2020年9月26日土曜日

NAMs出版プロジェクト: 試訳Mitchell-macroeconomicsu2019#1,9,10,20,21,22,23

20.5 税と主権国家の支出

政府が発行する貨幣を使用した課税は、その貨幣に対する需要を生み出すと言うことを我々は以前に説明した。また、主権国家の政府は支出をするために収入を必要としないと言うことも説明した。政府の予算における「収入」について言及するときでさえ、民間部門(家計や企業)におけるような「支出のための収入」と同じような概念で言及することは少し不適切である。しかし、次のことは明確である。政府が受け取る税収は、政府支出をやりくりするために本質的に必要であるというわけではない。

それはとても衝撃的である。なぜなら我々は、政府支出のために課税されていると言う考えることに慣れているからだ。このように考えることは、貨幣を発行できない州といった地方政府の財政に言及するときは適切である。また、外国通貨を自国通貨として採用する国や、外国通貨に対して固定相場制を採用する国の貨幣に言及するときも、おおむねこの考え方で正しい。

固定相場制を取っているとき、設定した相場で外国通貨や金と自国通貨を交換するために、それら外国通貨・金を保有していなければならない。貨幣が流通すると、金や外国通貨との交換の提供が誰に対しても難しくなるため、貨幣の流通の循環経路から徴税している。すなわち、固定相場制を採用する国の政府支出は、税収と同じ水準に制約される。

しかし自国通貨を外国通貨や金との固定相場で交換しない政府(変動相場制を採用する政府)の場合、我々は全く異なる税の捉え方をしなければならない。

さらに、論理を逆にして以下のように考えることもできる。納税者が貨幣によって納税が可能となる前に、政府は自らの発行する貨幣を使用した支出(あるいは貸出)を、経済の中で必ず行なっていると。

「支出が先で、課税が後」。これが適切な論理的順序である。

この論理的順序の提案を最初に聞く人の中の何人かは、ある論理的に考えた結果として疑問を抱くだろう。「では、税を完全になくしてしまえば良いのではないか?」と。しかし、それは不可能である。税が存在する理由は、「政府支出のため」に存在しているわけではないが、いくつかの理由が存在する。1つ目として、税は貨幣によって収められている。もし我々が税を廃止した場合、人々はおそらくただちに(納税に使用していた)貨幣を使わなくなると言うことはないだろうが、多くの人が使用することをやめるだろう。

2つ目として、(すでに広く受け入れられている貨幣で納税される)税は総需要を縮小する効果がある。

税は、政府が社会経済的な権限を活かすための支出ができる、「実物の資源の余地」を生み出す。税は非政府部門の購買力を奪うことができる。したがって、税は実物の資源を運営する能力を備えている。税の能力は、政府が自らの支出により実物の資源を運営できるように、実物の資源を焼却することである。

国のGDPの30%を政府支出が占め、税収がGDPの27%を占める事例を考えてみよう。それゆえ、政府支出の純粋な注入は3%である。もしここで税を廃止した場合(他の事情が同じならば)、支出の純粋な注入はGDPに対して30%になる。それによって大きく総需要は増加し、インフレを引き起こす。

したがって、税は実物の資源(労働力や設備)を解放する。それがなければ、非政府部門が自らの下心のために自由にそれらの実物の資源を利用する。全ての資源が活用された時にインフレが発生する。それゆえ税は政府に、インフレによる制約に直面することなく支出をすることを可能にする。

理想を言えば、反循環的な課税(景気が悪い時に課税を減らし、景気が良い時に課税を増やす)をするのが良い。その課税は政府が反循環的な経済(好景気も不景気もある経済)に実質的な貢献をすることを助け、総需要が安定することを助ける。この状況では、財政支出は自動安定化装置として働く。

これらの全てについて、1940年代に連邦準備銀行の理事長を務めたビアーズリー・ラムルによって勘案されている。彼は税の役割についての重要な論文を書いている(Taxes for Revenue are Obsolete and Tax Policies for Prosperity,Ruml,1946a 及び 1946B)。

まず、彼の「政府は税収を必要としない」という説得力のある主張を説明し、その後、彼の視点に立って税の役割について考えてみよう。彼は次のように強調した。「国家の財政政策の目的は何より貨幣と効率的な金融機構を維持することにある。しかし基礎的な本旨に沿って考えれば、高度に生産性な雇用と繁栄を獲得するための偉大な活動を可能にする」(1946b:82-3)。この視点は、この本の冒頭で提示したものと似ている。

またラルムは、アメリカは第二次世界大戦後の2つの変化によって上記の社会目標を達成するための能力を獲得したとも言っている。「最初の変化は、中央銀行の運営における膨大な新しい経験である。2つめの変化は、貨幣を金やその他の財と交換することを国家の目標として設定することをやめたことである」(1950:91)。この2つの状況は「当然の結果として、貨幣市場における金融上要求に対して、連邦政府は最後の砦となる」、「政府は自らの費用を賄うために税が足りないことを心配する必要はない」(Ruml,1946b:84)。この見解は自国通貨を発行する政府に適用できる。

ではなぜ政府は課税を必要とするのだろうか?ラルムは4つの理由を提示した(1946b:84)。

1.税はドルの購買力(アメリカの総需要)を調整する税制政策の手法として機能する。

2.税は、累進的な所得・資産税を採用した場合、富・所得の分配としての公共政策となる。

3.税は、ある特定の産業・集団に対して助成を与えたり、罰を与える公共政策となる。

4.高速道路や社会保障といった、直接的で明白な国家の利益があるとする。税は、その利益の費用(もちろん「金銭的な費用」ではない)を区分・評価することができる。

1はすでに先ほど述べたようなインフレに関連した話題である。2は、税を使用することによって人々の所得・富を変化させられることを言ったものだ。例えば、累進課税の場合、高所得者に高い税率がかかり、低所得者には低い税率がかかる。3は、税が望ましくないと思われる行動を抑制できることを言ったものだ。大気や水の汚染、タバコやアルコールの摂取に対して課税してそれを抑制することができる。また、関税によって輸入品購入の費用を上げ、国内品の購入を奨励することができる。4は、税が特定の社会計画の受益者に、その計画の費用を分配できることをいったものだ。例えば、高速道路を使う人にその使用料金を支払わせるために、ガソリンに税がかけられるのが普通である(高速道路の料金は、それと同じ機能を果たす、ある1つの方法である)。

多くの人々が政府の支出のために税が必要だと考えている一方で、彼は著作の主な主張の中でその考えに猛烈に反対していたということに注目すべきだ。収入として税は時代遅れであると思っていた。政府は高速道路を作る費用を賄うために税を必要としない。その税(ガソリン税・道路料金)は、道路を使う人々に「その道路の建設を自分たちが支援している」と思わせるために考案されたものだ。

政府はタバコ税からの収入を必要としているのではない。むしろ、その税は人々の健康を改善する。税は人々の行動を抑制するために、タバコを買う費用を税によってあげることができる。

これらの税の要点は、収入を生み出すということではない。政府は常に医療に関する設備建設や政策を実行するための貨幣を賄うことができる。税は、タバコを吸う人を健康にするために、実物の資源の無駄を減らす。タバコ税の根本概念は、喫煙を減らす手段として機能することである。政府の収入を最大化することではない。ラルムは次のように言った(1946b:84)。「提案される公共目的は、収入を上げることを目的とする税の仮面によって覆い隠されたことは一度もない」。

ラルムは1946年の2つの著作を次のように締めくくった。我々が税が何のために存在しているかを一度理解してしまえば、我々は全体的な税収の適切な水準を明らかにできる、と。彼は以下のように結論づけた(1946b:85)。

我々の課税政策の裏にある、簡単な発想は以下のようになるべきである。税は貨幣の安定を保つために、高さを調整されるべきである。現在、税は、我々が満足できる雇用状況を達成するためにはどのような連邦予算の構成が良いだろうか、という原理の元に運営されている。

この原理はこの本で採用されているものの1つである。しかし、1つ注意が必要である。ラルムは海外部門を無視できる状況にいた(海外部門を無視する考え方は、第二次世界大戦後直後の状況では不合理な考え方ではなかった)。今日の世界では、あるいくつかの国で大きな当座預金の黒字が発生しており、その他のいくつかの国では一方で大きな当座預金の赤字が発生している。我々はラウムの原理を修正して現在に適用しなければならない。

その原理は次のように言い換えられるだろう。完全雇用を達成・継続する政府支出ができるように、税率は設定されるべきである。

オーストラリア、アメリカ、イギリスといった慣例的に完全雇用を達成するために財政赤字を増やそうとする国の政府は、普通それを継続しようとする(ちなみに何度も言うようだが、財政赤字は同額の民間部門の黒字を生み出す)。

日本のような国は、少ない財政赤字で完全雇用を達成しようとしている(これはすなわち、民間部門の黒字を少なくしている)。ノルウェーのような財政黒字を生み出しながら完全雇用を達成している国は、インフレを抑制している。

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