確率論:伊藤清(第1章:有限試行)

11/10/22 14:13
「確率論:伊藤清」第1章:有限試行
先日Newton別冊として発売された「未来はすべて決まっているのか―ニュートン力学vs.量子論」に書かれているように、ニュートン力学や相対性理論のように未来はすべて決まっている(決定論)のか量子力学から導かれるように未来は決まっていない(非決定論)なのかは1930年に開催された「第6回ソルベー会議」での「アインシュタインとボーアによる歴史的な論争」で決着をみた。未来は確率的にしか予測できないのだ。
それではどのようなからくりで未来は不確定になるのだろう?
量子力学における不確定性原理は未来を不確定にしている一因であるとされている。でもこれは量子力学が成り立つごく小さな世界での現象だ。私たちが日頃目にするサイズの世界にまで小さな世界の影響が及ぶものだろうか?
このあたりのことは「どうして未来は決まっていないのだろうか?」から始まる記事で書いたことがある。そして結局「釘に落ちる1つのパチンコ玉が、右に落ちるか左に落ちるかの確率が2分の1になることに帰着される。」と結んだ。
それでは(数学としての)確率論を使えば未来の不確定性を説明できるのだろうか?
数学としてのヒルベルト空間論(複素関数ベクトルによる無限次元の空間論)が量子力学を定式化したように、未来の不確定性は確率論がそれを定式化するのだろうか?
そんなはずはあるまい。現象が確率的であるからといって、その原理を確率論で示せるはずはない。未来の不確定さは物質的な現象だから数学だけで「証明」できるはずがないだろう。パチンコ玉と釘の問題についても古典力学的+量子力学的な要因がすべてであるはずだ。
量子力学の不確定性原理以外の理由で、未来を予測することが難しくなるケースはもちろんある。それは物理現象の要因が極めて多数になり複雑化することで、現実的には未来を正確に計算することができなくなる場合だ。
気象予報では確率的にしか翌日の天気を予想できないし、大学受験では過去の模試データとその学生の模試での成績を元にして合格率が計算される。量子力学を持ちださなくても未来は確率的にしか予想できないケースはいくらでもある。
さらにある特定の夫婦が10年以内に離婚する確率や、10年後に民主党が政権与党である確率などは、要因が多すぎかつ複雑すぎて事実上計算不能になる。
それでは確率論というのは何なのだろう?
数ある物理現象の不確定性のうち、何かを明らかにしてくれるものなのだろうか?
確率とは現代の物理学者の多くが主張するように「人間の不知の程度」をあらわす量にすぎないのだろうか?
ランダムウォークやブラウン運動、熱伝導などの現象は、確率微分方程式から記述される。(確率過程論)そして、ファインマンの経路積分における積分方程式の積分核(ファインマン核)は熱伝導方程式の積分核と類似している。(参照記事)
またその延長としての「伊藤の補題(伊藤のレンマ)」が金融工学に流用されてしまったことは「増補版 金融・証券のためのブラック・ショールズ微分方程式:石村貞夫、石村園子」や「Excelで学ぶデリバティブとブラック・ショールズ:藤崎達哉」という記事に書いたばかりだ。
今回読み始めた「確率論:伊藤清」は、数学者コルモゴロフが創始した現代確率論の名著である。本書で解説される確率論の基礎から確率微分方程式、確率過程、伊藤の補題までに至る道のりを著者である伊藤先生の思考の足跡をたどりながら確率論を見つめなおすことにした。
以下のブログ記事では「著者は大学の数学科にいる数学者の卵が金儲けの「戦場」に投入されている現状を非常に憂いています。そして、彼らを数学研究の場に戻してくれ。」と書かれている。
伊藤清「確率論と私」を読みました
http://niddm.at.webry.info/201012/article_17.html
本書を読むためには集合論、位相、ルベーグ積分、解析学などの理解が必要だ。それぞれについてのお勧め本は次のとおり。
入門者向き:「集合への30講:志賀浩二著」および「位相への30講:志賀浩二著」
中級者向き:「集合・位相入門: 松坂和夫著」
入門者向き:「ルベグ積分入門(新数学シリーズ23):吉田洋一」
中級者向き:「ルベーグ積分入門:伊藤清三」
入門者向き:「定本 解析概論:高木貞治」
前置きが長くなったが、第1章は有限試行の場合から始まる。高校までに学習した「確率」の内容を数学的に厳密に証明を与えながら紹介している。現代確率論は「公理主義的確率論」だ。確率の公理はこのページに示されている。
第1章の内容は次のとおり。確率の乗法律は公理なのであるがエントロピー最大の原理から導けること、大数の法則がチェビシェフの不等式を使って証明されているのが、僕としては目新しかった。
第1章:有限試行
- 確率空間
- 実確率変数、確率ベクトル
- 混合、直結合、樹形結合
- 条件付確率
- 独立性
- 独立な実確率変数
- 大数の法則
第1章のキーワード:有限試行、確率空間、事象、確率法則、確率測度、実確率変数、確率ベクトル、成分変数、結合変数、平均値、分散、標準偏差、相関係数、指示関数、チェビシェフの不等式、試行の混合、試行の直結合、試行の樹形結合、乗法律、エントロピー最大の原理、直和、直積、条件付確率、ベイズの定理、独立性、大数の法則
今日は京極夏彦の「狂骨の夢」と併読しながら、本書の第2章を読み始めたところである。
関連ページ:
ネットで学びたい方は、以下のページをご覧になるとよい。
確率論入門:(横田 壽)
http://next1.msi.sk.shibaura-it.ac.jp/MULTIMEDIA/prob/prob.html
計画数理演習(確率微分方程式)
http://takashiyoshino.random-walk.org/memo/keikaku_ensyu/web.html
以下のブログ記事では「著者は大学の数学科にいる数学者の卵が金儲けの「戦場」に投入されている現状を非常に憂いています。そして、彼らを数学研究の場に戻してくれ。」と書かれている。
伊藤清「確率論と私」を読みました
http://niddm.at.webry.info/201012/article_17.html
関連記事:
確率論:保江邦夫
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1e61db01708357715d1d758b5c1308f5
余談:「ソルベー会議」は、現在まさに第25回目の会議がベルギーのブリュッセルで進行中である。その様子はカルテクの大栗先生が連日ブログの記事にされているので、ぜひお読みいただきたい。今年は第1回が開催されてからちょうど100年目である。
Solvay Institutes - Homepage
http://www.solvayinstitutes.be/
ソルベー会議動画(1927年、第5回)
http://www.youtube.com/watch?v=8GZdZUouzBY
余談2:本記事とは全く関係がありませんが、imaroさんがお書きになった以下の記事は可笑しすぎです。(笑)
これはあかんやろ・・・
http://blog.livedoor.jp/imaro1690/archives/5171999.html
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「確率論:伊藤清」

はじめに
第1章:有限試行
- 確率空間
- 実確率変数、確率ベクトル
- 混合、直結合、樹形結合
- 条件付確率
- 独立性
- 独立な実確率変数
- 大数の法則
第2章:確率測度
- 一般の試行と確率測度
- 確率測度の拡張定理
- 確率測度の直積
- 標準確率空間
- 1次元の分布
- 特性関数
- 分布族の中の位相
- d次元の分布
- R^∞の上の分布
第3章:確率論の基礎概念
- 可分完全確率測度
- 事象と確率変数
- 分割とσ加法族
- 独立
- 条件付確率測度
- 条件付確率測度の性質
- 実確率変数
- 条件付平均値作用素
第4章:独立確率変数の和
- 一般的事項
- 独立確率変数の級数の概収束
- 中心値、散布度
- 独立確率変数の級数の概発散
- 大数の強法則
- 中心極限定理
- 重複大数の法則
- Gaussの誤差論
- Poissonの少数の法則
第5章:確率過程
- 関数空間CとD
- 確率過程に関する一般事項
- 情報と増大情報系
- 停止時
- 離散時変数のマルチンゲール
- 連続時変数のマルチンゲール
- Gauss系
- Wiener過程(Brown運動)
- 多項配置、Poisson配置
- 加法過程
- 無限可解分布
- Markov過程と転移確率
- 生成作用素
- 確率微分方程式論の直観的背景
- 確率積分
- 確率微分
- 確率微分方程式
- 1次元拡散過程
あとがき
索引
先日Newton別冊として発売された「未来はすべて決まっているのか―ニュートン力学vs.量子論」に書かれているように、ニュートン力学や相対性理論のように未来はすべて決まっている(決定論)のか量子力学から導かれるように未来は決まっていない(非決定論)なのかは1930年に開催された「第6回ソルベー会議」での「アインシュタインとボーアによる歴史的な論争」で決着をみた。未来は確率的にしか予測できないのだ。
それではどのようなからくりで未来は不確定になるのだろう?
量子力学における不確定性原理は未来を不確定にしている一因であるとされている。でもこれは量子力学が成り立つごく小さな世界での現象だ。私たちが日頃目にするサイズの世界にまで小さな世界の影響が及ぶものだろうか?
このあたりのことは「どうして未来は決まっていないのだろうか?」から始まる記事で書いたことがある。そして結局「釘に落ちる1つのパチンコ玉が、右に落ちるか左に落ちるかの確率が2分の1になることに帰着される。」と結んだ。
それでは(数学としての)確率論を使えば未来の不確定性を説明できるのだろうか?
数学としてのヒルベルト空間論(複素関数ベクトルによる無限次元の空間論)が量子力学を定式化したように、未来の不確定性は確率論がそれを定式化するのだろうか?
そんなはずはあるまい。現象が確率的であるからといって、その原理を確率論で示せるはずはない。未来の不確定さは物質的な現象だから数学だけで「証明」できるはずがないだろう。パチンコ玉と釘の問題についても古典力学的+量子力学的な要因がすべてであるはずだ。
量子力学の不確定性原理以外の理由で、未来を予測することが難しくなるケースはもちろんある。それは物理現象の要因が極めて多数になり複雑化することで、現実的には未来を正確に計算することができなくなる場合だ。
気象予報では確率的にしか翌日の天気を予想できないし、大学受験では過去の模試データとその学生の模試での成績を元にして合格率が計算される。量子力学を持ちださなくても未来は確率的にしか予想できないケースはいくらでもある。
さらにある特定の夫婦が10年以内に離婚する確率や、10年後に民主党が政権与党である確率などは、要因が多すぎかつ複雑すぎて事実上計算不能になる。
それでは確率論というのは何なのだろう?
数ある物理現象の不確定性のうち、何かを明らかにしてくれるものなのだろうか?
確率とは現代の物理学者の多くが主張するように「人間の不知の程度」をあらわす量にすぎないのだろうか?
ランダムウォークやブラウン運動、熱伝導などの現象は、確率微分方程式から記述される。(確率過程論)そして、ファインマンの経路積分における積分方程式の積分核(ファインマン核)は熱伝導方程式の積分核と類似している。(参照記事)
またその延長としての「伊藤の補題(伊藤のレンマ)」が金融工学に流用されてしまったことは「増補版 金融・証券のためのブラック・ショールズ微分方程式:石村貞夫、石村園子」や「Excelで学ぶデリバティブとブラック・ショールズ:藤崎達哉」という記事に書いたばかりだ。
今回読み始めた「確率論:伊藤清」は、数学者コルモゴロフが創始した現代確率論の名著である。本書で解説される確率論の基礎から確率微分方程式、確率過程、伊藤の補題までに至る道のりを著者である伊藤先生の思考の足跡をたどりながら確率論を見つめなおすことにした。
以下のブログ記事では「著者は大学の数学科にいる数学者の卵が金儲けの「戦場」に投入されている現状を非常に憂いています。そして、彼らを数学研究の場に戻してくれ。」と書かれている。
伊藤清「確率論と私」を読みました
http://niddm.at.webry.info/201012/article_17.html
本書を読むためには集合論、位相、ルベーグ積分、解析学などの理解が必要だ。それぞれについてのお勧め本は次のとおり。
入門者向き:「集合への30講:志賀浩二著」および「位相への30講:志賀浩二著」
中級者向き:「集合・位相入門: 松坂和夫著」
入門者向き:「ルベグ積分入門(新数学シリーズ23):吉田洋一」
中級者向き:「ルベーグ積分入門:伊藤清三」
入門者向き:「定本 解析概論:高木貞治」
前置きが長くなったが、第1章は有限試行の場合から始まる。高校までに学習した「確率」の内容を数学的に厳密に証明を与えながら紹介している。現代確率論は「公理主義的確率論」だ。確率の公理はこのページに示されている。
第1章の内容は次のとおり。確率の乗法律は公理なのであるがエントロピー最大の原理から導けること、大数の法則がチェビシェフの不等式を使って証明されているのが、僕としては目新しかった。
第1章:有限試行
- 確率空間
- 実確率変数、確率ベクトル
- 混合、直結合、樹形結合
- 条件付確率
- 独立性
- 独立な実確率変数
- 大数の法則
第1章のキーワード:有限試行、確率空間、事象、確率法則、確率測度、実確率変数、確率ベクトル、成分変数、結合変数、平均値、分散、標準偏差、相関係数、指示関数、チェビシェフの不等式、試行の混合、試行の直結合、試行の樹形結合、乗法律、エントロピー最大の原理、直和、直積、条件付確率、ベイズの定理、独立性、大数の法則
今日は京極夏彦の「狂骨の夢」と併読しながら、本書の第2章を読み始めたところである。
関連ページ:
ネットで学びたい方は、以下のページをご覧になるとよい。
確率論入門:(横田 壽)
http://next1.msi.sk.shibaura-it.ac.jp/MULTIMEDIA/prob/prob.html
計画数理演習(確率微分方程式)
http://takashiyoshino.random-walk.org/memo/keikaku_ensyu/web.html
以下のブログ記事では「著者は大学の数学科にいる数学者の卵が金儲けの「戦場」に投入されている現状を非常に憂いています。そして、彼らを数学研究の場に戻してくれ。」と書かれている。
伊藤清「確率論と私」を読みました
http://niddm.at.webry.info/201012/article_17.html
関連記事:
確率論:保江邦夫
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1e61db01708357715d1d758b5c1308f5
余談:「ソルベー会議」は、現在まさに第25回目の会議がベルギーのブリュッセルで進行中である。その様子はカルテクの大栗先生が連日ブログの記事にされているので、ぜひお読みいただきたい。今年は第1回が開催されてからちょうど100年目である。
Solvay Institutes - Homepage
http://www.solvayinstitutes.be/
ソルベー会議動画(1927年、第5回)
http://www.youtube.com/watch?v=8GZdZUouzBY
余談2:本記事とは全く関係がありませんが、imaroさんがお書きになった以下の記事は可笑しすぎです。(笑)
これはあかんやろ・・・
http://blog.livedoor.jp/imaro1690/archives/5171999.html
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「確率論:伊藤清」

はじめに
第1章:有限試行
- 確率空間
- 実確率変数、確率ベクトル
- 混合、直結合、樹形結合
- 条件付確率
- 独立性
- 独立な実確率変数
- 大数の法則
第2章:確率測度
- 一般の試行と確率測度
- 確率測度の拡張定理
- 確率測度の直積
- 標準確率空間
- 1次元の分布
- 特性関数
- 分布族の中の位相
- d次元の分布
- R^∞の上の分布
第3章:確率論の基礎概念
- 可分完全確率測度
- 事象と確率変数
- 分割とσ加法族
- 独立
- 条件付確率測度
- 条件付確率測度の性質
- 実確率変数
- 条件付平均値作用素
第4章:独立確率変数の和
- 一般的事項
- 独立確率変数の級数の概収束
- 中心値、散布度
- 独立確率変数の級数の概発散
- 大数の強法則
- 中心極限定理
- 重複大数の法則
- Gaussの誤差論
- Poissonの少数の法則
第5章:確率過程
- 関数空間CとD
- 確率過程に関する一般事項
- 情報と増大情報系
- 停止時
- 離散時変数のマルチンゲール
- 連続時変数のマルチンゲール
- Gauss系
- Wiener過程(Brown運動)
- 多項配置、Poisson配置
- 加法過程
- 無限可解分布
- Markov過程と転移確率
- 生成作用素
- 確率微分方程式論の直観的背景
- 確率積分
- 確率微分
- 確率微分方程式
- 1次元拡散過程
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