2020年9月26日土曜日

ユーロ - ユーロ導入による経済への効果 - Weblio辞書

ユーロ - ユーロ導入による経済への効果 - Weblio辞書

ミルトン・フリードマンは、ユーロの見通しの悪さを以下のように危惧していた。適切な金融政策がとれるのは変動相場制があるからであり、統一通貨ではそれは不可能である。さらに悪いことに、ユーロ圏のように、為替レート変動による経済の調整メカニズムを放棄している場合には、国内の価格や賃金あるいは資本移動によってでしか調整メカニズムが働かないため、ユーロ圏各国が各自独立した文化や規制を有している状態のままユーロを導入すれば、ユーロ圏各国の政府が各々異なる政治的圧力にさらされ、それら政府同士での政治的軋轢が生じる[58]。これは、現在のPIIGSドイツのように、救済される側とする側とで異なる政治的圧力が働き、ユーロ圏政府間での交渉が行き詰っている状態をさしており、このような経済的困難が現れることを、フリードマンは予見していたと言える。

ユーロ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/07/25 20:32 UTC 版)

ユーロ導入による経済への効果

好影響

ユーロの導入によって従来は共同体内部に存在していた為替相場リスクや、そのリスクヘッジのために企業が負担するコストが低減することとなり、ユーロ圏内での通商や経済協力が増大するということが期待される。そして通商は経済成長をもたらす大きな要因のひとつであることから、ユーロ圏入りはその国民にとって利益につながると考えられており、実際に2007年までにユーロ圏内での貿易は5 - 15% 増加してきた[53]。つまりユーロによってヨーロッパの企業は巨大な経済圏で活動するという利益を享受することとなった。またユーロは商品、サービス、資本、労働力の自由な移動という、ヨーロッパ共同市場に欠けていた単一通貨となって、市場統合を完成させた。

さらにユーロによって、ユーロ圏諸国における商品およびサービスの価格格差が解消され、つまり裁定取引によって既存の価格格差は相殺される。このことによって企業間の競争が活発化し、またインフレーション率の低下とあわせて消費者に利益をもたらすこととなる。

一般に、欧州中央銀行はインフレとの戦いという主たる使命を成し遂げてきた。事実、欧州中央銀行が設定している2%というインフレーション・ターゲットはおおむね達成されているか、あるいは長期にわたる過度の超過は防がれてきた[54]インフレーション率が低いということはユーロ圏諸国の市民にとって経済安定性の基礎[要出典]となっている。

ユーロに対する投機は、投資家にはリスクが大きすぎ、ほかの小規模の通貨と比べると困難なものとなっている。1990年代の通貨に対する投機はポンド危機など、欧州通貨制度に深刻な歪みをもたらし、さらにアジア通貨危機の発生原因のひとつとなった。特定の国の通貨に対する投機はその国の外貨準備を吐き出させ、また国民経済に深刻な損害をもたらしかねないものとなり[55]、ユーロの導入はヘッジファンドによる通貨の空売りの目論見を防止することが可能となる。

またユーロは、とくに旅行者にとって利益をもたらしている。ユーロ圏内では両替やその手数料が不要になるうえ、通貨単位が異なることによる商品価格の比較が容易になる。

ユーロ圏内では複数の通貨を有する経済圏よりも自由な資本の移動が起きている。

さらにユーロの登場によって世界におけるヨーロッパの経済的重要性が再認識されている。金融に関するヨーロッパの動向はより大きな影響を持ち、またユーロ圏諸国の発言力も強くなっている[要出典]。グローバル化した世界でユーロという単一通貨はアメリカやアジア諸国に対するヨーロッパの国際競争力を高める役割を持っている。

ユーロは経済心理面においてヨーロッパ諸国間の協力関係を表すものであり、またヨーロッパのシンボルとして統合の概念を具現化するものである。また政治面でもユーロは欧州連合の強化をもたらしている[要出典]

悪影響

経済学者の中には、ユーロ圏のような巨大で特殊な経済圏にとっては単一の通貨を持つことについての危険性を懸念する意見がある。特に景気循環が非同期的であることによって適切な金融政策を打ち出すことの難しさが挙げられている。

実際にユーロが導入されてまもなく、国ごとで経済情勢は異なるにもかかわらず、単一の金融政策を実施することが困難なものであることが明らかとなった。たとえば、経済成長率が5%を超えていたアイルランドと、ほぼ0%のスペインやポルトガルとを調和させるということが挙げられる。従来の手法では政策金利の引き上げや通貨供給量の引き締めといった政策でアイルランドの経済情勢に臨む一方で、スペインやポルトガルに対しては金融緩和策が必要だった。しかし単一の金融政策ではこのような域内での格差を十分に反映することができない。

マクロ経済学上の大きな問題として、単一通貨への参加による為替相場の固定がある。これがもたらす問題として域内地域格差問題がある。為替レートが域内固定されることにより、人件費の安い南欧に工場建設などの長期投資が発生する一方で、独・仏・ベネルクスなどでは安価な商品サービスの提供が行われるようになった反面、失業率の高止まりと新たな雇用の創出という難題を抱えている。南欧諸国にしても、ERMに参加していない欧州諸国、とりわけイギリスやポーランド、チェコなどとの競争にさらされている。

国際金融のトリレンマに従えば、固定相場制と資本移動の自由を両立させているユーロ圏各国では独立な金融政策をとることができない。この事実はユーロ圏の加盟国が不況に陥ったときに、自国通貨を切り下げて輸出競争力を高め、経常収支を改善させることができなくなる。そのような状況下ではユーロ圏で経済が好調な国から不況の国へ財政支援が検討された場合のEUの力量が試される。しかしながら、実際にはアメリカのような財政連邦主義は現時点でのユーロ圏にはなく、頼みの綱の財政政策も安定成長協定(SGP)によって制限をかけられ、結果として各国の成長の足かせになりうる[56]

ユーロ圏は、アメリカと異なり、圏内各国で言語や文化が異なるために、ユーロ圏内での資本移動はアメリカほど自由ではない。各国は自国の人口をゼロにしたいとは思わない。こうして資本移動での経済の調整メカニズムはあまり機能しなくなる。さらに、圏内の唯一の発券銀行である欧州中央銀行が、ドイツの影響を非常に強く受けており、危機に対して民主的な裁量の余地が加盟国に乏しいこと[57]などが想定される。

ミルトン・フリードマンは、ユーロの見通しの悪さを以下のように危惧していた。適切な金融政策がとれるのは変動相場制があるからであり、統一通貨ではそれは不可能である。さらに悪いことに、ユーロ圏のように、為替レート変動による経済の調整メカニズムを放棄している場合には、国内の価格や賃金あるいは資本移動によってでしか調整メカニズムが働かないため、ユーロ圏各国が各自独立した文化や規制を有している状態のままユーロを導入すれば、ユーロ圏各国の政府が各々異なる政治的圧力にさらされ、それら政府同士での政治的軋轢が生じる[58]。これは、現在のPIIGSドイツのように、救済される側とする側とで異なる政治的圧力が働き、ユーロ圏政府間での交渉が行き詰っている状態をさしており、このような経済的困難が現れることを、フリードマンは予見していたと言える。

また、クリストファー・ピサリデスは、現在のユーロシステムによって、失業率が高止まりし失われた世代が作り出されていると指摘し、ユーロ圏の順序だった解体を主張し始めた[59]。かつては名案とされた通貨同盟だが、この通貨システムによってヨーロッパが低成長に苦しみ、加盟国が政治的に分断される結果となり、逆効果にしかなっていないとピサリデスは述べる。

ユーロ圏全体では既に2013年度の平均失業率が12.2%に達し[60]、スペインでは前年より売り上げが10%落ち込み、ギリシャなど一部の国ではデフレーションに陥っている状況であるにもかかわらず、欧州中央銀行(ECB)が景気回復のための適切な金融政策をとっていないという批判がある[61]。ユーロ圏の経済成長率は1%未満にまで低下している。スペインとギリシャの失業率は27%に達しており、IMFはECBに政策金利を下げるよう要請している。しかし、現段階でECBは、アメリカの連邦準備制度(FRB)などが行っているような量的緩和を検討はしないという[62]ジョージ・ソロスは、ECBの金融政策はその他の中央銀行が行っている量的緩和と同期していないと述べる。

加えて、政治的な面からも、欧州中央銀行や欧州委員会がユーロ導入国の赤字国債発行を阻止できるかということは疑わしいと考えられている。マーストリヒト条約では安定成長協定に反した場合の罰金制度が規定されているが、2003年にフランスが棚上げにさせたことなどもありその実効性は疑わしい[63]

一般に、単独または複数の国が財政政策上の義務を逃れるために大規模な国債増発に動いた場合、通常は国債価格の下落(金利の上昇)やインフレの進行、あるいは自国通貨の下落(通貨安)による輸入物価の高騰という形で報いを受けるが、ユーロ一本値の場合、インフレ率や為替への影響は域内全体に拡散、吸収されるため残りのユーロ圏諸国に間接的な影響(損害)を及ぼしかねない。すなわち国債増発国はリスクを負わず安易な債券の発行が可能になり、そのツケはほかの参加国が共同で負うというモラル・ハザードを生み出すことになる。

アメリカのように金利上昇により自国通貨が上昇(通貨高)する事例もあるが、民族資本の乏しい開発途上国では、為替相場におけるクラウドイン効果は期待できないと推測される。

国債発行の単年度GDPの3%制限は、財政政策を行う上での大きな足かせであり、なおかつ金融調整は欧州中央銀行の一本値である。政府支出と金利調整機能は自国の総需要管理の強力な誘導手段であり、この2つを放棄することは自国の雇用を域内市場の趨勢にまかせ、政府が国民に対する責任を果たす直接的な手段が大きく制約されることを意味する。

イギリスの再加盟反対派が掲げるおもな理由は「イギリス経済はユーロ経済と非常に異なっており、ユーロ圏の画一的な経済政策はイギリス経済にリスクをもたらす」「イギリスの自主性が失われる」「イギリスのマクロ経済政策は、ユーロ圏のそれより有効である」「ユーロ圏、特にドイツに構造的問題がある」とする[64]。イギリス政府は、再加盟問題を検討するうえで5項目の経済テストを行い、結局「イギリスの金融部門に良好な影響をあたえる」以外の項目は満たさないとの結論を得た。なお、ほかの4項目は「ユーロ圏とイギリスの経済構造や景気サイクルが持続的に一致の方向に向かっている」「イギリスの労働・生産市場が経済的衝撃に耐えられる柔軟性を備えている」「イギリスへの投資が改善(拡大)する」「イギリスにおける雇用の機会が拡大する」である[65]

商品市場

上述してきた影響のほかに、国際商品市場の値動き、特に経済において重要なものに原油価格が挙げられる。ほとんどの原油の取引にはUSドルが用いられ、1970年代以降、石油輸出国機構諸国はドル建てだけで取引してきた。ところが、ユーロの登場により原油輸出国側では外貨準備の分散の観点から一部の受け取りをUSドルからユーロに移行する国が増え、そのため輸入国側でもユーロ建てでの取引に移行せざるを得ないということが議論された。

各国中央銀行と民間資本によるドルによる外貨保有は、アメリカ国債の重要な引き受け先であり、輸出国側がユーロ建てを導入すれば、ながらく原油取引によって安定してきたUSドルとドル経済にきわめて不利な影響をもたらすことになる[66]。2000年、サッダーム・フセイン統治下のイラクは原油取引をユーロ建てのみとしたが、のちにアメリカによる占領でドル建てに戻されている。またイランや、ユーロ建てへの移行を強く唱えているウゴ・チャベス政権下のベネズエラは、サッダームによるユーロ建て移行に対する支持を表明している[67]。2008年2月17日、イランはキーシュ島に、USドル建ての取引を行わない石油取引所を開設したが、イランの原油輸出量はUSドルの「原油取引通貨」としての地位を脅かすほどのものではなかった[68]

インフレーション

実際の物価上昇と消費者の感覚

ユーロの導入によって多くの消費者は商品やサービスの価格がインフレーション率以上に高くなったと感じている。この物価が上がったという消費者の感覚は、特定の地域で原価が上がったために個々の価格が上げられたことによるものであり、これらの価格上昇が特に印象に残った。一部では事前に、ユーロ導入後の価格の表示で端数の調整を実施するために、価格を緩やかに上昇させていたところもあった。

そのためドイツでは、ティタニック誌が作り出し、その後多くの新聞でも使われるようになった "Teuro" という言葉(「高価な」という意味のドイツ語 teuerEuroをあわせた造語)が広まり、Teuro は2002年の言葉(Wort des Jahres 2002)に選ばれた。しかし政府の統計ではこの年に大きなインフレーションは起こっていない。たとえばオーストリア統計局によると、オーストリアの1998年12月31日での対1986年比での消費者物価指数(VPI 86)は133.7で、1987年から1998年の12年間の平均インフレーション率は2.45%である。これに対して対1996年比での消費者物価指数(VPI 96)は、1998年12月31日に102.2だったものが、2003年12月31日には112.0となっており、ユーロ導入後の平均インフレーション率は1.84%に下がっている。またドイツの対2000年比での消費者物価指数を見ると、1991年に81.9だったものが1998年には98.0となった一方で、ユーロ導入後の2003年には104.5となっている。つまり、ユーロ移行以前の平均インフレーション率が2.60%だったのに対して、移行後は1.29%と下がっている。

矛盾の解析

上記のような、統計上はインフレーション率が低下していることと、ユーロ導入によって消費者が実際のインフレーション率以上に物価が上昇していると感じたこととの矛盾についてはさまざまな解析がなされている。たとえば、たしかに食品など日常購入する商品の価格上昇率は全体のインフレーション率を上回っていたが、マーケットバスケット方式で調査された対象に含まれている電化製品などの価格上昇率は全体のインフレーション率より下回っていた。つまり後者の商品は日常的に購入するものではないため、消費者は統計以上に物価が上昇したと感じたのではないかということが指摘された。また旧通貨からユーロに頭の中で換算したときに、四捨五入するなどして発生した誤差(たとえば対ドイツマルクで 1:1.95583 とするところを 1:2、対オーストリア・シリングで 1:13.7603 とするところを 1:14 などとした)が影響したという見方もあり、特にスペイン・ペセタ(四捨五入で 1:166)の例がある。そして旧通貨を使っていた時間が長いほどユーロでの価格表示と旧通貨での表示を比べるために、物価が上昇したのではないかということが強く感じられたのではないかとも指摘されている。

ユーロと各国の経済政策

通貨が共通化されたことにより、導入国では国内の経済政策の大部分を独自に実施するということがなくなった。このため単一通貨を批判する立場からは経済や政治における摩擦が増大する危険をもたらすのではないかと指摘し、他方で単一通貨を支持する立場からは導入国間での収斂基準の達成に基づく金融政策の統合は合理的であるとしている。

国際通貨制度におけるユーロ

外貨準備における主要通貨の比率の推移 (1965-2018)

主要通貨に対してユーロ相場が安定した動きを見せていることとアメリカが長期にわたって財政政策の懸案事項を抱えていることから、経済専門家の中には世界における準備・基軸通貨としてのUSドルの地位をしだいに脅かし、最終的には凌駕するのではないかという見方を持つものがいる[69]。もしユーロがUSドルに代わる地位を得ることとなれば、かつて第二次世界大戦後に、それまで世界の基軸通貨だったポンド・スターリングと取って代わったUSドルの時代が終焉するということになる。そのことは世界の準備通貨の割合においてユーロが着実に増えているということに示されている。

ほとんどの経済専門家は開発途上国新興工業国が外貨準備の再検討や原油取引のユーロ建てへの移行について繰り返し表明していることを、具体的な意図があるのではなくアメリカに対して政治的な圧力をかけようとしていると考えている。しかし、ユーロ圏外の国の外貨準備におけるユーロの占める割合が過大になれば、それは外貨準備において従来の過小評価を改めただけと考えられ、多くの国の通商・経済関係では依然としてユーロは低く評価されている。

ユーロの現金発行残高は2006年にUSドルを抜いて、世界でもっとも多くなった。この年の10月に世界に流通しているユーロ紙幣の額面の合計は5,920億ユーロとなり、USドル紙幣の5,790億USドルを上回った。ただしこの背景には、アメリカ国内では決済手段としてクレジットカードが多く使用されているということがあり、そのため1人あたりの現金の所持額が少なくなる。ユーロは将来的に現金として最大の規模を持つ通貨となると見込まれている[70]





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