金属あるいは土地という担保に基づいて流通するようにすべきである。これが、スチュアートの提言である。この提言を、表券貨幣を商品価値で基礎づけようとするものと解釈することも可能だが、限嗣相続制の廃止などによって債務の譲渡性を高め表券貨幣の発行を促そうとするものであったという解釈も可能であろう。 4.小括 第1節では2人の表券貨幣論者の議論を検討した。クナップの議論は、①名目貨幣説、②表券貨幣説、③国際決済には正貨が必要、という 3 つに要約できる。イネスの議論は、①商品貨幣説批判、②貨幣の信用理論、すなわち、「貨幣は信用である」という議論。③「貨幣の国家理論」と「貨幣の信用理論」の統合、すなわち、「政府の貨幣も国の債務であり、信用貨幣である」という議論の3つに要約できる。この2人の表券貨幣論者の議論をスチュアートの貨幣論と比較するとどのようなことが言えるだろうか。 ①スチュアートの「計算貨幣」の定義は、「販売品の其々の価値を尺度するために発明された任意の度量標準」というものであった。これは、明らかに「名目貨幣論」である。②スチュアートの鋳貨に関する説明は「鋳貨の内在的価値は一般的合意または国家の権威に基づく」というものであった。彼は、(象徴貨幣)信用貨幣だけでなく、鋳貨も表券貨幣であると考えていたと言えるだろう。③同時に、スチュアートは鋳貨の持つ2面性にも気づいていた。素材商品の価格変動が、「諸物の価値を尺度するための不変の度量標準の有効性」を阻害するという弱点を指摘していたのである。このため、計算貨幣としては鋳貨よりも信用貨幣の方が優れているという認識を持っていた。その結果、債務の譲渡性を高めて信用貨幣の発行を促進することを提言していたのである。 したがって、スチュアートの貨幣論は、クナップやイネスの名目貨幣論、表券貨幣論の先駆者であると評価できる。とくに、イネスの議論は、スチュアートの議論を継承、発展させたものであると言える。(相違点については、報告、full paperで詳述する)。 参考文献 Innes, A.M.,1913. “What is Money?” Banking Law Journal, May. , 1914, “The Credit Theory of Money” Banking Law Journal, January. Knapp, G.F. [1924] 2013, The State Theory of Money, Martino Publishing Steuart, James [1767]1995, An Inquiry into the Principles of Political Oeconomy, In the Works. Vol.1-4. London 小林昇監訳・竹本洋他訳『経済の原理』名古屋大学出版会、1993-98 年 Wray, L.R.,2014, “From the State Theory of Money to Modern Money Theory : An Alternative to Economic Orthodoxy, Working Paper No.792, Levy Economics Institute
柴田徳太郎論考
返信削除3.スチュアートの貨幣論 この説では、第1節で検討した表券貨幣説との比較という観点から、スチュアートの貨幣論を検討する。 まず、『経済の原理』第2編第26章では「現実の貨幣」を彼は2つに分類している。①鋳貨と、②象徴貨幣(銀行券、銀行預金、手形、債券、商人の帳簿等の信用通貨)、である。ここで注目すべきなのは、①鋳貨の定義である。鋳貨は「合意により、または国家の権威のもとに内在的価値を持つ」。「 鋳貨の内在的価値は一般的合意(agreement)または国家の権威に基づく」というのが彼の鋳貨に関する説明である。これは、商品貨幣説ではなく表券貨幣説である。彼は、②象徴貨幣(信用貨幣)だけでなく、①鋳貨も、表券貨幣という観点から説明していると解釈できる。 『経済の原理』第3篇第1章では「計算貨幣」について論じている。「販売品の其々の価値を尺度するために発明された任意の度量標準」というのが「計算貨幣」の定義である。それゆえ、①計算貨幣は、②鋳貨としての貨幣、とは異なる。なぜならば、鋳貨は表券貨幣であると同時に商品でもあるからだ。これが報告者の解釈である。スチュアートは「考案された計算貨幣」(鋳貨:表券貨幣)が、計算貨幣と商品という 2 つの側面を持つことを指摘する。そして、後者が前者の機能を損なう可能性を示唆する。商品の価格変動が「諸物の価値を尺度するための不変の度量標準の有効性」を阻害するからである。 これに対して、アムステルダム銀行のグルテン・バンコやアンゴラ海岸の貨幣マクートのような表券貨幣は、鋳貨とは異なり商品価値を持たないので、金銀よりも確定的価値を持ちうる。それゆえ、鋳貨よりも計算貨幣に適していると評価しているように解釈できる。 続く第3章では、鋳貨と紙幣の対比が行われている。鋳貨は、①素材の本来の(商品)価値という利点を持つが、他方で、②本来の(商品)価値の不安定性という欠点を持つ。これに対して、紙幣は、①価値の安定性という長所を持つが、他方で、②本来的価値を持たないという欠点を持つ。それゆえ、素材的貨幣(鋳貨)をより完全なものにするためには、金属(商品)の性質を払拭する必要がある。一方、紙幣をより完全なものにするためには、
金属あるいは土地という担保に基づいて流通するようにすべきである。これが、スチュアートの提言である。この提言を、表券貨幣を商品価値で基礎づけようとするものと解釈することも可能だが、限嗣相続制の廃止などによって債務の譲渡性を高め表券貨幣の発行を促そうとするものであったという解釈も可能であろう。 4.小括 第1節では2人の表券貨幣論者の議論を検討した。クナップの議論は、①名目貨幣説、②表券貨幣説、③国際決済には正貨が必要、という 3 つに要約できる。イネスの議論は、①商品貨幣説批判、②貨幣の信用理論、すなわち、「貨幣は信用である」という議論。③「貨幣の国家理論」と「貨幣の信用理論」の統合、すなわち、「政府の貨幣も国の債務であり、信用貨幣である」という議論の3つに要約できる。この2人の表券貨幣論者の議論をスチュアートの貨幣論と比較するとどのようなことが言えるだろうか。 ①スチュアートの「計算貨幣」の定義は、「販売品の其々の価値を尺度するために発明された任意の度量標準」というものであった。これは、明らかに「名目貨幣論」である。②スチュアートの鋳貨に関する説明は「鋳貨の内在的価値は一般的合意または国家の権威に基づく」というものであった。彼は、(象徴貨幣)信用貨幣だけでなく、鋳貨も表券貨幣であると考えていたと言えるだろう。③同時に、スチュアートは鋳貨の持つ2面性にも気づいていた。素材商品の価格変動が、「諸物の価値を尺度するための不変の度量標準の有効性」を阻害するという弱点を指摘していたのである。このため、計算貨幣としては鋳貨よりも信用貨幣の方が優れているという認識を持っていた。その結果、債務の譲渡性を高めて信用貨幣の発行を促進することを提言していたのである。 したがって、スチュアートの貨幣論は、クナップやイネスの名目貨幣論、表券貨幣論の先駆者であると評価できる。とくに、イネスの議論は、スチュアートの議論を継承、発展させたものであると言える。(相違点については、報告、full paperで詳述する)。 参考文献 Innes, A.M.,1913. “What is Money?” Banking Law Journal, May. , 1914, “The Credit Theory of Money” Banking Law Journal, January. Knapp, G.F. [1924] 2013, The State Theory of Money, Martino Publishing Steuart, James [1767]1995, An Inquiry into the Principles of Political Oeconomy, In the Works. Vol.1-4. London 小林昇監訳・竹本洋他訳『経済の原理』名古屋大学出版会、1993-98 年 Wray, L.R.,2014, “From the State Theory of Money to Modern Money Theory : An Alternative to Economic Orthodoxy, Working Paper No.792, Levy Economics Institute
スチュアートの貨幣論と表券貨幣説」 柴田德太郎(帝京大学) 1.はじめに 近年、仮想通貨の興隆に伴い「表券貨幣説」が注目を集めつつある。商品貨幣説を歴史帰納的にも論理演繹的にも批判する潮流である。この「表券貨幣説」の学説史的検討において、これまでスチュアートの貨幣論についてはほとんど言及されてこなかった。理論的継承関係が明確でないからである。しかし、古典派の商品貨幣説の批判者として、スチュアート貨幣論が表券貨幣説論者の先行者であることは間違いない。スチュアートの有効需要説がケインズの先行者であったように。本報告は、スチュアートが表券貨幣説の先駆者と言えるかどうか、スチュアート貨幣論と表券貨幣説の類似性と相違点、について検討する。この異端の貨幣論の比較研究は、スチュアート貨幣論研究に新しい光を当てることになるとともに、表券貨幣説研究にも新しい視点を持ち込むことになると考えられる。 2節では、表券貨幣説の系譜を整理する。取り上げられるのは、KnappとMitchell Innesである。3節では、この表券貨幣説との比較という観点から、スチュアートの貨幣論を検討する。4節で、本報告を総括する。 2.表券貨幣説の検討 表券貨幣説は古典派・新古典派の商品貨幣説を次のように批判する。歴史帰納的に見ると、商品(金属)貨幣は例外的であり、主流は表券貨幣である。例としては、ヤップ島の石貨幣、中世イングランドのタリースティック、様々な国家紙幣、銀行券、などが列挙される。論理演繹的には、商品交換の際の欲望の二重の一致の困難から商品貨幣を導き出す論理の破綻を指摘する。(詳細は3節(2)で言及する) では、表券貨幣とは何か。それは、トークンのような象徴貨幣である。商品(金属)貨幣のようにそれ自身が価値を持つ有体財産ではなく、譲渡性のある無体財産である。表券貨幣への人々の信頼を支えているのは、国家、コミュニティ、銀行組織などの社会システムである。こうした社会システム(制度)への信頼が、表券貨幣の流通根拠である。この表券貨幣説は、石貨幣、タリースティック、国家紙幣、銀行券だけでなく、鋳貨、預金通貨、ビットコイン等の仮想通貨にも適用可能な汎用性の高い概念である。論者によって強調点は異なるが、表券貨幣説は以上のように整理することができる。 (1)クナップの表券貨幣説 次に、表券貨幣説の系譜をたどってみよう。まず、ドイツ新歴史学派の泰斗、クナップ(1842-1926)の『貨幣の国家理論』から検討する。 彼は、次のように述べる。支払い手段は金属である必要はない。紙でもよい。価値(value)の単位はもはや特定の重量の金属ではなく、歴史的に規定された法的概念である。そして、貨幣を「法の創造物」と定義し、価値の単位は名目的なものであると主張する。ここでは、
返信削除