2021年9月8日水曜日

インフレ加速にステルス値上げでバイデン気候変動対策あえなく蹉跌 大胆な財政政策に足すくわれ支持率低下 - ライブドアニュース

インフレ加速にステルス値上げでバイデン気候変動対策あえなく蹉跌 大胆な財政政策に足すくわれ支持率低下 - ライブドアニュース

インフレ加速にステルス値上げでバイデン気候変動対策あえなく蹉跌 大胆な財政政策に足すくわれ支持率低下

バラまいても支持率低下

6.4兆ドル(約700兆円)―これは、3月に成立した追加経済対策に、足元で協議中のインフラ計画と育児・医療支援政策を加えた、バイデン大統領が目指す財政出動の合計額だ。実現すれば、米国内総生産(GDP)比の約3割に及ぶ。

セントルイス地区連銀のエコノミストによれば、世界恐慌後に就任したフランクリン・ルーズベルト大統領(当時)が展開したニューディール政策は、米経済の約4割と試算されているため、バイデン氏の財政拡大はそれに近い規模と捉えられよう。

第2のニューディール政策を掲げ、就任後は大統領執務室にルーズベルト元大統領の肖像画を飾るバイデン氏は、選挙公約や施政演説での確約を果たしつつあるようだ。

リーマン・ショック後、自身が副大統領を務めたオバマ政権下で2009年2月に成立した景気刺激策「米国再生・再投資法(ARRA)」の規模は、GDP比5.7%程度だった。100年に一度金融危機の対応としては余りに小さいかったとバイデン氏は深く後悔したとされるが、その念を12年越しに晴らすことになる。

では、米有権者に「有言実行のバイデン氏」との印象を与え支持率が上昇しているかというと、現実は甘くない。

8月25日付けのリアルクリア・ポリティクスの世論調査平均では、不支持率が49.1%と過半数に届きつつある。就任1年目の大統領の支持率はご祝儀で上昇した後で低下する傾向にあり、バイデン氏の場合は8月16日のアフガン陥落が駄目押しとなったことは想像に難くない。

しかし、バイデン氏が3月の追加経済対策で現金給付1人1400ドルという大判振る舞いを行い、大きな政府を標榜する割に支持率が低下をたどる理由は、もう一つある。それは、インフレ加速だ。

食品価格急上昇が直撃

特に4月以降、ワクチン普及や経済活動の再開で需要が急回復し、インフレが加速した。航空運賃を始め宿泊、自動車保険、服飾などに加え、半導体不足を受けた減産や2020年のレンタカー大手ハーツの破産申請を通じ、在庫流出の影響を受けた中古車と新車が物価を押し上げたためだ。

米7月消費者物価指数(CPI)では前月比0.5%上昇し、6月の同0.9%を下回る伸びだったが、これは前述のうち自動車保険や航空運賃が低下に転じ、また過去4~6月の間に30%以上も急伸した中古車の伸びが鈍化したことが背景に挙げられる。

これらの費目の物価上昇は、一過性と受け止められよう。しかし、米国民にとって最も深刻な問題は食品価格の上振れだ。

食品・飲料は7月に前月比0.7%上昇し、コロナ直前までのトランプ前政権時代の平均0.1%から加速。背景には、デルタ株感染拡大を背景としたサプライチェーン問題があり、牛肉は7月に1.2%、豚肉と0.7%、それぞれ前月の4.5%と前月の2.3%から減速しつつも高い伸びを維持していた。加えて、7月はシリアル・パン類(7月:0.5%上昇、6月:横ばい)、米・パスタ(7月:0.9%上昇、6月:0.6%低下)など炭水化物関連がそれぞれ上向いたことも響いた。

さらに、外食が同0.8%上昇、1981年2月以来の高い伸びを記録。雇用統計で、外食が含まれる娯楽・宿泊の平均時給の伸びが前月比で7ヵ月連続の1%超えをたどるように、賃上げ分が上乗せされたのだろう。食品関連のインフレ加速はコロナ直前にあたる20年2月と比較しても顕著で、肉類・魚・卵が11.6%上昇していたように、全て概ね右肩上がりだ。

コロナ禍で食品関連の物価が上振れするなか、食費が全支出に占める割合、すなわちエンゲル係数が再び上昇しつつある。エンゲル係数は21年4~6月期に14.2%と、コロナ禍の経済活動停止で分母となる支出全体が下がった時期を外し、2008年1~3月期以来の高水準だった。

全支出額を上回る可処分所得比で見た場合、下位20%の間で食費が占める割合は2019年でも36%だったことを踏まえれば、食品インフレがいかに低所得者層の痛手となっているかが伺えよう。

「バイデン政策への不信感」

世論調査でもインフレへの懸念は明白だ。

ヒル・ハリスXが8月2~3日に実施した調査では、インフレが最大の懸念事項で33%と、2位の米国内債務の20%を大きく上回った。共和党寄りのフォックス・ニュースが8月7~10日に実施した世論調査では、回答者の86%が「インフレを憂慮している」と回答。物価上昇の理由の1位は「コロナ禍」で86%だったが、2位は「バイデン政権の経済政策」が79%に及んでいた。

バイデン政権の経済政策を物価上昇の背景とする回答を党派別でみると、共和党支持者が93%に対し、民主党支持者も64%とかなり高い水準であることが分かる。リベラル寄りのNBCが8月23日に発表した世論調査でも、経済政策への不信感が見て取れ、支持率は4月の52%から8月に47%へ低下していた。

インフレ加速が災いし、消費者信頼感指数も急低下している。米8月ミシガン大学消費者信頼感指数・速報値は70.2と、10年ぶりの水準に落ち込んだ。反対に1年先インフレ見通し4.7%と2008年8月以来の高水準近くを維持し、センチメントの下振れと逆に上向いたままだ。さらに、購入見通しをみると、住宅と自動車が引き続き1982年以来で最低を更新し続けている。

アメリカのステルス値上げ"Shrinkflation"

企業にとっても、インフレ加速は大問題だ。経済活動再開の裏でコロナ禍でのサプライチェーンの制約を受け原材料価格が上振れするなか、生産者物価指数は今年に入って右肩上がりで、7月には前年同月比7.8%と2010年の統計開始以来で最高となった。これは、米7月CPIを2.4ポイント上回る水準である。PPIがCPIをこれほど上回るのは稀で、企業の利益率を圧迫すること必至だ。

その割に、S&P500構成企業の4~6⽉期の純利益率は上昇中である。ファクトセットによれば13.0%と、少なくとも2016年以降で最⾼だった。利益率が改善した⼀因として、⼩売業や⾷品メーカーの間でのシュリンクフレーション(Shrinkflation)が挙げられよう。

これは「shrink(縮小)」と「inflation(インフレ)」の語尾をつけた造語で、日本語で「ステルス値上げ」を意味する。

例えば、7月のCPIでインフレ加速が顕著だったシリアルをみると、食品大手ゼネラル・ミルズのシリアル・ボックスの"ファミリー・サイズ"は19.3オンスから18.1オンスへ減量していた。しかし、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙によれば、"チリオーズ"を始めとした商品全般で値上げを決定していたという。

同社は、原材料価格や運搬コスト、労働コストの上昇を受け、2022年にかけコストが前年比7%上昇すると予想、コスト負担により価格に転嫁せざるを得ないと説明していた。実質の値上げだけでなく、ステルス値上げとの合わせ技でコスト負担に対抗した格好だ。

スナック菓子大手フリトレーが販売する"ドリトス"も今では9.75オンスから9.25オンスへサイズダウンした後も値段は変わらず3.99ドルだった。ウォルマートの自社ブランドである"グレート・バリュー・ペーパー・タオルズ"は168シートから120シートへ短くなったにも関わらず、お値段据え置き8.42ドル(6個入り)だという。

その他、飲料大手コカコーラやメキシコ料理チェーン大手チポトレはそれぞれ4月と6月に値上げを発表後、サイズによる価格調整を行ったとされる。他にもこうした例は枚挙に暇がなく、SNSで取り上げられてきた。

コストプッシュ要因の国境炭素税はあきらめるのか

ステルス値上げを含めたインフレ加速は、バイデン政権にとって政策の1丁目1番地である気候変動対策に影響を及ぼしかねない。

バイデン氏といえば、前任者と打って変わって気候変動対策に積極的に乗り出し、パリ協定の復帰に始まり、化石燃料の補助金の撤廃に動き、国有地における新たな石油・ガス鉱区のリース権付与を停止。4月には、気候変動サミットを開催した。そして、注目の約1兆ドルのインフラ計画では、電気自動車の普及や再生可能エネルギーの推進が、約3.5兆ドルの育児・医療支援策(人的インフラ計画)では、財源の1つとして「国境炭素税」が検討されている。

国境炭素税は、パリ協定を順守しない国からの輸入品に対する課徴金で関税に相当し、EUでは炭素国境調整税に相当する。同措置は、バイデン政権誕生前から何度も取り沙汰されてきた。バイデン氏の選挙公約や民主党の政策綱領で提示されていただけでなく、政権発足後の3月に米通商代表(USTR)が公表した通商報告でも、排出量削減の手段として「国境炭素調整金(carbon border adjustments)」の導入を選択肢に挙げていた。

世界の輸入の約半分を占める米欧が対応すれば、中国への圧力としての効果も期待されていただけに、育児・医療支援策の財源として含まれたのは、自然の流れだったと言えよう。しかし、ここにきて風向きが変わってきた。ロイターが政権関係者の話を基に伝えたところ、バイデン政権がインフレ加速を重く受け止め、国境炭素税への態度を決めかねているという。

バイデン政権は、選挙公約で年収40万ドル以下の米国人に増税しない方針を掲げていた。しかし、仮に国境炭素税が導入された場合、関税措置と同様なので、物価を押し上げてしまう。これでは公約破りになる上、2022年の中間選挙での敗北に繋がりかねない。

そもそも民主党政権は、1期目の中間選挙で議席を失う傾向が強い。トルーマン元大統領以降、民主党は平均で下院での40議席、上院では5議席減らしており、足元で上院の議席数は50ずつ、下院の過半数は217議席のところ、8月26日時点では民主党は共和党をわずか12議席上回る程度とあって、このまま支持率が回復しなければ半数割れのリスクも視野に入る。

仮にインフレ加速に配慮した政権の意思が反映され、国境炭素税が財源として採用されなければ、他の増税で穴埋めするより、育児・医療支援策の規模縮小が現実的だろう。バイデン政権の財政出動は需要喚起に大きく貢献したが、同時に眠っていたインフレを叩き起こしてしまった。結果的に、中低所得者層に打撃を与え、実質賃金の前年比は4ヵ月連続でマイナスという状況だ。

尊敬するルーズベルト元大統領に自らを重ねるバイデン氏だが、大胆な財政政策が蹉跌に繋がるとは想定していなかったに違いない。



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