2021年6月8日火曜日

ケインズやMMTが言う「modern」ってなに?|ゲーテちゃん|note

ケインズやMMTが言う「modern」ってなに?|ゲーテちゃん|note

ケインズやMMTが言う「modern」ってなに?

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Photo by ia19200102

 「ケインズがあそこで使っているmodernは、どういう意味なのかよく分かりませんでした。4000年の間、近代だったのかと。」
 Twitter上でこんなコメントをいただいた。問題となっているケインズの『貨幣論』の記述は以下のとおりである。

The State, therefore, comes in first of all as the authority of law which enforces the payment of the thing which corresponds to the name or description in the contracts. But it comes in doubly when, in addition, it claims the right to determine and declare what thing corresponds to the name, and to vary its declaration from time to time – when, that is to say, it claims the right to re-edit the dictionary. This right is claimed by all modern states and has been so claimed for some four thousand years at least. 

したがって、〔金銭契約において〕国家はまず第一に、契約書の名称や記述に対応するモノの支払い義務を課す法の権威として登場する。そして同時に、国家はその名称に対応するモノ〔支払い手段〕を定め、これを布告する権利、およびその布告を随時変更する権利を主張する(つまり、辞書を再編する権利を主張する)役割をも果たしているのである。この権利は、すべての近代国家(all modern states)によって主張されており、少なくとも約4,000年前から主張されてきたものである。

 国家は、何らかの支払い義務〔契約書の名称や記述、つまり単位としての計算貨幣で表示される〕を課すと同時に、その支払い手段〔名称に対応するモノ、つまりモノとしての貨幣〕を定める権利を有する。そしてその権利は、すべての近代国家に当てはまり、4000年前から続いているという。
 ランダル・レイは、これを「国家貨幣制度」(state money system)として説明する。

For the past 4,000 years ("at least", as Keynes put it), our monetary system has been a "state money system". To simplify, that is one in which the state chooses the money of account, imposes obligations (taxes, tribute, tithes, fines, and fees), denominated in that money unit, and issues a currency accepted in payment of those obligations. (Wray, premier, Introduction) (Randall Wray, Modern Money Theory: A Primer on Macroeconomics for Sovereign Monetary Systems, 2nd ed., Palgrave Macmillan, 2015, p.1-2)

(ケインズの言葉を借りれば「少なくとも」)過去4000年の間、我々の貨幣制度は「国家貨幣制度」であった。簡単に言えば、国家貨幣制度とは国家が計算貨幣を採用し、その貨幣を単位として表示される義務(租税、朝貢、10分の1税、罰金、手数料)を課し、その義務を履行するための支払手段となる通貨を発行する制度である。

 また、単位として計算貨幣が国家によって定められるのは、「計算単位」は個人ではなく社会が創造するものだからである。

In The Treatise, Keynes began with the money of account, the unit in which we denominate debts and credits, and, yes, prices. He also said something about the nature of the money of account: following Knapp he argued that for the past 4,000 years, at least, the money of account has been chosen by the state authorities. Units of measurement are necessarily social constructions. I can choose my own idiosyncratic measuring units for time, space, and value, but they must be socially sanctioned to become widely adopted. (Wray, 2015, p.277)

ケインズの『貨幣論』は、(債務や債権、そしてもちろん価格を表示する単位である)「計算貨幣」の説明から始まっている。ケインズは、計算貨幣の本質についても述べており、クナップの見解に基づいて、少なくとも過去4000年の間、計算貨幣〔の制度〕は国家権力によって採用されてきたと主張している。計算単位は、必然的に社会が創造するものである。時間、空間、価値について個人が独自の計算単位を決めることはできるが、それらの単位が広く採用されるためには、社会が正当な単位として承認することが必要である。

 ちなみに、冒頭のケインズが言っている「辞書」(dictionary)とは、名称とそれに対応するモノ〔単位としての計算貨幣とそれに対応するモノとしての貨幣〕の組み合わせを指すと思われる。ケルトンは、ケインズが『貨幣論』の中で、通貨の発行者は「辞書を編纂・再編する」(write and re-write the dictionary)権限を持つと説明していることに触れ、エリック・ティモワーニュがシェアした米ドル紙幣(下の写真)を「辞書の再編」〔計算貨幣に対応する貨幣の変更〕の例として挙げている。
(ツイート:
https://twitter.com/stephaniekelton/status/1083415969232498688?s=21

 ティモワーニュの資料にあるこの3種類の紙幣はそれぞれ色が異なることがお分かりだろうか。上から順番に「緑の通貨」「青い通貨」「赤い通貨」となっている(ティモワーニュの説明では名称のRedとBlueが逆になっているが、写真の色では緑、青、赤の順である)。緑は現在米国で流通しているドル紙幣の99%以上を占めるとされる連邦準備券(不換紙幣)、青は財務省が以前発行していた不換紙幣(1862ー1971年)、赤は1968年まで銀と交換可能だった銀証券。
 ティモワーニュによると、財務省が発行する法定不換紙幣(青や赤)は公的債務の一部だが、債務上限の制約を受けない。よって、通貨の色が変わると公的債務の規模も変わるという。
 このように、アメリカの場合は計算貨幣が「ドル」であること自体は変わっていないものの、それぞれ性質の異なる貨幣が発行されてきた(「辞書の再編」)ことがわかっている。

 話がやや脱線したが、このケインズが用いた「modern」という言葉が「Modern Money Theory」の「modern」の由来になっているとランダル・レイは言う。

As an aside, the name, Modern Money Theory, comes from this statement. The "Age of Chartalist or State Money" had been reached, when the state "claimed the right not only to enforce the dictionary but also to write the dictionary" (Ibid., 5). Let us emphasize that Keynes believed the "Age of State Money" to have begun "at least" four thousand years ago. As such, the state theory of money would certainly apply to all the "modern" economies, including those living under the gold standard in the last century – even a gold-based "commodity" money is state money. We do not know whether money was used in pre-historic times, so its nature might have been different, but the age of modern money began with the rise of authorities at least four thousand years ago. (Wray, 2014. "From the State Theory of Money to Modern Money Theory: An Alternative to Economic Orthodoxy", )

余談だが、「Modern Money Theory」という名称は、この〔ケインズの〕言葉から来ている。国家が「『辞書』を施行するだけでなく、『辞書』を書く権利〔支払義務を課し、支払手段を定める権利〕も主張する」(同上、5)ようになって、「チャータリズム(表券主義)あるいは国家貨幣の時代」が到来したのである。ここで強調しておきたいのは、ケインズが「国家貨幣の時代」は「少なくとも」4000年前に始まったと考えていたことである。このように、国家貨幣の理論は、前世紀の金本位制の下で生活していた国々を含むすべての「現代」経済に確実に適用されるであろう。つまり、金の裏付けがある「商品」貨幣であっても、国家貨幣であるということである。有史以前に貨幣が使われていたかどうかはわからないので、その性質は違っていたかもしれないが、現代貨幣の時代は、少なくとも4000年前の権力の台頭とともに始まった(Wray, 2014. From the State Theory of Money to Modern Money Theory: An Alternative to Economic Orthodoxy)

 「現代貨幣の時代は、少なくとも4000年前の権力の台頭とともに始まった」、つまり「4000年間、近代だった」ではなく「4000年間、貨幣は国家貨幣であった」という意味である。
 このことを「現代貨幣」(modern money)と呼んだのは皮肉であるとレイ自身が書いている。

My second book, in 1998, provided a different view of sovereign spending. I also revisited the origins of money. By this time I had discovered the two best articles ever written on the nature of money—by Mitchell Innes. Like Warren, Innes insisted that the dollar's value is derived from the tax that drives it. And he argued this has always been the case. This was also consistent with what Keynes claimed in the Treatise, where he said that money has been a state money for the past 4,000 years, at least. I called this "modern money" with intentional irony—and titled my 1998 book Understanding Modern Money as an inside joke. It only applies to the past 4,000 years. (Wray, "Modern Money Theory: How I Came to MMT and What I Include in MMT", Multiplier Effect: The Levy Economics Institute Blog, 2018, http://multiplier-effect.org/modern-money-theory-how-i-came-to-mmt-and-what-i-include-in-mmt/

1998年に出版した2冊目の本では、ソブリン支出について異なる見解を示し、また貨幣の起源についても再考した。それまでに私は、これまで貨幣の本質について書かれた中でも最も素晴らしいミッチェル=イネスによる記事を発見していた。イネスは、モズラーと同様に、ドル〔貨幣〕の価値は、それを駆動する租税から生まれると主張した。そして、これ〔租税による貨幣の駆動〕はどの時代にも当てはまる事実であったと主張した。これは、ケインズが『貨幣論』の中で主張していることとも一致しており、少なくとも過去4000年の間、貨幣は国家の貨幣であったと述べている。私はこれを意図的に皮肉を込めて「modern money」(現代貨幣)と呼び、1998年に出版した本に『Understanding Modern Money』(現代貨幣を理解する)というタイトルを付けたのだが、これは内輪のジョークである。それは、過去4000年にしか当てはまらない。

 ランダル・レイは、「過去4000年の間、貨幣は国家貨幣である」ということを皮肉を込めて「modern money」(現代貨幣)と呼んでおり、これは内輪のジョークであると述べている。つまり、貨幣が国家の創造物であるという事実は、4000年前から(字義どおりの)現代にいたるまで変わっていない。
 「皮肉」というのは、商品貨幣の時代とか、金本位制の時代とか、時代ごとに貨幣の本質が変わっていると考える通俗的な貨幣史観に対する皮肉だろう。「4000年間、どの時代も国家貨幣なんだからすべて現代貨幣と呼んで差し支えないでしょ?」と。(あるいは、最後の「過去4000年にしか当てはならない」という言い方は、先史時代も含めた500万年の人類史から見れば直近の4000年程度は「modern」と呼んでも差し支えないだろう、という皮肉もひょっとしたら含まれているかもしれない。)
 「modern」「modern money」は皮肉であると明言しているのはレイだが、文脈的にはケインズも似たようなニュアンスで言っているかもしれない。
 もっとも、文法的にはケインズの言い方は比喩でもなく割とストレートな意味として通る。「この権利は、すべての近代国家(all modern states)によって主張されており、少なくとも約4,000年前から主張されてきたものである」という文章について、原文の「This right is claimed by all modern states」は現在形であり、後に続く「and has been so claimed for some four thousand years at least」は現在完了形である。よって素直に読めば、この権利が(字義通りの)今日の近代国家に主張されているということと、歴史的にも4000年間主張されてきた権利であるということは矛盾しない。
 恐らく「4000年間、近代国家によって主張された」と読むから困惑してしまうのではないか。そのような意味なら普通は、「This right is claimed and has been claimed for four thousand years at least by all modern states」とまとめて書くはずだろう。「この権利は、4000年前から主張されている権利であり、(字義通りの)近代国家も同様に主張している権利である」と理解する方が自然だと思う。
 一方で、MMTerの方は「4000年前から現代貨幣である」というアイロニーの方を好む。やはり古代貨幣や中世貨幣、現代貨幣と仕切るような通俗的な貨幣史観に対する批判なのだろう。(追記:MMTのようなアイロニーでケインズの言葉を捉えるなら、「4000年間、近代国家によって主張された」と読んでも「4000年間、国家は近代国家である」、つまり「4000年間、『辞書』を施行し編纂する国家の法的役割は変わっていない」ことのアイロニーとして理解できると思う。)(了)

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