松井吉三 一般売上税の歴史的展開と 「消費税」 の実務上の諸問題
付加価値税論考2014
http://www.sinfonia.or.jp/~matsui/uriagezei.pdf
一般売上税の歴史的展開と 「消費税」 の実務上の諸問題
―アメリカの付加価値税理論の源流の検討を中心として-
2014年4月3日愛知大学会計人会研修資料 報告者 税理士 松井吉三
はじめに
「消費税」の税率が2014年4月1日より、 8%となった。 2015年10月には10%になる
ことが決まっている。 わが国の消費税は5%ながら、 その普遍性と、 消費税の相対的重みか
らいって、意外に負担の重いものである。 「小さく生んで、大きく育てる」(竹下登氏発言)
ものだからといって、 税率を25%まで引き上げられるものではない。 税率の引き上げには
自から限界がある。 (後掲表 4、 表 5、 表 6、 表7参照)
付加価値税はフランスで誕生したのだが、 付加価値税の理論の源流が実はアメリカにあ
ることは意外と知られていない。 そこで、本論の目的は、アメリカにおける付加価値税の
理論的源流に遡って、付加価値税の理論の本質を明確にすることにより、 付加価値税自体
が備える問題点を洗い出し、 加えて、付加価値税の特殊日本版であるわが国の「消費税」
の実務上の諸問題に言及して、 消費税改革のあり方を根本的に問い直すことである。
従来、アメリカでの付加価値税の理論は所得型付加価値税だと言われ、 EU型の付加価値
税とは理論的に異なる事業税的なものだと類型化されてきた。 しかし、 学史的検討を加え
たところで見れば、 アメリカにおける付加価値税の理論の目指すものは、 力点の置き方の
差こそあれ、いずれも消費者への価格転嫁を想定したものであった。
制度的には、付加価値税は、フランスの 1954-55 年税制改革における投資全額控除によ
り確立する。アメリカ及び日本の付加価値税の議論がフランスの取引高税から付加価値税
への転換に大きく影響を及ぼしたものという論者もいる。 私はさらに進んで、シャウプ税
制勧告の付加価値税こそが、直接フランスの付加価値税の確立に大きく影響したものと類
推している。
アメリカの付加価値税の議論の特徴は、 次の2つに集約される。
第1に、アメリカにおける付加価値税の議論は、敵対的行動や不況対策を背景に、より
強まる所得課税に対する批判を受け、所得課税の一部の代わりか又は追加であるが、企業
が負担しないような事業 (企業) 課税の売上税の提案として、 歴史的に展開されたという
ことである。 最初の提案者である T.S.アダムスの寄与は、企業負担を極力緩和するために、
より受け容れられやすい売上税の仕組みを考案したことにある (1921年)。1930年代の半
ばにも、著名な財政学者 G. コルムによって示唆され、さらに 1940年には P.ステューデン
スキーによって、 より手が込んだものとして提案される。しかし、1910 年代には、ごく一
部の大企業や富豪が巨額の戦時利得に与っていた。戦時利得に対する課税は当然だという
国民の合意があった。経済の好調な 1920年代には、大企業や富豪は、 メロン減税といわれ
る所得税減税政策の恩恵に浴する。 1930 年代には、大不況後生じた多くの失業者に救済す
るのに、財源としての売上税は受け入れられるものではなかった。 1940年代には、大戦下、
戦時利得に対する課税を売上税で行うという考え方は拒否されることになる。
第2に、付加価値税の仕組みにおいて、売上に対する課税の重複を防ぐために、売上原
価に相当する部分の非課税を提案したことである。 売上げに対する課税であるにもかかわ
らず、売上原価を非課税とするのは、売上税からの逸脱だといってよい。そこで、アメリ
カの付加価値税の源流の議論では、 売上原価相当額の税の重複の回避は、利益説に基づき、
他者が受ける政府からのサービスによる受益分だというように正当化されるのである。
このようなアメリカの売上税の理念の下での売上原価の非課税の考え方に、資本財の非
課税を加えることで、わが国の第1次シャウプ税制勧告やフランスの付加価値税が誕生す
る。一方、減価償却費の非課税を加えることにより、第2次シャウプ税制勧告の付加価値
税やミシガン州の事業活動税が誕生するものと筆者は考えるものである。
最終的には消費者が負担するという意味で、 付加価値税の種類や型の違いは、ささいな
ものかも知れない。しかし、分配的観点からは、売上税としての付加価値税よりは、部分
的に企業が負担する可能性を残した企業税としての付加価値税の方が諸国民に与える影響
はより少ないものといえそうである。 企業税としての税の帰着は第 1 次に企業に及ぶから
である。 独占的大企業といえども、利潤率に支配されて身である。 グローバルな企業展開
のなかで税の完全転嫁は困難である。
「消費税」改革のあり方に言及すれば、 事業 (企業) 課税的側面を重視するのがすくな
くとも民主的改革だといえるであろう。 課税ベースにしても、売上高ではなく付加価値 (ま
たはグロス・マージン) に統一すべきように思われる。 実際、 EU以外の国々では、そのよ
うなスタンスで改革を行っている国もある。
このような能力説的な考え方を援用すれば、 仕向地主義の消費税だという理屈により優
遇されている種々の措置 (輸出免税)とか、 付加価値税にはなじまないという理由で非課
税とされている金融サービスに対する非課税についても、廃止を含めて根本的に問い直す。
必要があるものと思われる。 このほか、賭博事業、 補助金への課税といった付加価値税、「消
費税」に共通につきまとう問題点についても、 居住者課税主義やマージン課税といった企
業課税の側面の適用により問題の多くを解決することができるものと思われる。
私見であるが、 「消費税」に現存する大きな不公平を取り除かない内に、 税率の安易なア
ップを承認することはできない。 10%への税率引き上げは撤回されることを望むものであ
る。本稿は研修のテキスト用に過去の未発表論文の 1 部を組み直したものである。項目間
でボリュームの差があることなど、 ご容赦願いたい。 本稿の目次は下記のとおりである。
はじめに
第1部 事業課税と売上税の理論的地平
I T.S.アダムスの付加価値税の示唆
II G. コルムの付加価値税の示唆
III
IV 事業(課税)の付加価値税の実例
P. ステューデンスキーの事業(企業)課税論の提案
1 シャウプ税制勧告
2 ミシガン州事業活動税
V 結語 事業 (企業) 課税としての付加価値税の新たな地平
第2部 売上税の歴史的展開と 「消費税」
VI 売上税の歴史的展開
VII 付加価値税の2類型と日本の消費税
第3部 「消費税」 の実務上の諸問題
VII
国境を超える取引一輸出免税一
IX
金融 (仲介) サービスへの課税
X
賭博への課税
XI
補助金への課税
IX 終わりに一消費税改革へのインプリケーション
I トーマス・エス・アダムス (Thomas S.Adams) の付加価値税の示唆
1 付加価値税論の嚆矢
付加価値税は、1954-55年の税制改革で、 フランスで誕生し、その後、 1960年代末期か
ら世界各国に伝播する。 しかし、 付加価値税の理論の嚆矢はアメリカに見られる。
1. ジョルジュエグレは、 フランスの増価税の提案者ロジェ (M.Roger)や日本への付加価値
税の提案者カール S・シャウプ教授らに対して、 「彼らは企業のグロス・マージンないし
付加価値に対して課せられる税を発明したのであって、 企業の製品や役務に対して課せら
れる税を発明したのでない・・。 それは一種の事業税 (une sorte de taxe professionnelle)
なのであって、その計算方式によれば、 仕送状 (les factures)への記載も、価格の上乗せも、
他の納税者への転嫁も、 輸出の際の還付も認められなかった。 同一価格の二つの商品が消
費者段階で必ずしも同一税額を負担するとは限らず、 輸入品と輸出品との間の公平も守ら
れていなかった。」と述べている。 Georges Egret, LA TVA, 2nd edition, Collection QUE
SAIS JE? No 1748, 1982 (Original Copyright by Presses Universitaires de France,
1978),p.20. ジョルジュエグレ著荒木和夫訳『付加価値税』、 白水社, 1985年、25ページ。
しかし、シャウプによる付加価値税の勧告はアダムスの一般事業売上税の1つの側面で
ある事業税的側面を継承したものである。 菊池威 (タケシ) は、 「1950年の日本における附
加価値税立法化にあたって日米で発展せられた研究一略がローレの理論に引継がれて
フランスに移入されたとみることができないかと、 また本書がその関係を明らかにしてく
れるのではないかと長い間考えていたからである。 しかし、この期待はパラパラとページ
をめくっただけで早くも裏切られてしまった。」 菊池威 「モーリス・ローレ著 『付加価値税
論』 Lauré, M:La Taxe sur la Valeur Ajoutée, (Recueil Sirey, 1952, VII+133p)」 (亜細亜大
学『経済学紀要』 第1巻第12号、1975年、 179 ページ。この期待は、筆者が、 1957年出
版のローレの著書 『付加価値税入門』 をパラパラとめくったときも、同様に裏切られた。
日米の参考文献は何一つ参考にされていなかったからである。 Maurice Lauré Au Secours
de la T.V.A, Presses Universitaires de France Paris, 1957, pp.1-153。 それでも 菊
池威は、「ローレが当時の日米における付加価値税の研究に通じていたと思われるふしを
見出すことができる。 『生産税』 改善案について、 ローレは、売上にかかる税から仕入れに
かかる税を差引いて納付する方法が結果として経済学用語の 『付加価値』 に一定率で課
アメリカにおける最初の提案は、 1921 年のトーマス・エス・アダムス (Thomas S.
Adams) の売上税の示唆である。 T.S. アダムスによれば、 所得税の制度そのものの強制が
問題だというスタンスであり、長い目で見れば、所得税の一部の支出税や一定の一般売上
税への転換を主張する。 この売上税が付加価値税の端緒をなす示唆だと一般に解釈されて
いる。 次に、 1935年に、 ゲルハルト・コルム (Gerhard Colm) が失業補償 (unemployment
compensation) をファイナンスするのに保険料や賃金簿税 (payroll tax) や資本税の代わ
りに付加価値税を提案する。 続いて、 1940 年に、ポール・ステューデンスキー (Paul
するものと考えていたように思われるからである。」 (菊池威同上論文、 184ページ) と ロ
ーレにおける経済学用語の付加価値の影響を示唆しておられる。 1954-55年の税制改革で創
設された、 フランスの付加価値税が 「付加価値に対する税」 (de la taxe sur la valeur
ajoutée) と名称を標榜しているのは、まさしく、 アメリカや日本の議論を参考にしている
ものだと思われる。 John F. デューは、 1957年の著者 『売上税』 のなかで、 1921年に付加
価値税を示唆した T.S. アダムスによる、 アメリカにおける最初の提案が、 「売上税債務から、
購入に対して支払った税額を控除するフランスにおいて、 いまや使用されている。」と述べ
ている。 John F. Due, Sales Taxation, Routledge and Kegan Paul Ltd., 1957 (Second
Printing, University of Illinois Press, 1959), p.138。 単一税率を想定した場合、 税の累積の
排除が資本財に及べば、売上税から購入税からの接近でも、付加価値に対する課税でも、
おおまかな納税額は同じだからである。
2.T.S. アダムスは1921年の論文の前に 1917 年に個人所得税の1部に代わる税として、「事
「業所得税」 (the business income tax) を提案しているが、 その事業所得税は個人所得税と
並行して存在する、 市場を維持する政府のコストを負担するという応益主義のルールに基
づく、物に対する (in rem) 税であり、 団体に対する税で、 個人に対する税ではないと主
張されたものである。 Thomas S. Adams, "The Taxation of Business," Proceedings of the
Eleventh Annual Conference under the Auspices of the National Tax Association,
National Tax Association 1917, pp.185-194. この事業所得税は売上税だとは明確に示され
ていないので、 付加価値税の創始とは認められていない。
菊池威 「日本とフランスの付加価値税」 井出文雄、 大淵利男、 石村暢五郎、 中村一男『財
政の原理と現実』 千倉書房、1986年、 241-317 ページ。
3 Thomas S. Adams, "Fundamental Problems of Federal Income Taxation," The
Quarterly Journal of Economics, August, Vol.35,1921,p.553.
4.G. コルムは、 失業保険料 (payroll contributions) や賃金簿税 (payroll tax) それに資本
税 (capital taxes) の転嫁について検討を加え、 結論として、付加価値税が労働集約産業と
資本集約産業の負担を平等化すると述べている。 Gerhart Colm, Methods of Financing
Unemployment Compensation, Social Research, Vol.2, No.2 May.1935 ,p.161.G. コルム
の1935年の有名な論文では、資本主義の発展段階における 「生産の協力者」としての国家
の段階では、一般的事業税 (a general business tax) の尺度として、 「利潤動機によって導
かれる市場向け生産の分野では 『製造による付加価値』を尺度にして測れば、平等性が十
分計られるであろう。」 (Gerhart Colm The ideal tax system, Social Research, Vol.1, No.
3 August.1934.p.329. ゲルハルト・コルム著木村元一、 大川政三、 佐藤博訳 『財政と景気
政策』 弘文堂、1957年、56ページ) として、企業課税の付加価値税を示唆している。 ただ、
G. コルムの想定する付加価値税は比例税率ばかりではなく、 種々の産業部門の異なるリス
アメリカにおける最初の提案は、1921年のトーマス・エス・アダムス (Thomas S.
Adams)の売上税の示唆である。 T.S. アダムスによれば、所得税の制度そのものの強制が
問題だというスタンスであり、長い目で見れば、 所得税の一部の支出税や一定の一般売上
税への転換を主張する。この売上税が付加価値税の端緒をなす示唆だと一般に解釈されて
いる。 次に、1935年に、 ゲルハルト・コルム (Gerhard Colm) が失業補償 (unemployment
compensation)をファイナンスするのに保険料や賃金簿税 (payroll tax) や資本税の代わ
りに付加価値税を提案する4。 続いて、 1940 年に、ポール・ステューデンスキー (Paul
するものと考えていたように思われるからである。」 (菊池威同上論文、 184 ページ)と、ロ
ーレにおける経済学用語の付加価値の影響を示唆しておられる。 1954-55年の税制改革で創
設された、フランスの付加価値税が「付加価値に対する税」 (de la taxe sur la valeur
ajoutée)と名称を標榜しているのは、まさしく、アメリカや日本の議論を参考にしている
ものだと思われる。 John F. デューは、 1957年の著者『売上税』 のなかで、1921年に付加
価値税を示唆した T.S. アダムスによる、 アメリカにおける最初の提案が、 「売上税債務から、
購入に対して支払った税額を控除するフランスにおいて、 いまや使用されている。」と述べ
ている。 John F. Due, Sales Taxation, Routledge and Kegan Paul Ltd., 1957 (Second
Printing, University of Illinois Press, 1959), p.138。 単一税率を想定した場合、 税の累積の
排除が資本財に及べば、売上税から購入税からの接近でも、付加価値に対する課税でも、
おおまかな納税額は同じだからである。
2. T.S.アダムスは1921年の論文の前に 1917年に個人所得税の1部に代わる税として、「事
業所得税」(the business income tax) を提案しているが、その事業所得税は個人所得税と
並行して存在する、市場を維持する政府のコストを負担するという応益主義のルールに基
づく、物に対する (in rem) 税であり、 団体に対する税で、個人に対する税ではないと主
張されたものである。 Thomas S. Adams, " The Taxation of Business," Proceedings of the
Eleventh Annual Conference under the Auspices of the National Tax Association,
National Tax Association 1917, pp.185-194. この事業所得税は売上税だとは明確に示され
ていないので、 付加価値税の創始とは認められていない。
菊池威 「日本とフランスの付加価値税」 井出文雄、 大淵利男、 石村暢五郎、 中村一男『財
政の原理と現実』 千倉書房、1986年、 241-317 ページ。
3.Thomas S. Adams, "Fundamental Problems of Federal Income Taxation," The
Quarterly Journal of Economics, August, Vol.35,1921, p.553.
4 G. コルムは、失業保険料 (payroll contributions) や賃金簿税 (payroll tax) それに資本
税(capital taxes) の転嫁について検討を加え、結論として、付加価値税が労働集約産業と
資本集約産業の負担を平等化すると述べている。 Gerhart Colm, Methods of Financing
Unemployment Compensation," Social Research, Vol.2, No.2 May. 1935, p. 161.G. コルム
の1935年の有名な論文では、資本主義の発展段階における 「生産の協力者」としての国家
の段階では、一般的事業税 (a general business tax) の尺度として、「利潤動機によって導
かれる市場向け生産の分野では 『製造による付加価値』を尺度にして測れば、 平等性が十
分計られるであろう。」 (Gerhart Colm, The ideal tax system," Social Research, Vol.1, No.
3, August.1934.p.329. ゲルハルト・コルム著木村元一、大川政三、佐藤博訳『財政と景気
政策』 弘文堂、1957年、 56ページ)として、企業課税の付加価値税を示唆している。ただ、
G. コルムの想定する付加価値税は比例税率ばかりではなく、種々の産業部門の異なるリス
ふ
v katas, o kto |
Studenski)は事業(企業)課税の根拠を詳細に分析して、企業に対する課税としての付加
価値税を提案する。 以上3人のなかでも、 T.S. アダムスと P.ステューデンスキーが重要な
提案者だということはよく知られており、2人の付加価値税の理論については、わが国でも
幾多の先行研究が存在する。 また、彼らが示唆または提案する付加価値税が企業課税の性
クに配慮した累進的価値税 (a graduated value tax) を許容する。 Gerhart Colm, "Methods
of Financing Unemployment Compensation, Social Research, Vol.2, No. 2
May.1935, p.161-162. P. ステューデンスキーはG.コルムの議論を企業税の根拠論のなかに
1部取り入れていると思われる。 しかし、 G. コルムの特徴である歴史的認識が消え去ってお
り、事業課税の論拠が並列的に提示されているという点では退歩である。 遠藤三郎によれ
ば、 G.コルムは受益負担原則を負担配分原則に加えたが、 「この応益課税は、今日一般的に
は地方税特有の課税原則として、 税制全体としては応能負担の原則を前提とした上で、 中
央・地方間の税源(種) 配分の原則としてのみ有効性が認められうるものである。」(遠藤
三郎 「租税本質論と現代税制」(愛知大学 『法経論集・経済・経営扁』 第86号、 1978年3
月)、18ページ)と述べている。 G. コルムの付加価値税は、 製造による付加価値は T.S.アダ
ムスの近似純所得に似通っている。 事業税としての売上税の主張は所得型付加価値税の元
祖だと言われる P. ステューデンスキーの論文に大きな影響を与えている。本稿では、 G.コ
ルムの付加価値税の提案をP.ステューデンスキーの論文に影響を与えた論者として、P.ステ
ユーデンスキーを取り扱うなかで、付随的に取り扱うこととする。
5 John F. Due の説明によれば、 1919年に、 W. von ジーメンス (W.von Siemens)が、 企業
の付加価値に対して税率を直接に適用する新売上高税 (the newly-introduced
Umsatzsteuer) を提案した。 しかし、税額の計算方法として控除法を使用しているという
点で、フランスで誕生した付加価値税に直接つながらないので今回の検討からは除外する
こととしたい。 John F. Due, Sales Taxation, Routledge and Kegan Paul
Ltd., 1957(Second Printing, University of Illinois Press, 1959).p.66 参照。 原著は、W.von
Siemens, Veredelte Umsatzsteuer (Siemensstadt, 1921).
6 朴源「T.S.アダムスの付加価値税論」(鹿児島大学『経済学論集』 第41号、1994年12月)、
1-13 ページ。 この論文はこれまでの先行研究の内、 T.S. アダムスの主張を経済的、歴史的
背景を交えて、最も詳細に分析したものである。 朴源は、後年、 T.S.アダムスの付加価値税
を「企業課税を念頭に置きながらも、それにはなじみ難い税額控除方式を考えていた。」 と
総括している。 売上税をにらんだ事業税」(朴源「付加価値税における利子の取り扱い一消
費型と所得型の比較-」 (九州大学『経済学研究』 第 70 巻第 2・3合併号 2003年11月)、
134ページ)と総括しておられる。 井藤半彌 「附加価値税の問題點」『経済研究』第1巻第
4号、岩波書店、1950年10月)、237-245ページ。 井藤半彌は「営業税」と「売上税」の
二重性を付加価値税の本質だと正鵠を得た捉え方をしておられる。 井藤教授によれば、フ
ランスで導入された付加価値税は付加価値に対する課税ではないから、付加価値税ではな
いと述べている (井藤同上論文 245 ページ)。 私見であるが、現在においても、わが国の付
加価値税理論の本質論はこの井藤論文より進歩しているものとは到底言い難い。 ちなみに、
格を帯びるということで、わが国では、「法人税」の根拠論としても知られている。
井藤半彌はアメリカの付加価値税理論を日本に紹介した最初の人である。 井藤半彌「付加
価値学税の発展」 井藤半彌『財政学研究』 千倉書房、1950年。井藤教授の所説の先駆性、
合理性については、菊池威「日本とフランスの付加価値税」 井出文雄、大淵利男、石村暢
五郎、中村一男『財政の原理と現実』千倉書房、1986年、 241-317 ページを参照されたい。
井藤半彌は「・ 転嫁が不明確のときは、一応は直接の納税者が負担するとなし、そ
の間の負担の公平ということを中心に考えねばならぬのである。」(井藤半彌「付加価値税
の本質とその修正」 『財政学研究』 千倉書房、1950年、 140ページ)とした卓見を述べてい
ね。
T.S.アダムスの提案については、 根岸欣司の多少立ち入った紹介がある。 根岸欣司「付加
価値税と地方自治 (上) - アメリカにおける付加価値税論を中心にして-」 (東京市政調査
会『都市問題』 第 67 巻第7号、1976年7月)、73-85ページ。「付加価値税は戦時恐慌下
の財政資金調達の有力な手段として提案されている。
国家と事業者との共同体
的意識を背景にして 『体制的危機』をのり切るという概念上の意義を付加価値税はもって
いるのである。」 (根岸同上論文、 77ページ)。 しかし、 T.S. アダムスの論述を細かく追えば、
付加価値税は戦時ばかりでなく、長い目で見て、次世代において、 事業所得税に代わる恒
久的制度、安定的財源として示唆されていることが明らかである。 他に、 根岸欣司「アメ
リカにおける付加価値税論の展開 (1) - 1950年代まで-」 (富士短期大学 『富士論叢』 第20
巻、1975年)、 35-67ページ。
箕浦格良の下記論文にも、 T. S. アダムスや P. ステューデンスキーの所説が部分的に紹介
されている。箕浦格良「附加価値税の本質」(『立命館経済学』第1巻第1号 1952年2
月、 59-88 ページ。箕浦格良「事業課税の外形と本質」 (『立命館経済学』 第2巻第2号、
1953年4月、 16-51ページ。
P.ステューデンスキーの企業(事業) 課税の8つの根拠については、 菊池威 「付加価値税
の理論的研究」 (亜細亜大学『経済学紀要』 第1巻第4号、1969年)、 137-164ページにも、
要点が紹介されている。
関口智は、シャウプ税制勧告の源流として、 1941 年のアメリカ財務省租税研究部の
「Federal Tax on Net Value Added」 という報告書を紹介している。 そのなかで、 P.ステュ
ーデンスキーの議論を紹介している。 関口智「シャウプ勧告の附加価値税の源流―アメリ
カ財務省報告の政策意図と現実」 『地方税』 地方財務協会、第49巻第9号、1998年10
月、107-145 ページ。関口教授の論文では、アダムスの提案に見られる付加価値税の売上税
的側面について、立ち入って言及されていないのが残念である。
7 法人税の根拠としては、畠山武道 「アメリカにおける法人税の発達 (四-<法人-株主>
課税を中心に-)(『北大法学論集』 第28巻第2号、1977年10月)、29-95 ページのなか
で、 P. ステューデンスキーの企業課税の根拠が引用、紹介されている。 政府税制調査会でも、
8
なかでも、 T.S. アダムスはアメリカの付加価値税論の先駆者であり、 彼の示唆が今日の付
加価値税に与えた影響は計り知れない。 そこで、本稿では最初に、 T.S. アダムスをとりあげ、
次に、 G. コルム、さらに、コルムの示唆を受け継いで付加価値税を提案した P.ステューデ
ンスキーの付加価値税の議論を検討する。 さらに、 アメリカの付加価値税の議論は実際の
制度の構築にも影響を与えており、その代表例として、 日本のシャウプ税制勧告とミシガ
ン州の事業活動税を検討することにしよう。
2 トーマス・エス・アダムス(Thomas S.Adams) の超過利潤税廃止論
(1)第1次大戦参戦と超過利潤税の導入
T.S.アダムスが付加価値税を示唆した20世紀初頭の税制の状況について概括しておくこ
とにしよう。
アメリカの個人所得税については、南北戦争 (Civil War) の折、 リンカーンが 1862年
に署名した包括歳入法で導入され、 その後1872年に失効して、 廃止された経緯がある。 法
人に対する税については、個人所得税の再導入 (1913年) より前に課税されているが、そ
れらの内実は、法人所得に対して課税する税というよりも、 法人に対する関税や内国消費
税であった。 実際、導入時の法人税のネーミングは「法人消費税」 であった。内国消費税
であっても所得から支払われる以外にないことの証左であろう。
もとより、所得そのものが州間でバラツキが大きいので、連邦税の1部が州に交付され
るのは、州が 1つの国家である連邦制度上違憲ではないかという問題がつきまとい、 法人
税・所得税の発展は制約されていた。 法人所得税については、 やっと、 1909 年に、 違憲判
決が解除され、1911年には最高裁により合憲判決が下される。
個人所得税については、違憲判決を憲法修正により回避しようとする憲法修正案(第 16
条案)が議会を通過し、 1913年10月3日にウィルソン大統領によって署名され、関税引
下げ法(アンダーウッド関税法)の一環として連邦所得税が制定されたという経緯がある。
所得税が制定される前の連邦収入は関税や内国消費税に多くを依存しており、これらが、
大衆増税になっているという批判が所得税の制定を正当化したともいわれる。 個人に対し
ては、所得税の制定時から、人的控除 (夫婦 4,000 ドル、 個人 3,000 ドル) を備えた普通
税(1%)と付加税 (1%から6%の超過累進税率) が課されている。
一方、1913 年の法人所得税制定当初の税率は5,000 ドルを上回る額に対して1%という
法人税の基本的仕組みに関する改正の検討に際して、 T.S.アダムス、 P. ステューデンスキー、
G. コルムらの主張が紹介されたことがある。 税制調査会「法人に対する課税の根拠に関す
る諸学説〔昭 44.10.17Ⅱ・7-1〕」(『昭和45年4月 税制調査会関係資料集』)、122-127ペ
ージ。それらは、わが国では、法人税率の基本税率 (とくに留保分) の上昇の根拠として
利用された感がある。
8 野津高次郎 『米国税制発達史』 有斐閣、 1939年、 55 ページ参照。 野津氏は次のように述
べる。「1913年10月の連邦所得税法は、その後度々の改正を経たけれども、その根本精神
は今日に至るまで継承さている・・」(同上書 55ページ)。
極めて低い税率が適用されるものとなっている。 1%というのは個人所得税の基本税率と
同率である。税率は、1916年には 2%、 1917年には 6%、1919年には前年の利潤の12%
に引き上げられている。 法人に対しては、 課税所得に対して一律に比例税率が適用される。
付加税に相当する超過利潤税 (excess profit tax) が課されるようになったのは、 1917年3
月の増税法からである。ちなみに、アメリカでは、1950年代には、法人税の最高限界税率
は50%を超える。 ちなみに、 2011年現在では 35% (配当分 15%)である。
超過利潤税は、戦時下にあって、巨額の偶発的利益を計上する企業に対して、戦前の利
潤を超える利潤部分に対して課すものであった。 アメリカにおける最初の超過利潤税は、
1917年3月3日に、 1916年9月8日制定の 「軍需品製造業者税」をすべての企業に発展
的に拡大したものである。 戦前水準の通常利潤を超える利潤を罰則的に課税するものであ
る。超過利潤税の課税ベースは、 純所得 5,000 ドル、及び資本投資額の一定割合を超える
利潤部分とされる。 超過額に応じて異なった税率が適用される。 但し、 控除が認められる
資本投下額の一定割合については、投下資本に対して 8%の普通控除 (normal deduction)
または普通収益 (normal return) が想定されていた10
当初の超過利潤税の税率は8%であったが、 1917年10月に制定された増税法では、戦前
利潤を超過する額から3,000 ドルを控除した企業利潤に対して 20%から 60%に至る超過累
進税率が戦時利潤税として法人に適用されることになる。 ちなみに、1917年10月増税法
では、個人営業者にも戦時利得より 6,000 ドルを控除した額に、 同率の戦時利潤税が課さ
れるようになる。
資本収益率というのは企業の個別事情によって異なる。 そこで、 そこで、 1918年に、部
分修正が施され、 超過利潤と戦時利潤とを別々に算定するようになる。 超過利潤について
の課税ベースは、課税年度における投下資本の 8% 及び 3,000 ドルだとされる。戦時利潤に
ついての課税ベースは、 1911-13年の3ヵ年における戦前平均純所得、並びに、 3,000 ド
ルを控除した残額だとされる。 但し、課税年度の資本が戦前年度の資本よりおおきいとき
は、資本差額の1割を戦前平均所得に加え、課税年度の資本が小さいときは、 資本差額の1
割を戦前所得から控除するという調整がなされる。野津高次郎によれば、「投下資本の増減
より生ずる純所得の増減を調節するものとす。 投下資本には、前課税年度までの未配当利
益を包含す」 と説明しておられる。 また、渋谷博史の説明によれば、「つまり、超過利潤
を基礎とし、それで把握できないほどの莫大な戦時利潤がある場合には戦時利潤税を補完
的に適用するという構造である12。」と述べる。 超過利潤税賦課に際しては、基準期間の取
9 Jim nunns," The Top Total Income Tax Rate on Corporate, " Tax Notes, June 6,2011,
p.1081. ちなみに、2003年までは配当分に対しても、通常の法人税率が課税されていた。
10 Thomas S. Adams, "Should the Excess Profit Tax Be Repealed ?," The Quarterly
Journal of Economics, Vol.35, May, 1921, p.364.
11 野津高次郎『米国税制発達史』 有斐閣、 1939年、 107ページ。
12 渋谷博史『現代アメリカ税 史: 審議過程と議会資料』 丸善株式会社、1995年、19ペ
-ジ。
り方、正常利潤率いかんで、 恣意性が入り込む危険を孕んでいる。 当時の論者によれば、 「そ
こで実際当時行なわれた調査によっても、超過利潤税は戦前に繁栄し、戦時中の経営拡張
が比較的緩慢な企業が有利な立場に立ち、これに反して戦時中の経営拡張に積極的な企業
が不利であったこと、法定の基準たる資本の平均利潤が小経営にとって大経営より不利で
あること、などが指摘されていた 13。」と評価される。
超過利潤税の源流は、1863年にジョージア州で採用された、 資本ストックに対して8%
を超える利潤に対して5%から25%までの税率で課税された累進的利潤税である。 1911年
には、ウィスコンシン州の一般所得税 (general income tax) のなかに、個人に適用されて
いた累進所得税との課税均等化のために、 超過利潤税が導入されている 14。
ちなみに、第1次大戦参加の際に始まった超過利潤税は1921年12月31日をもって廃
止される。 しかし、その後も、第2次大戦時、 朝鮮戦争時にも導入されている。いずれも
敵対関係などの困難が終結した段階で廃止されている。 この意味で、歴史的に観察すれば、
超過利潤税は戦時緊急税制の最たるものであった。
アメリカに先だって、イギリスでは、第1次大戦中の1915年に超過利潤税 (excess profits
duty)が導入されている。 その後も、第2次大戦中には超過利得税 (E.P.T)、 1952年には超
過利潤課徴(excess profits levy) と名称を変え、敵対行動の開始に合わせて導入され、そ
の終結に至って廃止される。
T.S.アダムスは、 付加価値税を示唆した論文発表の約半年前の1921年3月に、 論文 「な
ぜ超過利潤税は廃止されるべきか 15? 」 という超過利潤税廃止の論文を出版している。 しか
し、付加価値税との関連においては、 後に発表される著名な論文「連邦所得課税の基本的
諸問題16」に比較して、これまであまり重要視されてこなかったように思われる17。 前者の
論文において、彼は過度の超過利潤税が利潤動機の排除を目指すことで貯蓄形成を阻害し
ていること、また、所得課税の税務行政の劣悪性と制度の不備が課税の公平を阻害してい
ることを指摘している。
また、 T.S. アダムスは、 1917年の全米租税協会の報告論文18で、個人所得税とは別個の「企
13 森恒夫 『現代アメリカ財政論』 日本評論社、1979年、 75 ページ(原典は、Büchner, Die
Finanzpolitik und das Bundessteuersystem der Vereinigten Staaten von Amerika von
1789 bis 1926,SS.300-301)。
14 Thomas S. Adams, "Should the Excess Profit Tax Be Repealed ?," op.cit., pp.365-366
参照。 それもまた、 やはり、 法人の課税所得と、所得の獲得のために使用・採用されてい
る固定資産の価値との比率をベースにしたものであった。
15 Thomas S. Adams, "Should the Excess Profit Tax Be Repealed ?, " The Quarterly
Journal of Economics, Vol.35, May, 1921, pp.363-393.
16 Thomas S. Adams, "Fundamental Problems of Federal Income Taxation," The
Quarterly Journal of Economics, Vol.35, August, 1921, pp.527-556.
op.cit.p.535 参照。
17 朴源「T.S.アダムスの付加価値税論」 (鹿児島大学『経済学論集』 第41号、1994年12
月、1-13ページ)に多少立ち入った紹介が見られる。
18 Thomas S. Adams, " The Taxation of Business," Proceedings of the Eleventh Annual
業(事業)純所得税」を主張している。 かかる企業(事業) 純所得税は、後に付加価値税
の最初の示唆だと言われる「近似純所得税」にネーミングにおいて極めて類似する。この
事業純所得税はまだ売上税的側面があるとはとくに主張されていないものであるが、「近似
純所得税」の少なくとも形式上のモデルとなったことだけは疑いないであろう。
筆者は、アダムスの付加価値税の示唆が、とりわけ超過利潤税に対する批判や嫌悪にあ
り 19 その枠組みとして「純所得税」 なる造語が過去の引き出しから持ち出されたものだと
考えている。次に、T.S.アダムスの超過利潤税廃止論の根拠を紹介することにしよう。
(2) 超過利潤税の理論上の問題点
T.S.アダムスによれば、超過利潤税の即時に廃止すべき理由は下記の4つである。
1つ目は反対論が日増しに強まり、 かっての賛同者すら反対にまわるほどの時代的状況で
ある。税収は急速に減少し、同法は、近い将来は増収装置よりも非課税の法令になる見込
みがある 20
2つ目は超過利潤税の継続が所得税そのものの存続を危うくするということである。 アダ
ムスによれば、所得税の崩壊は政治的悲劇に属する。 行政面で成功する所得税は財政民主
主義の本質に適うものである。 所得税は主要な税でなくなっても、連邦収入の重要な部分
を満たすことには変わりがない。 通常の累進的所得税の正しい適用の基礎を学ぶことが肝
要である21
3つ目は、超過利潤税と所得税の両方の行政が崩壊していることである。 1917 年法の下
での、より大きく且つより重要な申告書が最終的に監査されず、 申告書提出の3年後の 1921
年3月1日までには確定したことを言っている22。
4つ目は、投資資本が、 主に、 超過利潤税によってつくられた行政上の負担に反応したこ
とである。実際、 1917 年から1920年までの投下資本は超過利潤税の廃止いかんで決定さ
れるに違いないことが識者によって指摘されている。 事業資本と一般的財産からの所得、
それに、多種多様な投資や多くの活動をうまくやっているアメリカ人の所得を識別するこ
とは、現在の行政上の権力を超えるものだと指摘する23。
このほか、超過利潤税そのものの理論上の問題がある。アダムスは、次の4つの問題を
例示している。
Conference under the Auspices of the National Tax Association, National Tax
Association 1917, pp.185-194.
19 朴源氏は、アダムスが1917年には超過利潤税について存廃を留保した立場であったのが
1921年には批判論に転回したと述べている。 朴源 「T.S.アダムスの付加価値税論」、9ペー
ジ参照。
20 Thomas S. Adams, "Should the Excess Profit Tax Be Repealed ?," op.cit., p.369 参照。
21 Thomas S. Adams, "Should the Excess Profit Tax Be Repealed ?," op.cit., pp.370-371
参照。
22 Thomas S. Adams, "Should the Excess Profit Tax Be Repealed ?," op.cit., p.371 参照。
23 Thomas S. Adams, "Should the Excess Profit Tax Be Repealed ?," op.cit., pp.374-375
参照。
10
:
理論上の問題の1つ目は、投資資本の定義上の問題である。投資資本が厳密に歴史的且
つ投資時の原価ベースで決定されたことである。
理論上の問題の 2つ目は、過去に払いすぎた超過利潤税額の控除が容認されなかったこ
とである。
理論上の問題の 3つ目は、超過利潤税について、法人に課税が限られており、個人への
適用ができないということである。 実際、アダムスが財務省の統計を引き合いに出した
統計結果で見れば、超過利潤税の負担は大法人よりも小法人の方がより重い。 $20,000 未満
の投資資本階級の小法人で見れば、投資資本に対する純所得の割合が、20%未満に位置す
る企業が全体の 5.1%、20%以上 40%未満に位置する企業が全体の 35.9%、40%以上 60%
未満に位置する企業が 28.1%、 60%以上の企業も 30.9%ある。 一方、 $5,000,000 以上の投
資資本階級の大企業でみれば、 同割合は、20%未満が全体の85.7%、 20%以上 40%未満が
全体の 14.3%、40%以上の企業の割合はゼロである。これらが、いかほどの税負担率に相
当するかというと、投資資本に対する純所得の割合が20%の場合には、8%の控除が期待で
きるので、純所得に対する超過利潤税の割合は 12.25%になる24。
理論上の4つ目の問題は、借入資本を投資資本から除外するとである25。 1つ前の問題の
「個人を取り扱う上での誤り」と相い関連する26。 経済の発展にはより大きな資本が必要で
あり、他人に支払利子を払っても、それ以上の企業者利得が残れば資本投資は行われるか
らである。
(3) 超過利潤税の将来像
S
T.S.アダムスによれば、 超過利潤税は相対的に高度に資本化された投資、 とりわけ無形資
産からの確実な所得に優しいとは言いがたいものである。また、所得税についても、貯蓄
者、労働者、起業家にとって完璧でなければならない。 投資や事業に対する抑圧効果
(repressive effects)は修正されなければならない。そうでなければ、人々は貯蓄しなくな
るであろうし、免税債に対する投資を除いて、投資しなくなるであろうと指摘する。また、
所得が貯蓄され、再投資されるケースでは、法人と他の納税者を同等に取り扱わなければ
ならないと述べている27。
さらに、事業(企業)課税としての所得税の必須の変革のためには、生産目的に使用さ
れる所得は享楽や消費に使用される所得よりも低い税率を適用するということは決して不
24 Thomas S. Adams, "Should the Excess Profit Tax Be Repealed ?," op.cit., p.385 参照。
原資料は、 Hearings before Committee on Ways and Means, House of representatives,
on the proposed Revenue Act of 1918, Pt. I, pp.41,42 による。
25 第1次大戦期のアメリカの超過利潤税の計算の基礎としての投下資本は、「現金出資額+
現物出資額+払込剰余金・〔処分済〕利益剰余金十一定の無形資産額という算定式で決定さ
れた」醍醐聰「減債積立金による代用償却から正式の減価償却への移行」 (京都大学『経済
論叢』 第114 巻 第5・6号、 1974年11月)、46ページ。
26 Thomas S. Adams, "Should the Excess Profit Tax Be Repealed ?, "op.cit., p.385 参照。
27 Thomas S. Adams, "Should the Excess Profit Tax Be Repealed ?," op.cit., p.392 参照。
11
:
可能ではないと言う28。 アダムスは、超過利潤税と近接する税の検証も超過利潤税と同様に
公平になされるべきこと。 税制の体系の決定や、いかに普通収益や普通控除を確定させる
かについて宣言されるまでは、われわれは、超過利潤税の保持や廃止の後の再導入を問う
権利を持ち合わせないとして論文を結んでいる29。
T.S.アダムスによれば、 超過利潤税は、行政面や理論面から多くの問題を抱えている。し
かも、利潤に対する過大な課税が投資、 貯蓄を抑圧する。 問題点の多くを行政の裁量の拡
大により救済することはアメリカでは不可能であり、 廃止が正しいものとされているよう
である。しかし、超過利潤ばかりでなく普通利潤の1部でさえ、 投資・貯蓄を抑圧する場
合がある。そこで、彼は、次の著名な論文で、所得税の1部に代わるものとして付加価値
税の端緒と言われるものを示唆することになる。
3トーマス・エス・アダムス (Thomas S. Adams) の近似純所得税論の示唆
(1) 所得税の付加税 (surtax) の批判
①超過付加税率と免税債(tax-exempt securities)、並びに租税回避
・超過利潤税に対する不満はそのまま所得税の基本的問題にも援用される。 1921年に出版
された有名な論文 「連邦所得税の基本的な諸問題」のなかで、 T.S.アダムスは、 所得税の付
加税部分については、比較的高い非課税枠を備える 「支出税」 (expenditure tax) に転換す
べきだとし、一方、 普通所得部分の所得税については、純所得 (net income) に対する課税
分として、「近似純所得」 (approximate net income) に対する低率課税への転換を提案す
る30。
第1次大戦後、 所得や利潤に対する課税は税収面で劇的に増加したのにもかかわらず、
リッチな納税者からの税収が増えないことについて、T.S.アダムスは強い不満を表明してい
る。 彼によれば、 所得税法の徹底的な改訂について議会をはじめ合意はある。 しかし、問
題は、何が一番問題であり、それはどの程度又はいかなる方法で修正できるかという疑問
に答えることである。最終的には、 より嫌でない代替物を探すべきだと述べている31。 所得
税も超過利潤税と同様、所得に対する租税であり、 批判の目は、まず、彼からすれば余分
であるともいえる所得税の付加税 (surtax) に向けられる。
1913年10月に再導入されたアメリカの所得税は、まず個人と法人を分ける。 さらに、
個人所得税は、基本部分としての普通所得税と付加所得税に分けて課税する。個人所得税
の課税ベースは原則として、給与、 配当、営業、 譲渡など支払形式の如何を問わず、原則
としてすべての所得を包含し 「総所得」である。 その内、営業所得に係る売上原価は総
所得を計算する前に控除される。 総所得から営業上の費用や債務利子、租税公課、損失、
28 Thomas S. Adams, "Should the Excess Profit Tax Be Repealed ?," op.cit., p.393 参照。
29 Thomas S. Adams, "Should the Excess Profit Tax Be Repealed ? " op.cit., p.393 参照。
30 Thomas S. Adams, "Fundamental Problems of Federal Income Taxation,"
op.cit.p.553 参照。
31 Thomas S. Adams, "Fundamental Problems of Federal Income Taxation," op.cit.,
p.528 参照。
12
無価値の債権、減価償却、受取配当 (1%の所得税を納付した法人からの配当金)など特定
の項目の費用を控除して算出されるのが 「純所得」である。 所得税の内、普通所得税の課
税ベースは純所得であり、これに対して1%の所得税の比例税率が課される。 受取配当につ
いては、いったん計上された後で、純所得算定上控除される。結果的に受取配当について
は、普通所得税が課税されないことになる。 計上された後で控除を受けることから、個人
が受け取る配当については、法人擬制説的な課税が行われていたという見方が支配的であ
る。
しかし、所得税の付加税の課税ベースとしては、総所得からの減算を容認されないこと
とされている。 例えば、 受取配当のように所得税の申告書上で総所得に計上されても、他
にも、特例により控除され、所得税(普通税)が免除になっても、 付加税の対象になるも
のがある。
但し、所得税の付加税の免税点は非常に高いものである。 1913年10月の連邦所得税法
では、個人の付加税の免税点は20,000ドルであり、 20,000 ドル以上の所得について、 1%
から 6%に至る超過累進税率が適用されたのである。(後掲表参照)
一方、 法人所得税については、内国法人が前暦年中に取得した純所得に対して1%が課さ
れる。外国法人に対しては、国内で、営業や投下資本より生じた純所得に対して1%が課さ
れる。 法人所得税の課税ベースは純所得である。 それは、 総収入から普通の必要経費 損
失、債務利子、租税公課等を控除したものである32。
32 同上書 59ページ。
13
…
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