「グリーンニューディール」に期待広がるアメリカ。ポストコロナ経済対策となるか | Forbes JAPAN(フォーブス ジャパン)
2020/05/16
「グリーンニューディール」に期待広がるアメリカ。ポストコロナ経済対策となるか

前編で紹介した「政府支出に財源の制約はない」と主張するMMTに依拠するならば、コロナ収束後の経済政策の可能性も広がることになるが、具体的にどのような政策が可能になるのだろうか。グリーンニューディールは、ポストコロナの経済対策として注目されるものの一つだ。
グリーンニューディール論争 アメリカ最年少女性下院議員が活躍
グリーンニューディールとは、気候変動と経済的不平等の両方に対処することを目的として提唱された経済刺激策のことを意味する。1929年の大恐慌からアメリカ経済の救済を図ったフランクリン・D・ルーズベルトの経済的アプローチと、再生可能エネルギーや資源効率などの現代的アイデアを組み合わせた政策だ。自然エネルギーや地球温暖化対策に公共投資することで、新たな雇用や経済成長を生み出すことが狙いとなる。グリーンニューディールという言葉自体は、2007年、トーマス・フリードマンによって既にニューヨークタイムズ紙のコラムで提唱されていた。多くの新しい「グリーンジョブ」によって経済停滞を乗り越えようとする彼の提案は、リーマンショック後のオバマ前大統領にも影響を与えた。
近年この政策を再び議論の中心に据えたのは、アメリカ最年少女性下院議員としても注目される民主党のアレクサンドリア・オカシオ=コルテスである。
彼女がエド・マーキー民主党上院議員と共に2019年2月に発表したグリーンニューディールの決議案の主張は、例えば以下のようなものである。
・温室効果ガスの実質排出ゼロ
・電力の100%再生可能エネルギー化
・炭素税を含むカーボンプライシング(炭素価格付け)
・労働者の最低賃金保障
・すべての人への医療保険(ヘルスケア)
オカシオ=コルテスは、これらを10年以内に達成するという目標を掲げている。温暖化対策とともに、気候変動の被害を被る人々や、エネルギー政策の転換により失業する労働者への支援策も盛り込み、国民の完全雇用や国民皆保険を通じた貧困層への対策を同時に充実させる。気候変動への対処を社会保障と一体的な問題として捉えようと試みるのがグリーンニューディールのポイントだ。
グリーンニューディール決議案は非常に意欲的な内容であるため、共和党陣営からの批判も多い。確かに地球温暖化には緊急の対策が必要だが、グリーンニューディールには年平均1.6兆ドルもの費用がかかる。巨額な財源をどう手当てするのかという点について、オカシオ=コルテスの念頭にMMTがあることは間違いないが、保守的な論客を中心に、この点については「非現実的だ」という見方も多い。
巨額な財源が必要であるだけでなく、左派的な政策を集約させるような論点になっている以上、古典的自由主義の伝統が強いアメリカでは、「大きな政府」に対する反感を呼び起こしやすいのは間違いない。実際にトランプ大統領は、グリーンニューディールを「社会主義」と呼んで批判している。
共和党議員のマット・ガエツは、「グリーンニューディール」をもじった「グリーンリアルディール」を対案として発表している。同政策案はグリーンニューディールのラディカルな主張を修正し、より保守的なものに再考案したものだという。
同氏の掲げたロゴには「Green New Deal」のロゴのパロディが採用され、「New」がバツ印で消され、代わりに子ども向けの書籍に用いられる書体で「Real」の文字が記されている。しばしば「非現実的」と批判される「Green New Deal」への皮肉が込められているようだ。
「グリーンニューディール」に期待広がるアメリカ。ポストコロナ経済対策となるか
コロナ危機で注目「今こそグリーンニューディールにふさわしい時」
しかし、コロナ危機によってリーマンショックを超える経済的被害が出ていると言われ、政府による経済刺激策に注目が集まる中、財政赤字への世の中の見方も変わりつつある。
ジャーナリストのケン・シルバースタインはフォーブスに「今こそグリーンニューディールにふさわしい時かもしれません」と述べ、「共和党員たちはもはや、経済刺激策に反対することはできません。議論すべきなのは、公的資金をどこに投入するかということだけなのです」と語る。
「今、経済刺激策に注目が集まっていますが、これは市場を落ち着かせ、市場の信頼を高めるのと同時に、グリーンエネルギー経済を加速させる現実的な機会なのです」
「ニューディール」とはもともと、ポーカーなどのトランプ遊びで「親」がカードを配り、新たなゲームが始まる際に使われる言葉だ。2030年までに気温が1.5℃上昇すると予測され、悲惨な結末を避けるには大変革が必要だと叫ばれる現在、グリーンニューディールは積極的に追求されるべき政策の一つだろう。オバマ政権時には国務長官も務めたジョン・ケリーはニューヨークタイムスに、パンデミックは、科学者が警告する気候変動のような脅威に対して、政府は前もってきちんと準備しなければならないということをアメリカ人に意識させたと語る。
「コロナウイルスによって真の対話の可能性へと扉が開かれたと思います。今回、人々は科学者の話を聞かなかった場合の困難を学んだのですから」
環境問題の論客として知られるアル・ゴア元米副大統領も、アメリカのテレビ局HBOの番組に出演した際、コロナ問題と地球温暖化問題には明確な共通点があると述べ、今回の一件は「政府の指導者たちは科学者からの警告を単に却下することはできないという呼びかけとして機能した」と述べた。
アル・ゴア元副大統領。コロナ問題と地球温暖化には明確な共通点があると指摘した。(Getty Images)ドナルド・トランプ大統領は5月13日、新型コロナウイルス対策の早過ぎる制限解除に警鐘を鳴らした米国立アレルギー感染症研究所(NIAID)所長のアンソニー・ファウチ博士の発言について、「受け入れられない」と述べた。アメリカでは新型コロナウイルスに140万人近くがかかり、約8万4000人が亡くなっている現状があるが、それによって経済は大きな打撃を受け、失業率は14.7%と、1982年11月の10.8%を大きく上回り、戦後最悪となっている。
「環境と経済」2つの危機に立ち向かう
新型コロナウイルスの世界的流行の思いがけぬ結果として、多くの地域で社会経済活動がストップしたことにより、大気汚染物質の濃度が下がったことが現場観測や人工衛星からの観測によって把握されている。
しかし、コロナショックによる世界的な景気後退は、長期的に見れば気候変動対策に大きな影を落としかねない。「環境か、経済か」という選択を迫ることによって、どちらかを後回しにすることはできない状況だ。新型コロナと環境問題、2つの危機に同時に立ち向かう経済政策を考える必要がある。
「神は常に赦される。人はある時は赦し、ある時は赦さない。自然は決して赦さない。わたしたちが地球を荒廃させたなら、その答えはひどいものでしょう」
これは今年50周年を迎えた4月22日の「アースデイ」に、フランシスコ教皇が述べた言葉だ。グリーンニューディールを「非現実的だ」として退け、科学の警告を無視し、大変革への挑戦を冷笑することは、単に将来的にやってくる悲惨な結末に対応するためのコストを先送りにしているにすぎない。
コロナショックを機に、グリーンニューディールが活発に議論されることを期待したい。
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