2021年12月17日金曜日

本当に日本は「デフレ」なのか、「物価」から見る日本の「実質的経済」の実力:「ファクト」から考える中小製造業の生きる道(5)(1~4/4 ページ) - MONOist




小川製作所


 
本当に日本は「デフレ」なのか、「物価」から見る日本の「実質的経済」の実力:「ファクト」から考える中小製造業の生きる道(5)(1/4 ページ) - MONOist

本当に日本は「デフレ」なのか、「物価」から見る日本の「実質的経済」の実力

 統計データという事実(ファクト)から、中小製造業の生きる道を探っていく本連載ですが、今回は第5回となります。この連載では、われわれ中小製造業がこの先も生き残っていくために何が必要かを見定めていくために、以下の流れで記事を進めています。

  1. 日本経済の現状を知る
  2. その中で起きている変化と課題を把握する
  3. あるべき企業の姿を見定める
  4. 今後考えていくべき方向性を共有する

 ここまで、第1回では主に「労働者の平均所得」、第2回では「GDP(国内総生産)」、第3回では「1人当たりGDP」、第4回では「労働生産性」について取り上げてきました。

 日本経済のある意味で"成績"を示すこれらの指標で見ると、日本は最先進国の一角から既に「凡庸な先進国」へと大きく後退してしまったことが分かりました。さらに、この中でもとりわけ「労働生産性」が低いという特徴も見えてきました。ここまでを通じ「日本経済の現状」を整理できたところで、今回からはこの数十年で変化した(あるいは変化しなかった)部分を確認していきます。

 具体的には「物価」「為替」「人口」など経済統計を考えるときにパラメータとして機能する指標となります。この中でも特に「物価」はインフレやデフレ、名目値や実質値といった指標に関わり、経済統計への理解をややこしくする存在だといえます。今回はこの「物価」に注目して話を進めていきたいと思います。

そもそも物価とは何か

 「物価」とは、言葉の通り「モノの価格」のことです。経済学では特に「経済全体でのモノやサービスの一般的な価値と価格の関係性を示すもの」として使用される言葉です。

 例えば、20年前に200円だった雑誌が、現在では300円に上がって値段が上がっていることがあります。その雑誌の内容が変わらなければ、100円分値上がりしたことになります。このような個々の値段を総合的に1つの指標として平均化し、まとめたのが「物価」です。20年前と今とで、給料が一緒だったとしても、物価が2倍に上がっていたら、その分実際に買えるものが減りますので「実質的」に貧しくなりますね。逆に物価が半分になれば、2倍のモノを買うことができます。

 物価とは、このように時の推移とともに、実質的に豊かになったかどうかを図るための指標の役割を果たします。物価は、モノとお金の相対的な価値の変化という意味も持つ点を覚えておきましょう。

 物価を表す指標で代表的なものは「消費者物価指数」と「GDPデフレータ」です(本稿では「デフレーター」を「デフレータ」として統一して表記します)。

 「消費者物価指数(CPI: Consumer Price Index)」は「日常生活で私たち消費者が購入する商品の価格の動きを総合して見ようとするもので、私たちが日常購入する食料品、衣料品、電気製品、化粧品などの財の価格の動きのほかに、家賃、通信料、授業料、理髪料などのようなサービスの価格の動きも含まれます」(総務省「消費者物価指数のしくみと見方」より引用)。

 一方の「GDPデフレータ」は、GDPについてのデフレータです。デフレータとは「名目価額から実質価額を算出するために用いられる価格指数」です。そして「デフレータで名目価額を除して実質価額を求めることをデフレーション」(内閣府 国民経済計算「用語解説」より引用)と呼びます。

 2つの指標とも物価を表すものですが、消費者物価指数は私たち消費者が購入するような身近なモノやサービス、GDPデフレータは経済活動全体としてのモノやサービスの価格を表したものとして理解するとよいでしょう。

 それではまず、この2つの指標の長期推移を見てみましょう。図1は物価の推移データとなります。

photo 図1 日本の物価推移(クリックで拡大)出典:消費者物価指数は「総務省統計局データ」を基に筆者が作成、GDPデフレータは「OECD統計データ」を基に筆者が作成

 大切な観点は、物価は必ず基準年に対して何倍になったかという、相対的な数値として表現されるという部分です。図1は1970年を基準値(100)とした場合の、物価の変化を表しています。

 これを見ると、消費者物価指数もGDPデフレータも1990年代中盤をピークにして、減少し停滞しています。ただ、最近になり、少し上昇傾向を示しているといえます。

 1970年時点と比べると、消費者物価指数は約3倍、GDPデフレータは約2倍になっています。全体的にモノやサービスの値段が50年間で2~3倍ほどに上がったということになります。

 また、GDPデフレータは消費者物価指数よりもずいぶんと低い数値になっています。GDPデフレータには、消費者物価指数では観測されない、企業間取引なども含まれるためこのような乖離(かいり)が起こるようです。

本当に日本は「デフレ」なのか、「物価」から見る日本の「実質的経済」の実力

消費者物価指数とGDPデフレータそれぞれの内訳

 参考までに、消費者物価指数の詳細内訳の推移グラフも見てみましょう。図2が消費者物価指数の1970年を基準値(100)としたときの、総合値を構成する各項目の推移です。

photo図2 消費者物価指数の詳細推移グラフ(クリックで拡大)出典:「総務省 統計局データ」を基に筆者が作成

 当然ですが、総合値よりも高い項目もあれば、低い項目もあります。「家具・家事用品」は「総合値」よりも大きくマイナスで推移しているのに対して「教育」は大きくプラスです。1990年代以降は全体的に停滞気味です。

 このように、消費者物価指数は各項目を案分して、1つの指標としてまとめているわけです。当然、この項目はさらに詳細の細項目を案分してまとめている指標になりますし、その細項目はさらに個別の品目の価格を案分してまとめた指標となります。例えば、「食料」は「魚介類」や「肉類」「野菜」「果物」などを総合した指標です。そして、「肉類」も「豚肉」や「牛肉」などを総合した指標となるわけですね。最終的には個別の販売価格の変動を観測したものに行き着くわけです。

 GDPデフレータも同様に、GDPを構成する項目を総合した指標となります。図3がGDP生産面を構成する産業ごとのデフレータです。1994年基準のグラフとなります。

photo図3 GDPデフレータ(生産面)の詳細推移グラフ(クリックで拡大)出典:「OECD統計データ」を基に筆者が作成

 GDPデフレータについても総合値に対して、高い項目や低い項目があります。

 注目はやはり工業(製造業)です。日本で最も規模の大きな産業の1つですが、右肩下がりで物価が下がっていることになります。1994年の水準に対して、現在は約7割という状況で、30年弱の間に3割程度も価格が下がっているという状況です。また、その他も全体的に横ばいか減少している産業が多いといえます。建設業がやや増加基調であることと、金融業が特徴的な推移をしています。私たちが普段消費者として購入したり、ビジネスで接したりするようなモノやサービスの価格と、物価指標との関係をご理解いただけたのではないでしょうか。

本当に日本は「デフレ」なのか、「物価」から見る日本の「実質的経済」の実力

日本は本当にデフレなのか

 それでは、日本の物価変動は、他の国々と比べるとどのような特徴があるのでしょうか。国際比較をしてみましょう。図4は1980年を基準値(100)としたGDPデフレータの推移です。

photo図4 1980年基準のGDPデフレータの各国グラフ(クリックで拡大)出典:「OECD統計データ」を基に筆者が作成

 日本と比べると他国は、物価が右肩上がりで上昇していることが分かります。各国の1980年時点との物価を比較すると、米国で2.6倍、ドイツで2.0倍、イタリアで5.4倍もの水準に達します。日本は1.1倍程度で、ピーク時でもせいぜい1.2倍程度です。このように、実は日本だけ「物価が上がっていない」という大きな特徴があります。

 しかも、数年程度のレベルではなく、40年近くも物価がほとんど変わっていないのです。これは「物価が安定している」と見ることもできますし「物価が上昇するのが当たり前の世界で置いて行かれている」という見方もできます。

 経済用語に「インフレーション」(以下、インフレ)や「デフレーション」(以下、デフレ)という用語がありますね。ニュースなどでも「デフレからの脱却」などと聞くこともあるのではないでしょうか。「インフレ」は物価が継続的に上昇していく現象、「デフレ」は物価が継続的に下落していく現象です。

 インフレとデフレは需要と供給のバランスによって説明されるのが一般的です。需要よりも供給が多いと、モノやサービスが売れなくなるので、企業は値段を下げてより売れるように調整するので、デフレになります。逆に供給よりも需要が多いと、企業はより高い値段をつけるようになり、インフレになります。このように、需要と供給がバランスを取れるように、物価が変動するという解釈ですね。

 さらに一般的には、デフレは貧困化を伴うと言われます。需要よりも供給が多いので、企業はモノやサービスを売れるように値段を下げますが利益を出すために人件費や経費を削減します。また、将来の需要増も見込めないため、投資も控えます。人件費(消費者の所得)や投資は本来新たな需要を生むものですので、それらを削減することはさらに需要を減らし、経済が縮小していくことになります。このようにして物価と経済が連動して縮小し続けることを「デフレスパイラル」と呼びます。

 図4を見る限りでは、日本以外の先進国は軒並み物価が上昇し続けているので、「インフレ」であることが分かります。一方で、日本の物価は横ばいです。「継続して物価が下落し続けている」というわけでもないので、デフレスパイラルとまではいえません。むしろ、ここ数年ほどは若干上昇傾向なので、「極めて穏やかなインフレ」ともいえます。

日本はデフレではなく「相対的デフレ期」

 「ファクト」を通じてここまでで見えてきたものをまとめますと「日本はデフレか」という質問に対する答えは微妙なものだといえます。以下がその理由です。

  • 継続して物価指標が下がり続けているわけではない
  • 特に近年はわずかながら上昇傾向にある
  • 消費者物価指数とGDPデフレータに乖離(かいり)がある
  • 物価指標の詳細を見ると、項目によって上がったり下がったりしている

 このようなことから、日本は30年程の間、デフレでもインフレでもない、物価が停滞した状態が続いているといえます。ただし、前回までに見てきた通り、労働者は以前よりも貧困化し、日本経済は成長している世界の中で取り残されつつある状況ですね。

 日本はデフレではないけれど、物価が停滞していて、インフレが当たり前の世界の中においては相対的に物価が下落していきますので「相対的デフレ期」とでも表現してはどうかと思います。

実質GDPとは?

 さて、「物価」についてもう少し掘り下げていきます。ここからは「物価」と関連も深い「名目値」と「実質値」について考えていきます。皆さんもニュース報道などで「実質GDPが〇%の上昇」などと聞くことも多いのではないでしょうか。その言葉の持つ意味を解説していきます。

 今まで、本連載で取り上げてきた数値は全て「名目値」です。名目値とは、観測される金額そのままの数値です。当然物価が変われば、その分「お金の価値」も変わりますね。そこで、物価の変動分だけ金額を割り引いた数値が「実質値」となります。つまり、実質値とは次のように計算される数値です。

 実質値 = 名目値 ÷ 物価(デフレータ)

 例えば10年間で名目GDPが3倍、物価が2倍になったとすると、実質GDPは3÷2で1.5倍になったということになります。

 私たち製造業の生産活動で考えてみます。例えば、ある製品を10年前は1個当たり付加価値100円で1000個作っていたとします。そして、現在は200円で1000個作っているとします。これを付加価値の合計(GDP)で見ると、10年前は10万円、現在は20万円となりますので、2倍となっています。しかし、作っている生産量は1000個で同じですね。金額としての名目上の付加価値は2倍、物価も2倍になっていますが、生産数量は変わらない状況が生まれているのです。

 実質値を求めると、このように金額によらない数量的な変化を表すことになります。逆に、名目上での成長があっても、物価が上昇していれば、実質的な成長は目減りするという状況も生まれます。次ページでは、具体的な例で紹介していきます。


本当に日本は「デフレ」なのか、「物価」から見る日本の「実質的経済」の実力

米国、ドイツ、フランスと日本の決定的な違いとは

 図5~7は、米国、ドイツ、フランスの名目GDPと実質GDPの推移を示したものです。実質GDPは1991年を基準にしています。

photo図5 1991年基準の米国の名目GDPと実質GDPの推移(クリックで拡大)出典:「OECD統計データ」を基に筆者が作成
photo図6 1991年基準のドイツの名目GDPと実質GDPの推移(クリックで拡大)出典:「OECD統計データ」を基に筆者が作成
photo図7 1991年基準のフランスの名目GDPと実質GDPの推移(クリックで拡大)出典:「OECD統計データ」を基に筆者が作成

 各国ともインフレなので、名目GDPよりも実質GDPが下回ったグラフとなっています。物価が上昇した分だけ、実質的な経済成長が追い付いていない状況が生まれています。

 同様に日本の状況も見て見ましょう。図8が日本の名目GDPと実質GDPのグラフです。

photo図8 1991年基準の日本の名目GDPと実質GDPの推移(クリックで拡大)出典:「OECD統計データ」を基に筆者が作成

 図5~7図8を見比べてみてください。何か違和感がないでしょうか。

 前者と後者の違いで明確な違いが、名目GDP(赤)と実質GDP(青)の位置が逆だということです。日本は、名目GDPよりも実質GDPが上になっています。さらに、日本は名目GDPが横ばいなのに、実質GDPは右肩上がりに増加しているように見えます。

 これらのグラフは物価と実質値の関係を説明しやすくするために、意図的に1991年基準としたものです。統計データ上は実質値とは「基準年と物価が変わらなかったとした場合の、経済活動の数量的な推定値」となるわけです。

 日本の場合は、現在よりも基準年(1991年)の方が物価が高かったので、現在は名目値よりも実質値の方が高くなっているというわけです。この場合は、1991年の物価であれば、現在は600兆円を超えるGDPに相当する経済活動をしているということになりますね。しかし、実際に観測される名目上のGDPは550兆円ほどです。

 実質値で経済を評価することは極めて重要なことだと思います。ただ、日本の場合は物価がマイナスから横ばい傾向で、実質値で評価すると名目値における本質的な停滞が隠れてしまいます。そこで、本稿ではまず名目値を優先して取り上げています。

 もし皆さんが、実質値、名目値、どちらかのデータしか見たことがなければ、もう一方の値がどのように変化しているのか、興味を持つとよいでしょう。

企業が「モノやサービスの値段を上げられていない」

 今回は、経済統計上の変化を表す指標の中で「物価」について紹介しました。日本は物価については、先進国の中で特徴的な推移をしています。つまり、1990年中頃から物価が低下し、停滞する「相対的デフレ期」が継続しています。近年はやや上昇傾向ですが、今回のコロナ禍でどうなるかは、今後見ていく必要があるでしょう。

 物価とは個々のモノやサービスの価格を総合した指標ですので、私たち企業が販売するモノやサービスの販売価格とも密接な関係があります。つまり、私たちからすると、この数十年間「モノやサービスの値段を上げられていない」ということになります。

 逆にいえば、インフレが定着している日本以外の国では、モノやサービスの値段を上げていくのが「当たり前」です。日本だけが、値段を上げられていない異常事態ということになります。これが"相対的"デフレという意味です。インフレが当たり前の世界の中で、唯一物価が停滞しているということは、相対的には物価が下がっていることになりますからね。

 では、なぜ日本では物価が上がらないのでしょうか。

 実は、今回紹介した消費者物価指数やGDPデフレータは1つの国内における物価の変動を表しただけの指標です。国際的にその国の物価が高いのか低いのかは、物価指標からだけでは分かりません。日本の物価が停滞するヒントは「為替」や「物価水準」にあるかもしれません。消費者物価指数やGDPデフレータなどの物価指標と物価水準(Price Level)は似ていますし、関係もありますが、少し違う指標です。

 そこで次回は、「為替」「購買力平価」「物価水準」について紹介していきたいと思います。

≫連載「『ファクト』から考える中小製造業の生きる道」の目次

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