(出所)穆長春、第三回「中国金融40人伊春論壇」での講演、2019年8月10日より筆者作成

このような「二層構造」を採用する理由として、①中国は経済規模が大きく、中央銀行が直接国民に対しCBDCを発行することが難しく、②中国人民銀行が国民に対し直接CBDCを発行すると、自らが銀行の潜在的な競争相手になってしまう恐れがある、などの点が挙げられている。このように、先述の四つの形態の内、(A)リテール・口座型も事実上否定されたことで、(B)のリテール・トークン型は、中国にとって、唯一の候補となる。

③特定の技術に限定しない
CBDCの技術については、中国人民銀行は必ずしもブロックチェーンをはじめとする分散型台帳技術を採用するとは限らず、ほかの技術を使用することも可能である。CBDCは主にネット販売など、小口の取引に使用されると想定されるため、大量かつ高速の取引システムが必要である。穆所長は、CBDCは少なくとも毎秒30万件の取引処理に対応しなければならないが、これは現在のブロックチェーン技術では実現困難な速度であると指摘している。

④無利子
CBDCと銀行預金との競争を最小限に抑えるために、中央銀行は、CBDCに金利を付けない。このことは、CBDCの機能が主に決済手段に絞られるという趣旨にも合致している。

⑤「制御可能な匿名性」に基づく個人情報の取り扱い
CBDCの発行・流通により、取引履歴が全て記録されるため、反社会的行為や脱税行為の抑止に役立つというメリットがある。しかし一方で、中央銀行が全ての取引にかかる情報を把握し得るような立場にあるため、中央銀行はこれらの情報をどのように取り扱うべきか、個人の財務情報などのプライバシーが守られているか、などの課題もある。この点について、穆所長はシンガポールでの会議で、紙幣や硬貨を使用することで匿名性を維持しようとする国民の要望を把握しており、望む人々には取引における匿名性を確保すると同時に、「制御可能な匿名性」と、マネーロンダリング、テロ資金、税問題、オンライン賭博、犯罪行為への対応とのバランスを維持することになると述べた。(「中国デジタル通貨、個人情報の「完全支配」意図せず=人民銀幹部」ロイター、2019年11月12日)。

⑥オフライン決済が可能
CBDCは、支払と受取の双方がオフラインの環境に置かれても、決済することができる。双方のスマートフォンなどの端末にCBDCのウォレットがインストールされていれば、インターネットや電波がない環境でも、スマートフォンにバッテリーがあれば、2台がタッチしあうことで、リアルタイムで資金を移動することが可能である。

このような特徴を踏まえると、構想中の中国におけるCBDCと各種通貨との共通点と相違点が見えてくる(図表3)。

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