危機説VS楽観論、「国の借金」1200兆円でバトル【けいざい百景】
国・地方の長期債務残高が2021年度末、約1200兆円に膨らむ見通しとなった。その規模は20年前の1・8倍。高齢化に伴う社会保障費の増加が続く中、新型コロナウイルス対策の歳出増が拍車を掛けた。財務省などが危機感を募らせる一方、先行きを楽観する有識者らもいる。天文学的な金額に積み上がった借金にどう向き合うべきなのだろうか。(時事通信経済部編集委員 赤間央)
企業経営者でつくる経済同友会は、このほど衝撃的な試算を発表した。政策的経費を税収などでどれだけ賄えているかを示す国・地方の基礎的財政収支(PB)は、日本の実力に近い経済成長を前提とすれば50年度も赤字が続くという。債務残高の国内総生産(GDP)に対する比率は260・7%と、21年度から約50㌽上昇。国の経済規模の3倍近い借金があることを示す。比率を安定させるには、消費税率を段階的に19%に上げる必要があると指摘する。
25年度までにPBを黒字化し、債務対GDP比を安定的に引き下げる政府の目標は、画餅と化している。同友会の桜田謙悟代表幹事は「将来世代に債務を先送りしている事実がある」と懸念。「日本として(借金を)返済する気持ちと能力があることを示さないと資金調達ができなくなる」と憂慮する。
経済学者も警鐘を鳴らす。財政制度等審議会(財務相の諮問機関)の委員を務める一橋大学大学院の佐藤主光教授は「日本はいったん広げた風呂敷をなかなか閉じることができない」と財政規律の緩みを指摘。巨額歳出の常態化を避けるため、コロナ関連の予算を管理する特別会計を創設して平時の財政と切り分けることを提案する。「今は(費用を)赤字国債で賄うのはやむを得ないが、償還財源の真摯(しんし)な議論は始めた方がいい」とも述べ、環境税や多国籍企業への課税強化、富裕層の金融所得に対する課税などの選択肢を挙げている。
財政再建について、佐藤氏は「万が一に備えたリスクマネジメントだ」と説明する。「今破綻していないから大丈夫だと言うのは病気になっていないから不摂生をするのと変わらない」と例え、「コロナの次に心配しなければならないのは巨大災害だ」と話す。太平洋側の南海トラフ沿いや、首都直下では巨大地震の発生が警戒されている。非常時に財政出動を行う余力を確保するためにも財政健全化が必要だとする。
財務省は、借金が増え続ければ金利急上昇やインフレを招く懸念があるとしてきた。しかし、近年は日銀の異次元緩和で金利が超低水準に張り付き、デフレ圧力も根強い。財務省の説明を疑問視する声もある。
危機説VS楽観論、「国の借金」1200兆円でバトル【けいざい百景】
02年に米国の大手格付け会社が日本国債の格付けを引き下げた際、財務省は黒田東彦財務官(現日銀総裁)の名前で書簡を出し、「先進国の自国通貨建て国債のデフォルト(債務不履行)は考えられない」と反論。当時、書簡を携えて格付け会社への説明に回ったのが、財務省からニューヨーク総領事館に出向していた本田悦朗元内閣官房参与だ。
本田氏は積極的な金融緩和で緩やかな物価上昇を目指す「リフレ派」の論客で、経済政策のブレーンとして安倍晋三前首相を支えた。本田氏は経済成長率が金利より高い状態を維持すれば、PBが黒字化しなくても債務対GDP比の上昇を回避できると主張。超低金利が続く今は「財政出動の最大のチャンスだ」として、企業の存続支援やデジタル化推進、防災対策などへの積極支出を唱えている。
かつて年10兆円を超えていた国の利払い費は、近年8兆円前後で推移している。本田氏は「債務残高が増えても利払いの負担は増えていない。財政は健全に運営されている」と説明。PB黒字化のため財政を引き締めれば、「名目GDPや税収が上がらず、かえってマイナスになる恐れもある」と説く。消費税増税には「成長を阻害する」と強く反対する。
「日本に財政問題は存在しない」と明言するのは、税理士でもある自民党の西田昌司参院議員。西田氏は、近年注目を集める学説「現代貨幣理論(MMT)」を支持している。MMTの主張によると、日本のように自国通貨建ての国債を発行している国は、通貨を自由に発行して返済に充てることができる。財政破綻の懸念はなく、過度なインフレが起きない限り財政出動が可能だとする。
西田氏は「均衡財政が正しく、税収以上にお金を使うのは悪いというのは思い込みだ」と財務省を批判。「かつてもっと財政出動をしていれば日本はデフレ化しなかった」と語る。日本では戦後にハイパーインフレが起こったが、原因は国債の乱発ではなく、戦災による供給能力低下だと指摘する。「今は考えようによってはコロナとの戦争だ。勝ち抜くために徹底して財政出動をしなくてはいけない」と力説し、「企業の倒産・廃業で経済が縮小しないよう、国が率先して需要をつくるべきだ」と訴えている。
危機説と楽観論の隔たりは大きい。債務の膨張により、日本の財政は金利変動に対して脆弱(ぜいじゃく)な構造になっているが、持続可能性に関する国民的な議論も盛り上がっているとは言い難い。こうした中、22年度からは団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になり始め、歳出の3割を占める社会保障費の増加が加速する見込み。自民党財政再建推進本部の小委員会(小渕優子委員長)は5月の中間報告で「構造的な課題が最も深刻化するのはこれからだ」と危機感を示し、社会保障の歳出改革を急ぐよう求めた。
同友会の試算を担当したリコー経済社会研究所の神津多可思所長は「いろいろな世代が(財政を)わがこととして理解することが大事だ」と話す。将来にわたり債務と直面する若い世代や、社会保障改革で負担が増す高齢世代、納税して国を支える現役世代。それぞれの利害は食い違い、着地点を見いだすのは難しいが、幅広い層を巻き込んだ議論が必要な時期が来ている。
【略歴】
赤間央 経済部編集委員。日銀、首相官邸、経済産業省、自動車業界などの取材を経て2020年7月から財務省担当。(2021年5月19日掲載)


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