しかし、現在は世界的なマネーストックの増加が起きています。過去20年ほどは見たこともないようなマネーの増加です。なぜかといえば、コロナ禍が実体経済を大きく毀損する危機で、金融機関が企業へ無利子・無担保で融資したり、個人にも支援金が入ったりしているからです。

 分かりやすいのは10万円の特別定額給付金でしょう。支給されても使わず、そのまま預金で置いている人が多いと聞きます。コロナ禍が収束に向かえば、こうした企業や個人のマネーが動き出す期待はできるでしょう。

コロナ禍での財政支出が膨らんでいますが、債務残高の高さをどのように考えるべきなのでしょうか。

早川氏:東日本大震災のような災害や今回のコロナ禍のような突発的な危機に対しては、国債で資金を調達する手法は正しいのです。特にコロナ禍は普通の不況とは異なります。震災後は被災しなかった地域が経済をけん引することで、国全体の景気を下支えしました。しかし、感染症の拡大防止は、国が自ら経済活動にブレーキをかけるという、かつて経験したことのない事態が発生しました。ですから、財政支出による景気てこ入れが不可欠です。長期的な返済計画を立てていれば財政出動は問題ありません。

 一方で、平時にずるずると赤字を垂れ流すのは問題です。例えば、社会保障費のように年々増加する費用に対しては、きちんと増税で対応するなどの手立てが必要です。ただ、経済学の教科書のように、長期的に国債を全部償還するという緊縮財政の方向性はやり過ぎでしょう。経済学では個人も遺産を残すことなく、所得を全て使い切って死ぬことになっていますが、そんな人が存在するでしょうか。国も同じです。

 こんな話があります。1990年代の米国は、クリントン政権下で財政が黒字化して国債残高が減り始めました。その際、金融市場は「国債不足」が大きな問題となったのです。国債は担保に使われるなど、世界の金融システムに組み込まれています。確かに、対GDPでの適切な国債残高に関する議論はありますが、財政赤字を過度に心配して、急な緊縮に向かう政策も考えものです。

後れているデジタル化にお金をつけよ

コロナ禍による財政支出を、長い目でみた日本経済の成長力を映し出す「潜在成長率」の向上に結びつけるためには、どのような配分が必要でしょうか。

早川氏:コロナ禍による景気後退からの早期回復に向け、財政支出のポイントは2つあります。1つは、「企業を救済するタイプの政策から早めに手を引くこと」。もう1つは、「後れているデジタル化にお金をつけること」です。

 今は雇用調整助成金や無利子・無担保融資は必要な支出です。しかし、本来は将来の見通しがある企業を救うのが目的です。放っておいたらダメになる企業をずるずる救済するのは、ゾンビ企業を生み出すだけで、潜在成長率は低下してしまいます。財政支出は時限措置にして、いつまでも続けないと明確に決めなければいけません。

 また、コロナ禍であぶり出されたのは日本のデジタル化が本当に後れている実態でした。感染者情報をファクスでやり取りするなど、驚きのニュースもありました。ニューノーマルに向かおうとする今、「リモートワーク」と「オンライン教育」の推進には抵抗勢力がほとんどいません。補助金を付ければ一気に進むでしょう。

 「鉄は熱いうちに打て」です。財政支出は、潜在成長率を高めるような変革を起こせる分野に集中的に資金を振り向ける必要があります。