2020年7月25日土曜日

アフターコロナ


《一千兆円を超える国の借金と呼ばれるものは、私達は、国が一千兆円を超える通貨を過去に社会に供給したという考え方なんです。》



マルクスの国家批判
商品貨幣論による

機械の使用、生産手段の活用が貧富の差を生む
結核

国家主義、アガンベン、ジジェク、ガブリエル、浅田彰

ミュニシパリズム(munus=職務)
ザスーリチ
エンゲルス、マルク共同体


 コロナ・ショックで世界はどう変わるか
                        2020619日   白川真澄

Ⅰ 歴史的大事件としてのコロナ・ショック
1 新型コロナウイルス感染症のパンデミック
1)感染者700万人を突破(701.6万人68)、死者は4040.2万人)
2)感染の急速な拡大
           3月26日    425日    528
感染者       41.7      281.0      569.6   
 (うち米国)          90.5)     170.0
死者        1.9       19.7      35.5         
 (うち米国)           5.2     10.0  (単位:万人)
3不確実性に覆われる/新型コロナウイルスについて未知の部分が大きく(データが蓄積されていない)、収束の時期、ワクチンや治療薬の開発あるいは効能を予測することが不可能である
*不確実性/発生の確率が予測できるリスクとは区別され、発生確率が計算できず予測が不可能である(フランク・ナイト)。

2 社会活動の全面的な停止
 *外出制限措置による自宅待機者/33億8千万人以上、世界人口の4割超(3月末、日経4月1日)
 *学校に登校できない子ども/13億人、全体の72(同511日)

3 リーマン・ショックを超え世界大恐慌(192932年)以来の経済危機の勃発。
 詳しくは白川「コロナ恐慌――現実と行方」(テオリア610日号)参照
1)世界経済はマイナス成長に転落
 *IMFの予測では、20年の世界の実質成長率3.0/米国▲5.9%、ユーロ圏▲7.5%、日本▲5.2%、中国1.2%。名目GDPは世界全体で5.4兆㌦(約580兆円)縮小。
 *リーマン・ショック時(09年)の世界の実質成長率は、▲0.1%。
 *先進国は、20年の実質GDP成長率が6.1%(IMFの予測)  世界大恐慌時の先進国の成長率のダウンに匹敵/193031年が5.0%台、32年が7.6(週刊エコノミスト526日号)
2世界貿易は、20年に11.0IMFの予測) ⇔ リーマン・ショック時(0809年)は18.3%。
3雇用を破壊する大量失業の発生
 *米国の失業率は、コロナ前の3.5%(2月)から14.7%(4月)に急上昇。失業者は2カ月で1728万人増えて、2308万人に ⇔ リーマン・ショック時(0910月)は失業率10.0%、世界大恐慌時は25%。
 *日本の失業率は4月で2.6%(2月から0.2%悪化)、失業者数は178万人とまだ低い(リーマン・ショック時は失業率5.5%、失業者数350万人)が、有効求人倍率は1.32倍(2月から0.13低下)に悪化。解雇や雇止めが5月だけでも1万2千人増えて15823人に急増。非正規労働者は1年前と比べて97万人(うち女性が71万人)も減少休業者は597万人に急増しから348万人増)、労働力人口の9.5%にもなる。潜在的な失業者は、求職を諦めた94万人を書含めると700万人にも達する
   
4 社会の脆弱性と欠陥あぶり出されてい
1)コロナ・ショックは、社会抱えている(隠れている)構造的な脆弱性や社会保障制度欠陥をあぶり出す。
 *米国が抱える巨大格差(民族的・人種的・階級的な格差)は、新型コロナの感染者と死者の数がヒスパニックやアフリカ系、貧困層に際立って多いことに表れている
ニューヨーク市の10万人当たりの死者数は、ヒスパニックが22・8人、アフリカ系19.8人に対して白人10.2人、アジア系8.4人と、人種・民族間で顕著な差がある(朝日新聞デジタル4月9日)ワシントンでは、人口の46%を占める黒人が新型コロナの死者の約8割、イリノイ州では人口の15%を占める黒人が死者の43%、感染者の28%を占める(朝日新聞55日)
白人を中心にした富裕層が多く住むマンハッタン地区(人口約160万人)の感染者が約2万1千人、死者が約1800人だが、マイノリティや貧困層が多いブロンクス地区(人口約140万人)は人口規模がほぼ同じなのに、感染者は約3万9千人、死者は約2900人に上る。人口比で見ると、感染者は2倍以上、死者は約3倍である
 *シンガポールでの感染者の急増は、移住労働者の劣悪な住環境に起因
/シンガポールは、監視体制の徹底によって感染拡大の封じ込めに成功していたが、最近感染者が急増している。これは、建設工事に従事するインドなどからの出稼ぎ労働者が一部屋で10人が一緒に暮らすという劣悪な住環境に起因している(朝日517日)
 *日本では、検査数を増やさない理由として「医療崩壊」が起こる危険性が持ち出されたが、これは感染症に対する医療(検査・治療)体制が弱体化してきたことを表す
保健所の数の削減、地方衛生研究所の予算と人員の削減、人口10万人当たりのICUの病床数や医師の人数の少なさ、公立病院の削減(再編・統合)など。
(2)社会内部の深刻な格差は、パンデミックの重要な要因の1つである。
パンデミックの原因は、①開発による自然生態系の破壊(野生動物生息域の縮小など)、②巨大都市への人口集中(感染はニューヨークや東京など大都市で拡大)、③急速なグローバル化(大量の人の移動)、そして④社会内部の深刻な格差(医療、住環境、働き方)にある。

Ⅱ 国家の復権か――グローバル化の行方
1 「コロナ・ショック」は、至るところで国家の主権権力の強化・前景化を招いている。
1)ウイルスの感染拡大防止のために国境の封鎖(入国制限)、非常事態宣言と都市封鎖(ロックダウン)、外出禁止、店舗や劇場の閉鎖、感染者の隔離が行われた。これらはすべて、国民国家の主権権力の行使として行われている。EUは、人の自由な移動(シェンゲン協定)を核心的な特質としてきたが、ドイツなどは事実上の国境封鎖に踏み切った。
2)近代国家の権力行使が正当化され強化される最重要な領域の1つは、公衆衛生の領域(健康管理、感染症予防)である(これは、戦争の遂行と密接に関連していた)。国家は人びとの身体に働きかけ、「生物としてのヒト」を管理の対象にする。感染防止のための権力行使は、生命と身体を管理・誘導する権力、フーコーのいう「生-権力」(バイオ・ポリティクス)の行使にほかならない。具体的には、人口の調整(人口政策)、住民の健康管理(健康診断、感染症予防など)、衛生管理などである。感染防止のための措置を次々に打ち出した国家は、「生-権力」を全面的に行使したのである。
「生-権力」は、臣民を「死なせる」のでなく、「生命に対して積極的に働きかけ……生命を経営・管理し、増大させ、増殖させ、生命に対して厳密な管理統制と全体的な調整を及ぼそうと企てる権力」である(フーコー『性の歴史Ⅰ 知への意志』、訳P173
3)新型コロナ感染防止のための措置を次々に打ち出した国家は、「生-権力」を全面的に行使した。しかも、政府は最新のIT(追跡アプリなど)を駆使して人びとの位置情報や生体情報を収集し、感染患者への濃厚接触者に申告や隔離まで通告する。コロナ危機によって「生‐権力」のより高度化された現代的形態が出現したのである(Ⅴの5)。
4)各国の政府は感染防止の諸政策の実施に際して相次いで「非常事態」を宣言した。「非常事態」は、政府の権力行使が憲法(人権の保障)や法律に制約されない例外性を許容する。「非常事態」こそ主権権力が純粋の姿で現れる(K・シュミット)局面である。
5)さらに、国家は感染防止のために経済活動の停止(外出禁止、イベントの中止、店舗の休業など)を命じたが、その代わりに大規模な財政出動による補償措置を実施した。
*企業の給与支払いの肩代わり(イギリス)や生活支援の現金給付(米国、韓国)、企業に対する事業継続のための給付金や無利子の融資など。
*市場に任せることができず、国家が危機に陥った経済を救済し全面的に支える大きな政府」(ケインズ主義政策の大がかりな復権である。

2 こうした動きはとりあえず、国民国家が復権しグローバル化が決定的に後退するプロセスと捉えることができる。コロナ危機がグローバル化の抑制・後退と国家・政府の権力の復活を招いたという見解は、そのかぎりで正しい。
 *「危機に対応する主体は、何よりも各国政府である」(藤原帰一「パンデミック後の世界 国家の復権という皮肉」、朝日415日夕刊)
*「パンデミックを前にした国際機構は力だった。感染症拡大の防止はWHOの主要な目的のひとつであるが、中国において新型コロナウイルス感染が確認された後もWHOの警告は極度に遅れた。EUについても……危機を前にしながら、EUが果たした貢献は、みじめなほど小さかった」(同)
*「ここにはグローバル経済が後退し、経済危機が広がる中で、国家の役割が拡大する過程を見ることができる。国際協力や国際機構への期待がこれまでよりもさらに弱まる一方、国家の働きへの期待は高まり、これまでにない権力が国家に委ねられる。緊急事態が収束した後も、経済危機が続き、休業補償や失業手当など社会給付の必要がある限り、国家の役割は保たれるだろう」(同)
*「国家の権限は感染拡大前と比べて格段に強化されている。グローバル化の中で新保守主義によって市場の調整に任せる規制緩和と『小さな政府』という路線が、グローバル化を押しとどめる国家による規制強化と『大きな政府』へと転換しつつある」(牧原 出「国民の社会生活に介入する新たな規制国家への対処法」、週刊東洋経済2066日)
「この路線転換は動かしがたい流れとなるだろう。変化の最大の原因は、……グローバル資本主義が機能しなくなっていることである。感染症の蔓延はグローバル化の産物である。だが、これへの対処は……人々の移動すなわちモビリティの遮断というグローバル化の抑制によってのみ可能なのである。……情報のグローバル化で乗り越えられるように見えなくはない。とはいえ、やはりリアルに人と物が往来しないのは、グローバル化が押しとどめられたことを意味している」(同)。

3 それでは、グローバル化は終焉し国民国家が主役となる時代に戻るのだろう
1)新型コロナ感染の大流行はその防止対策としてヒトの国境を越える移動を禁じ、モノの交易(貿易)を激減させたが、これはグローバル化を押し止めることを意味した。
2)中国での感染拡大による生産活動の休止は、グローバルに張りめぐらされたサプライチェーンを寸断し、部品の供給不足が世界各国で自動車などの生産を停止させた。そこから、生産拠点を国内に回帰させる動きも出ている。
 *日本の企業はとくに中国からの部品供給に強く依存していたから、政府は生産拠点の国内回帰を後押しする費用として2400億円を緊急経済対策に計上した。
3)しかし、生産拠点の国内回帰は(日本であれ米国であれ)、間違いなくコスト高を招く。したがって、国内回帰が勢いよく進むことにはならないだろう(労働者をAIに置き換えるあれば、別だが)むしろ海外の生産拠点を分散・多様化する流れが強まるだろう。そのことは、グローバル化の後退ではなく新たな形態での展開である。
*在中国アメリカ商工会議所などのアンケート調査では、中国に進出している「アメリカ企業の70%以上が『サプライチェーンや調達拠点を他の地域へ移す予定はない』と回答した。……。仮に[生産拠点の本国回帰のための]移転費用に補助金が出ても、それは生産オペレーションに必要なコストの一部にすぎない。最適な生産地を選ぶには、市場との距離、インフラの水準、労働力の質、産業集積の度合いなど、さまざまな要素をビジネス・ベースで熟慮する必要があるからだ。とはいえ長期的には、サプライチェーンの変容は避けられないかもしれない(財新Biz&Tech、「東洋経済オンライン」4月27日)

4 コロナ恐慌の渦中で、働き方や暮らし方のデジタル化の急速な進行にともなって、巨大IT企業(GAFA)の圧倒的な支配力が確立されつつある。
1「コロナ恐慌」がサービス部門や製造業に大打撃を与えているなかで、ネット消費やテレワークの広がりはGAFAなどIT企業の利益と影響力を増大させている。GAFAの支配力の高まりは、情報とマネーを柱にしたグローバル化を加速する。
 *コロナ危機でも、GAFAM(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル+マイクロソフト)の業績は順調で、20年1~3月期の決算は5社とも増収を確保し、最終損益も全社が黒字であった。アマゾンは増収率が26%と、最も高かった(日経5月9日)
*GAFAM5社の時価総額は合計で約5兆3000億㌦(約560兆円)に達し、東証1部約210社の合計約550兆円を初めて超えた。2016年末時点では東証Ⅰ部の合計が2倍以上大きかったが、約3年半で東証Ⅰ部が時価総額を4%程度減らしたのに対して、マイクロソフトの時価総額は2.8倍、アップルも2.1倍になった。テレワークやネット通販など新型コロナウイルスで変容した生活様式でも勝ち組で、自動車などの次世代技術での投資余力も大きいことから評価を集める(同)
GAFAMの時価総額は米国の株式市場でも18%弱を占め、巨大IT企業に資金が集中している。GAFAMは、他社の製品やサービスの基盤となり、社会インフラに近づきつつあるサービスを提供している。不況下でも企業や個人は、インフラへの投資を抑制するのは難しく、各社の業績を支えている(同)
*各国政府は危機対策として積極的な金融緩和と財政出動を行っているが、行き場を失ったマネーが数少ない成長分野としてITに大量流入している側面が大きい(同)
*米国のアップルは、20年1~3月期の決算が、市場の減収予想を覆し、わずかながら増収を確保した。売上高は前年同期比1%増の583億1300万㌦、純利益は3%減の112億4900万㌦であった。主力のiPhoneは世界規模の直営店の閉鎖などで販売減となったものの、音楽・ゲーム配信やウエアラブル端末の伸びが補った。スマホの販売は落ちているが、リモートワークや学校の遠隔授業の広がりによってタブレット端末「iPad」やパソコン「Mac」の販売が大きく伸びているという(日経5月2日)
2GAFAの支配力の高まりは、情報とマネーを柱にしたグローバル化を加速する。

4 このように見ると、グローバル化が終焉して再び国民国家が主役となる時代に回帰するとは単純に言えない
1)冷戦終焉以降のグローバル化は、ヒト・モノ・マネー・情報のすべてにおいて国境の壁と国家の規制をなくしていく流れとして進行してきたすなわち、国家や社会(民衆)による規制を取り払い、すべてを市場の自由な競争(市場原理)に委ねるという新自由主義的なグローバル化であった。
2新自由主義的グローバル化は、20089年のリーマン・ショック(世界金融危機)によって挫折し、巨大金融機関と大企業は国家による救済を求めたのである。この危機を乗り越えた後では、国家の介入は後退し再び規制緩和の動きが強まると同時に、国際協調・協力の新たな枠組み(G20)の下でのグローバル化が進行した。
3)リーマン・ショック後のグローバル化は、次のような特徴をもっていた。
①中国を拠点(「世界の工場」)とするサプライチェーンの構築
②高度情報化に伴う巨大IT企業(GAFAなど)の世界的支配力の形成
③自由貿易圏の形成(ルール)をめぐる米国主導のTPP構想と中国主導の「一帯一路」構想の競合。
42016年を転機として、グローバル化に逆行する動きがトランプの自国第一主義やBrexitとして表面化したが、それはヒトとモノのグローバル化に制限を加える試みであった。すなわち、移民の流入の制限(トランプによる「不法移民」排除、Brexitの理由としての移民流入の制限)および貿易の制限(米中間の関税引き上げ競争)が行われた。しかし、マネーと情報のグローバル化逆にいっそう加速された(トランプは米国への投資を奨励した)。
5コロナ危機はヒトとモノの移動や交易を半ば強制的にストップしたが、感染収束後もヒトとモノの移動の一定の制限は継続するであろう。したがって、2016年以降に出現した姿でのグローバル化、すなわちヒトとモノの移動は国家による規制が強まる反面、マネーと情報の越境活動が加速されるというグローバルいっそう推進されるろう。
6)とはいえ、情報のグローバル化についても国家間の対立と競争が色濃く影を落とし、国家の介入が強まっている。米国は、最先端の情報技術5Gで先行する中国のファーウェイ製品の使用を禁止・排除する政策を打ち出したが、イギリスやスペインは使用を容認しドイツやフランスも容認する方向である。ファーウェイ問題は、国家的利害の争いと先端技術の普遍性(国境を越える)の緊張関係を映し出している。
7)グローバルな巨大IT企業と主権国家(米中の大国を含む)との関係は、通貨発行権(リブラの発行など)やデジタル課税をめぐって、競合・対立と連携・依存という複雑な関係として展開されるであろう。

5 コロナ危機によってグローバル化に終止符が打たれるという見方は一面的な誤りだが、グローバル化の軌道修正と変態が起こることは必定である。
1ダニエル・コーエンは、「グローバル型資本主義」が後退期に入り、工業型資本主義から『デジタル型資本主義』への転換が加速される、と主張している。
*「遠く離れた場所で生産することによってコスト削減を追求し続けるというグローバル型資本主義が衰退傾向にあることは、『デジタル型資本主義』という新たな経済モデルの加速からもうかがわれる。……。21世紀型の資本主義では、新たなコスト削減を実現するために、可能なものはすべてデジタル化されるだろう。現在、われわれが甘受する集団隔離では、テレワーク、遠隔授業、オンライン診療などでデジタル技術が駆使される。将来、振り返ったとき、世界の仮想化を加速させたものが今回の危機だったと見なすに違いない。すなわち工業型資本主義からデジタル資本主義への転換点として記憶されるのだ」(「グローバル資本主義は衰退し、デジタル型資本主義が加速する」、週刊東洋経済5月29日号)
(2)コーエンの規定には不正確なところがあるが、コロナ危機をきっかけにして、「デジタル資本主義」への転換が一挙に進むことは間違いない。労働におけるテレワーク、生活におけるネットショッピング、オンライン授業、オンライン診療などは一過性のものに終わらず、危機の収束後にも後戻りせず定着するだろう。
 *デジタル資本主義への転換とは、自動車や石油・石炭エネルギーの大量生産・大量消費・大量廃棄を基軸にした経済から、ITを駆使したデジタル化が主役となる経済への転換である。ここでは、ITによる情報と知識の生産・流通・消費が最大の価値を生み、情報と知識の独占的所有と社会的共有との相克が展開される。
 *諸富 徹の「資本主義の非物質主義的転回」論/「『デジタル化』はその[資本主義の構造変化]重要な要素だが、それがすべてではない。……資本主義の構造変化を『資本主義の非物質主義的転回』」と捉えるべきだ。すなわち、「資本主義の価値の担い手が、『物質的なもの』から『非物質的なもの』へと移行する……。経済成長を牽引するのは、『物的資本(有形資産)』から『無形資産』(知的財産、ソフトウエア、組織、ブランドなど)の蓄積に移行する。……。もっとも重要な投資は、工場建設などの物的投資から『人的投資』へと移行していく。……。労働もまた非物質的色彩を強め、消費は『モノ消費』から『コト消費』へと移っていく」(『資本主義の新しい形』2020年、岩波書店)
(3)グローバル資本主義は、自動車産業などの巨大多国籍企業が全世界にサプライチェーンを張り巡らし生産と消費を支配するような形態が後景に退き、GAFAが頂点に立つ情報化と巨額のマネーが氾濫する金融化を特徴とする姿態が前景に出てくるだろう

6 いっそう「覇権国なき不確実性の世界」へ
1)現在のコロナ危機の驚くべき特徴は、これほどの危機の大きさにもかかわらず、危機対応ための国際協調・国際協力への積極的なイニシアティブまったく生まれていないことにある。どの大国もリーダーシップを取ろうとせず、「自国第一主義」がまかり通り、米中間の争いが激しくなっている
 *トランプは新型コロナ感染拡大の責任が中国にあるとの非難を続け、ついにWHOが「中国寄り」だとして(このこと自体は事実だが)、ついにWHOからの脱退を表明。その「自国第一主義」の立場をいささかも変えず、むしろ強めている。
中国は、感染拡大の初期に情報を隠蔽して世界から不信を買ったが、感染拡大の抑え込みに一定程度成功すると、マスクや防護服を提供する外交攻勢に出たマスクや防護服を提供した国や国際機関は4月初めまでに130を超え、医療チームの派遣も12か国。3月以降、輸出に回したマスクは38億6千万枚、防護服は3752万枚(朝日415日)にもかかわらず、中国がポストコロナの世界を主導するリーダーになれないのは、コロナ対策での情報隠蔽や香港の自治圧殺への強い不信感が拭い切れないからである。
EU、ESM(欧州安定メカニズム、2010年の債務危機時に創設)の活用など3項目から成る総額約5400ユーロ(約64兆円)の経済対策で合意した。だが、イタリアなど南欧諸国が提唱した共同債(「コロナ債」)の発行については、ドイツが賛成に転じたが、オランダやスウェーデンなど豊かな「北」の国が反対している
2ビル・ゲイツは、G20の首脳に対して、必要な医療用物資(マスクや防護服)や医療器具(人工呼吸器)の提供、ワクチンや治療薬の開発、医療チームの派遣(とくに発展途上国への)などの面で、国際協力乗り出すべきだと訴えている。しかし、この訴えは、トランプや習近平によってまったく無視されている。
「新型コロナウィルスにとって国境は意味をなさない。私がこの点を指摘するのは、各国政府が自国の対応にもっぱら集中しているからだ。多くの低・中所得国をいま支援しなければ、感染者数と死者数が現在の水準を超える可能性は高い。このままでは数百万人が命を落とす危険性がある。先進諸国が今後数カ月で抑え込みに成功しても、このパンデミックがどこかで猛威を振るう限り、新型コロナが再び襲ってくることはある。この点こそ、この感染症との闘いにグローバルに取り組みべき理由である」(「G20首脳、世界的視野を ワクチン開発に投資惜しむな」(日経412日)
3歴史的には、世界が深刻な経済崩壊や破滅的状況に直面すると、新たな国際協調・協力の仕組みが作られ、危機の克服に決定的な役割を果たしてきた
2次世界大戦後は、国連とブレトンウッズ体制が創られ、戦後の復興の枠組みとなった。これは実質的には米国の覇権の確立を意味した。
戦後最大の経済危機であったリーマンショック(2008年)直後には、オバマの働きかけで中国を招き入れた20首脳会議創設。これは新たな国際協調・協力の枠組みとなり、中国が期待に応えて4兆元の財政出動を行い、危機からの脱却に貢献した。
4)しかし、今回の世界的な危機に際しては、新たな国際協調・協力へのヘゲモニー行使の試みも現れていない。その点では、保護主義とブロック化が進行した1929年~32年の大恐慌と大不況後の世界と類似している。
5「覇権国なき世界」は無秩序で不確実性・不安定性に満ちた世界であるこうした世界は、2016年を転機にした「自国第一主義」の流れとして出現した。そして、コロナ危機に対する米・中両大国の対応は、「自国第一主義」、つまりグローバル化への逆流を不可逆的な流れとしている。コロナ危機の収束新たな国際協調・協力の試みや枠組みを生み出す可能性否定することはできないが、現在のところ極めて小さい。

Ⅲ ネットによる超監視社会の形成
1 韓国の経験――コロナウイルス感染者の追跡アプリの有効性
1)韓国は2月下旬3月上旬に感染者が爆発的に増大したが、中国のような言論や行動の統制も欧米のような都市封鎖も行わずに、その後の感染拡大に成功した。NYタイムス紙20327日)は、その4つの理由を挙げている。①危機的状況になる前からの政府が迅速な対策の準備(検査用キットの大量生産の促進など)、②大量の検査の実施、③感染患者との接触者の追跡と隔離・監視、④国民に対する情報公開と政府への信頼・協力。
2ネットのアプリを使った感染患者との接触者の追跡が、感染拡大の封じ込めの成功の重要な要因とされているが、同紙は次のように述べている
*「携帯電話は居住地区で新規感染者が発見されるたびに緊急警報のバイブレーションが鳴る。ウエブサイトやアプリでは感染患者の1時間ごと、時には1分ごとの移動経路を表示する――どのバスに乗ったか、いつどこで乗り降りしたか、はたまたマスクを着用していたかどうかまで。感染患者と経路が交わったと思う人は検査センターに届け出るよう促される。韓国人はプライバシーの損失を、必要なトレードオフとして広く受け入れるようになった。自主隔離命令を受けた人はもう1つのアプリをダウンロードしなければならない。患者が隔離から抜け出した場合、当局に連絡が行くというアプリだ。違反した場合の罰金は最大2500㌦にもなる」

2 日本でも、同じコロナ感染追跡アプリが近く導入される。個人のスマホの位置情報記録を使った追跡システムで、同じアプリの利用者が感染した場合に濃厚接触者に通知する(朝日420日)世界40カ国・地域で導入され、23か国が準備中である。
1)これは、“ブルートゥース通信(近距離無線通信)で、アプリの利用者同士が一定時間近い距離にいた人のスマホ端末を匿名でそれぞれのスマホに記録 → 利用者の感染が判定されると保健所などがアプリのシステムに「陽性」と入力 → 感染者のスマホに近い距離にいたと記録されていた人に通知”という仕組みである。
(2)この仕組みは、シンガポールで先行的に導入されシステムをモデルにしている。利用者の感染が疑われると、本人のスマホに残る他人との接触記録を政府が提出させ、接触者に電話で連絡する。アプリの利用は任意で、使用時には政府に情報が渡ることへの同意も求める。しかし、プライバシー侵害の惧れから、アプリのダウンロード数は、人口の約5分の1の100万人超にとどまる。
(3)日本の仕組みはアップルとグーグルが共同開発したもので、プライバシー保護の機能を高める。利用者「濃厚接触」したリスクをいち早く知ることができる、「いつ、どこで、誰と接触した」かは通知されない。接触データは利用者のスマホだけに蓄積され、政府が管理しないようにするという(日経524日)

3 ネット上の個人の位置情報を、感染拡大を防ぐための濃厚接触者の割り出しに使ってきたのは、監視国家のイスラエルと中国である(朝日420日)
1)イスラエルでは、治安機関が携帯情報の位置情報をもとに感染者と過去14日間に濃厚接触した人を割り出し、感染の可能性があることを「警告」する。
*治安機関は、「テロ」対策を理由に全利用者の位置情報を把握しているとみられ、アプリをダウンロードしてもらう必要はない。政府は以前から携帯電話の位置情報や通信記録を集めて「テロ」対策に利用してきたが、今回は期間限定で「感染症対策」にデータの利用対象を拡大している。
2)中国政府も感染者の行動を、交通機関の利用記録などを使って追跡して公表し、濃厚接触者に申告を促した。
 *中国政府は、武漢市の封鎖から1週間後に(130日)、感染者の行動を追跡するビッグデータ分析チームを立ち上げ、感染者が使った交通機関の便名や座席番号、駅や空港の出入場記録を集め、その行動を追跡してきた。そしてメディアなどで感染者の詳しい移動経路を公表し、同じ便に乗った人や濃厚接触者に申告を促した。その結果、全土で72万5千人の濃厚接触者を追跡できたとしている。

4 追跡アプリを使った濃厚接触者の割り出しや警告は、感染症の拡大防止には有効であろう。しかし、感染症対策に限定した利用とされていても、アプリに蓄積された個人情報が国家に利用されたり、このシステムが個人の行動を監視するシステムに転化していく危険性きわめて大きい。
1)命と健康を守るのか、それともプライバシーを守るのかという選択が迫られる。
 *ギャラップ・インターナショナル・アソシェーションが世界30か国を対象に実施した「コロナウイルスに関する国際世論調査」(3月)では、「ウイルスの感染防止に役立つならば、自分の人権をある程度犠牲にしても構わないか」という問いに「そう思う」と答えた人が平均で75%、「そう思わない」と答えた人が19%であった。人権意識の強いドイツでも「そう思う」が71%、フランスでは84%である。逆に、日本では、「そう思う」が32%、「そう思わない」が48%と、抵抗感が強い。
2)コロナ危機がネットを使った監視社会化を強く加速し、市民の多数派もこれを受け入れつつある。

5 歴史家のY・N・ハラリは、コロナ危機が新たな監視社会を出現させるそして一時的・例外的な緊急措置(非常事態)が常態化する傾向がある、と警告を発している
1)新型コロナウイルス感染症の大流行は、高度なITを駆使した体外」監視から「皮下」監視への移行をもたらし、監視の歴史の分岐点となるかもしれない。
 *「数か国の政府が、新型コロナウイルス感染症の流行との戦いで、新しい監視ツールをすでに活用している。……。中国の当局は、国民のスマホを厳重にモニタリングしたり、何億台もの顔認証カメラを使ったり、国民に体温や健康状態の確認と報告を義務づけたりすることで、新型コロナウイルス感染症の病原体保有者であると疑われる人を素早く突き止められるだけではなく、彼らの動きを継続的に把握して、接触した人を全員特定することもできる。国民は、感染者に接近すると、多種多様なモバイルアプリに警告してもらえる」(「新型コロナウイルス後の世界」、Web河出47日)。
 *「油断していると、今回の感染症の大流行は監視の歴史における重大な分岐点になるかもしれない。一般大衆監視ツールの使用をこれまで拒んできた国々でも、そのようなツールの使用が常態化しかねないからだけではなく、こちらのほうがなお重要だが、それが「体外」監視から「皮下」監視への劇的な移行を意味しているからだ。……今や政府は、あなたの指の温度や皮下の血圧を知りたがっているのだ」(同)
 *「[体温や心拍数などの生体情報の監視は]あなたが病気であることを、本人が気づきさえしないうちに知るだろうし、あなたがどこに行き、誰と会ったかも把握している。そのおかげで、感染の連鎖を劇的に縮め、完全に断ち切ることさえできるだろう。だが、そこには負の面もある。当然ながら、ぞっとするような新しい監視体制に正当性を与えてしまうからだ。……。もしFoxNewsのビデオクリップを見ているときの私の体温や血圧や心拍数の変動をモニタリングできたら、何が私を笑わせたり、泣かせたり、激怒させたりするのかまでを知ることができる。……。企業や政府が揃って生体情報を取集し始めたら、私たちよりもはるかに的確に私たちを知ることができ、そのときには、私たちの感情を予測することだけではなく、その感情を操作し、製品であれ政治家であれ、何でも好きなものを売り込むことも可能になる」(同)
2)市民を監視する緊急の非常事態」措置は、その後も必ず常態化する法則性がある
 *「今後、多くの短期的な緊急措置が生活の一部となる。非常事態とはそういうものだ。非常事態は、歴史のプロセスを早送りする。平時には討議に何時間もかかるような決定も、ほんの数時間で下される。未熟なテクノロジーや危険なテクノロジーまでもが実用化される。……。いくつかの国がまるごと、大規模な社会実験のモルモットの役割を果たす」(同)
 *「生体情報の監視を、非常事態の間に取る一時的措置だとして擁護することもできる。感染症の流行が終息したら、解除すればいい、と。だが、一時的な措置には、非常事態の後まで続くという悪しき傾向がある。常に何かしら新たな非常事態が近い将来に待ち受けているから、なおさらだ。……。イスラエルは独立戦争に勝利してから久しいが、非常事態の終息宣言はついにせず、1948年の『一時的』措置の多くは、廃止されぬままになっている」
 ☞ ロシア革命の変質は、「非常措置」が社会的な緊張や敵対を激化させることによって「非常措置」を永続化し拡大していくという悪循環から始まっていた。

6 同時に、ハラリは、追跡用アプリを使っても、また全体主義的な監視政治体制を形成しなくても国民の権利拡大によって自らの健康を守る道を選択できる、と主張している
1)ハラリは、情報の公開と入手があれば、国民の権利を拡大しながら自らの健康を守り、感染症の流行を抑え込むこむことができる、と言う。
 *「私たちは、プライバシーと健康の両方を享受できるし、また享受できてしかるべきなのだ。全体主義的な監視政治体制を打ち立てなくても、国民の権利を拡大することによって自らの健康を守り、新型コロナウイルス感染症の流行に終止符を打つ道を選択できる」)。
 *「韓国、台湾やシンガポール……の国々は、追跡用アプリをある程度使ってはいるものの、広範な検査や偽りのない報告十分に情報を提供されている一般大衆の意欲的な協力を、はるかに大きな拠り所としている(同)
 *「監視政治体制を構築する代わりに、科学と公的機関とマスメディアに対する人々の信頼を復活させる時間はまだ残っている。新しいテクノロジーも絶対に活用すべきだが、それは国民の権利を拡大するテクノロジーでなくてはならない私は自分の体温と血圧をモニタリングすることには大賛成だとはいえ、そのデータは全能の政府を生み出すために使われることがあってはならない。むしろ、そのデータのおかげで私は、より適切な情報に基づいた個人的選択をしたり、政府に責任をもって決定を下させるようにしたりできてしかるべきなのだ」(同)
2)スマホを使った追跡技術や身体のモニタリング技術など最新のテクノロジーに対する市民の側からのコントロールや自主的利用について、ハラリはかなり楽観的である。しかし、市民の側からの位置情報や生体情報に対するコントールの仕組みをどうするのか
課題は未解決のままである。
*追跡アプリに蓄積されたデータが一定期間後には自動的に消去される仕組みの導入によって、政府が個人情報を入手・収集することを防ぐことは、技術的には可能であろう。しかし、政府が個人のデータを秘かに収集する危険性は残る。
*安倍政権は、生活支援の現金給付などの行政サービスにマイナンバーの利用を結び付ようとしている。現在のところ、逆に混乱を招いているが、マイナンバーと銀行口座のひも付けの計画を含めて政府が個人情報の収集と管理を進める企ては強まっている。

Ⅳ 働き方と暮らし方はどう変わるか――デジタル化が格差を拡大する
1 コロナ・ショックは、全面的な外出制限によって働き方や暮らし方に大きな変化をもたらした。テレワークオンラインショッピングオンライン授業やWEB講座オンライン診療の広がり消費の質の変化(不必要なモノやサービスの選別)などである。こうした変化は一時的・短期的なこと終わらず感染症の終息後も持続し定着するだろう

2 テレワークの社会的広がりと格差拡大
(1)外出自粛の措置によって一気に広がったのは、在宅勤務のテレワークである。また、休校措置もあってオンライン授業が導入され、オンライン診療も初診から解禁されることになった。この働き方の変化は、危機が終息した後でも広く定着し常態化するだろう。
 *テレワークやオンライン研修の急速な実施によって、データ通信量が急増している。NTTコミュニケーションズによると、3月下旬の国内の通信量(日中)は、2月に比べて最大4割も増えた。米国のアカマイ・テクノロジーによると、世界のデータ通信量は1~3月期に、前年同期の2倍以上になる毎秒160テラ(テラは1兆)に達した(日経4月28日「Biz Frontier」)。その結果、通信の渋滞なども発生している。
 *オンライン会議システムのZoomは、昨年12月には1000万ユーザーにすぎなかったが、いまや数億人が使う巨大プラットフォーマーになった。そのため、セキュリティリスクも高まった。
 *日立は、21年4月以降も国内従業員(約3万5千人)の出社率を全体の50%にとどめる方針である。具体的には、週2~3日出勤にし、「ジョブ型」雇用を導入する(朝日5月27日、日経5月27日)また、NTTは、オフィス部門を中心に在宅勤務率を5割以上(現在は9割)に保つ予定である(日経5月29日)
(2)テレワークの長所は、長時間の過密な通勤から解放されることにある。子育てとの両立や生産性の向上などを実感する人はあまり多くない。
 *週刊東洋経済のアンケート調査(4月21~5月6日)では、メリットとして「通勤時間を省ける」と答えた人が69.2%とダントツ。「子育てや介護をしながら働ける」4.7%、「仕事に集中しやすい」7.7%、「アイデアが湧きやすい」2.0%にすぎない(週刊東洋経済6月6日)。なお、往復の通勤時間を居住地別に見ると、神奈川県1時間39分、千葉県1時間36分、埼玉県1時間31分、東京都1時間28分、奈良県1時間27分、対照的に宮崎県は35分である(2008年、総務省)。
3)では、テレワークはどのくらい実施されているのか。企業規模業種や仕事の種類雇用形態によって大きな差があることが明らかになった。大企業の本社では高い導入率になっているが医療や介護サービスの現場、建設業、配送サービス、製造業の工場、中小零細企業、そして非正社員(派遣・契約労働者)のなかでは導入率はきわめた低い。
 *東京商工会議所の調査によると、従業員300人以上の会社でテレワークを導入しているのは57.1%だったのに対し、同50人未満の中小企業は14.4%と少ない。導入を検討中との回答を合わせても3割弱である(日経4月14日)
*LINEの調査(会社員と公務員の計4772人を対象、4月16日)によれば、テレワークの実施率は平均35%で、従業員が1~10人の企業では12%と最も低く、逆に1万~2万人の企業では65%と最も高かった。従業員500人以下では、すべて35%以下であった。業種別では、「IT、通信、インターネット関連」が最も高く73%、このほか「金融・保険」が58%、「教育・学校」が49%と高かった一方、製造業は30%台にとどまり、医療・福祉関連は10%未満であった(日経20年4月25日)。
 *パーソナル総研の調査では、月10~12日の全国平均のテレワーク率は、正社員が27.9%、非正社員が17.0%。派遣や契約の労働者は、テレワークが認められないケースが続出している(朝日4月27日)
4)米国では、アフリカ系(黒人)やヒスパニック系のマイノリティや貧困層の感染が深刻だが、そこには彼らがテレワークなどできず現場の仕事を休めない状態に置かれていることに原因の1つがある。
 新型コロナの感染症による死者数は、ヒスパニックやアフリカ系が白人に比べて2倍以上多いが(ニューヨーク市、白人が10万人当たり10.2人に対して、ヒスパニックが22・8人、アフリカ系19.8人)。この格差は、医療面での格差に加えて、ヒスパニックやアフリカ系の人びとは、テレワークができない低賃金の仕事に就いていて、人との接触が続いていて感染リスクが高いからである。
 *医務総監は「在宅勤務ができる仕事に就いている黒人は5人に1人、ヒスパニックは6人に1人だ」と指摘している。また、日ごろから栄養状態が悪く基礎疾患を抱えているので、感染すると重症化しやすい。医療保険や十分な医療施設がないため医師にかかれない人も多い。
 *感染リスクを避けるためテレワークで仕事ができる人は、米国の労働力人口1億4400万人のうち4200万人、29%にすぎない(労働統計局、Bloomberg2035日)。また、大卒以上が52%に対して高卒は13アジア系が37%、白人が30%に対してアフリカ系が20%、ヒスパニックが16と、学歴および人種・民族間で大きな格差がある(朝日新聞59日)
5)テレワーク普及は、働き方における労働者内部の格差を拡大する。すなわちテレワークが可能な人たちと不可能な人たちとの間に深刻な格差が生じる
医療や介護、製造業の工場や飲食店のサービス、配送などの労働は、テレワークに適していない。そして、清掃サービスやごみ収集といった仕事は、そもそもテレワークが不可能である。こうした仕事は感染症のリスクが高いが、低賃金の労働者によって担われる。またデジタルのスキルを持たない高齢者などは、テレワークから排除される。
 *コールセンターや物流センターの仕事は、密集した空間で働くことを強いられている。コールセンターは個人情報を扱うだけに在宅での仕事が難しい、NTTドコモでは、新型コロナウイルス感染者が出た。
6)デジタル資本主義は、テレワークの普及にその具体的な表現の1つを見出すことができるが、それは、ITを駆使してテレワークに従事する高賃金の労働者に対極に、自らの身体と手足を頼りに清掃・飲食サービス・配送・介護などの仕事に従事する大勢の低賃金労働者が生み出されることを意味する。AIの導入と普及によって将来的に起こるであろうと予測されていた労働の両極化と格差の拡大が、コロナ危機によって一気にたぐり寄せられている。
7また、オンライン授業の導入も、家庭の所得格差によってPCやスマホを持てない子どもは排除されることになる。
*オンライン授業も、森上教育研究所の緊急調査(4月上旬)によると、首都圏1都3県の私立高校ではICTを使った授業を実施すると答えた高校は全体の約3分の2に上った。だが、公立の小中高では、双方向の遠隔授業は5%の実施にとどまる。
 *大学のオンライン授業についても、学生は、スマホは必需品でもPCやタブレットを持っていない人がほとんどである。バイトの激減で窮地に立たされる学生は、通信料金の負担だけでも厳しいのに、PCやタブレットを購入する余裕はない(朝日4月19日)

 ネットショッピングの急速な拡大
(1)コロナ危機に伴う外出禁止措置は、小売店や百貨店の顧客を失わせ売り上げを急減させているが、その反面オンラインによる買い物を増大させているなお、スーパーの売り上げはそれほど変化していないが、コンビニはオフィス街の店が苦戦している)。小売店・百貨店の売り上げの低下とネットショッピングの伸びは、すでに進行していた傾向であが、コロナ危機はこの傾向を一気に加速し多くの小売店が倒産・廃業に追い込んでいる。そして、外出禁止が解除されても、ネットショッピングの増大はさらに進むであろう。
 *「米国のアマゾン・ドット・コムの株価は……史上最高高値水準で推移している。多くの小売店舗が営業を休止し、消費者も外出すると感染が怖いとなれば、『ショッピングはインターネットを通じた通販で』と多くの人が考えことは想像に難くない。同時に、長期間の営業休止に耐えられなくなる小売店が多数出てくることも考えると、アマゾン的な小売業のシェアがこれまで以上のペースで拡大する可能性が大きい」(山崎「コロナ問題の長期化で起こり得る『4つの経済的大変化』、DIAMONDonline4月22日.
 ネットショッピングの急増は、物流センターや倉庫、配送に従事する労働者の過重労働を招いている。配送の仕事に携わる労働者は、感染のリスクを負いながら働いている。
 *「多くの失業者が発生して、その人々がアマゾン的な会社や、その物流を担うビジネスに職を求めるような世界が予想より早く訪れることになるかもしれない。必ずしも『暗い将来像』ではないかもしれないが、『明るい未来』だと思わない人も少なくないだろう」(山崎、同)
2料理宅配サービスの需要が急増
 *出前館とウーバーイーツでは、47日の緊急事態宣言後に利用者が6割増。2つ合わせた利用者は3月の約20万人から42223日は38万人に倍増。学校の休校などで子育て世代の利用が増えた(日経429日)
 *需要が急増する中で、宅配サービス各社は配達員の確保に苦労している。配達員の多くはネットで単発の仕事を請け負う「ギグワーカー」である。交通事故時の補償がないなど、労働者としての権利保障が確保されていない
 
 消費の質は変わるか
1)在宅勤務や外出自粛によって家で過ごす時間が圧倒的に増えた経験は、消費の質を変えるきっかけになりうる。多くの人が「巣ごもり」生活経験を通じて、自分たちにとって「何が必要で、何が不必要か」を見つめ直し、「不要不急」のモノやサービスの大量消費を減らしていく可能性がある。
 *「巣ごもり」は、家で料理をする時間や体験を増やす。外食したり便利な総菜を買ってきて済ます食生活が変わる。例えば家電製品では、電気調理鍋「ヘルシオ ホットクック」の13月の売上高は前年の2.5倍になった(朝日422)。
 *自分で料理を作る、たまにしか着ない外出着を買わなくなる、車で遠出をせず近所の公園を散歩するといったライフスタイルが、楽しいものとして定着する可能性がある。
2)しかし、外出制限が解禁されれば、辛抱していた消費欲求がその反動で爆発し、大勢の人がショッピングモールでの爆買いや有名観光地への殺到や新車の購入走り(「リベンジ消費」)、以前のままの生活様式が復活する可能性もある。
3)消費と生活の質が変わるのか、それとも従来のものに戻るのかは、人びとの選択にかかっている。

5 「従業員シェア」の広がりは、新しい働き方を示唆する
1コロナ恐慌の渦中で、「従業員シェア」が広がっている。ネット小売りや宅配サービスなど人手不足に悩む企業が、休業を強いられる他業種から期間限定で労働者を受け入れる動きである従来は構造不況に陥った産業の企業から解雇されたり離職した労働者が、別の成長産業の企業に就労する(「労働力流動化」)形態をとったが、元の企業に籍を置いたまま一時的に他業種の企業で働くという新しいマッチングの形態が生まれている
 *米国のホテル大手のヒルトングループは、最大90日間の一時帰休や賃金カットを実施しているが、短期勤務者を受け入れる「他社」を載せた従業員向けの特別HPを開設した。アマゾンやフェデックス(物流大手)など約80社、計100万件の求人が並んでいる。従業員はヒルトンとの雇用関係を維持したまま、他社で働き収入減を補える。コロナが収束すれば、従業員はヒルトンに戻ることができる。
*観光や飲食などサービス業が軒並余剰人員を抱える一方、外出制限で需要が拡大するネット通販や宅配、食品の小売店は人手が足りない。アマゾンは3月中旬以降、物流施設の従業員などと約17万5千人を採用する方針。インスタカート(食品宅配の新興企業)も約56万人の募集を始めた。
*中国のアリババ集団傘下の生鮮スーパー「フーマー鮮生」は、2月に外食やタクシーなど40社以上から自宅待機などの従業員の受け入れを始め、5千人以上がフーマーで宅配スタッフなどとして働いていたようだ。中国政府がこの取り組みを推奨したため他社にも広がり、「約400万人の待機問題を解消した」(中国当局)という。
*ドイツのアルディ(ディスカウントスーパー)は、3月にマクドナルドの従業員の一時受け入れを決めた。日本でも、「まいばすけっと」(イオン系食品スーパー)が外食産業の人材を受け入れ始めた。食品デリバリーの出前館も、外食産業から宅配スタッフとしてアルバイトを受け入れている(日経54日)
2労働者が別の企業で働いたり複数の異なる仕事をする「副業」や「兼業」は、すでに解禁されて広がってきていた。コロナ危機の時期を通じて労働者が異なる企業や業種で働く経験をすると、危機が収束した後も「複業」的働き方をする人が増える可能性がある「複業」的働き方は人びとに働くことについての選択肢を広げ、企業による拘束からの自由度を高める。

Ⅴ ベーシックインカムの導入は進むか
1 コロナ恐慌の勃発は、大勢の人びとが仕事を失い収入を減らす深刻な事態に従来の社会保障・生活保障の仕組みでは対応できないことを明るみに出し。そこで、ベーシックインカム(BI)を導入するべきだという議論が高まっている。また、国民に対する現金給付や限定的なBI導入の試みも始まっている。
1)日本では、山崎 元、小林慶一郎、竹中平蔵、井上智洋らがBI導入を主張している。
 *「コロナ問題が長期化した場合、……。失業率は未曽有の水準になる可能性がある。……。こうした状況では、広範かつ迅速に経済的なセーフティネットを用意しなければならない。この点で、今回『国民1人当たり一律に10万円』の給付金支給が決まったことは、良い変化だった。無条件・一律に給付金を支払うと富裕層にもお金を配ることになるが、……富裕層が相対的に多額の納税をする以上、彼らがより大きな負担をすることになるのは間違いない。給付金に所得制限など必要ないし、富裕層も『1人10万円』を堂々ともらうといい」(山崎、前掲)
 *「多様な働き方をする多くの人々が感染症対策の行動規制で収入を失ったのだから、現金給付で生活支援をすべきだ……。働き方の形態によらず、あらゆる人に対し政府が最低限の所得水準を保障する給付制度(ベーシックインカム)を導入することも現実的な選択肢となる」(小林慶一郎「産業構造変化や格差是正も」、日経4月15日
 *「10万円の給付はうれしいが、1回では将来への不安も残るだろう。例えば、月に5万円を国民全員に差し上げたらどうか。その代わりマイナンバー[カード?]取得を義務付け、所得が一定以上の人には後で返してもらう。これはベーシックインカム(最低所得保障)といえる。実現すれば、生活保護や年金給付が必要なくなる」(竹中平蔵「教育や医療、規制緩和の議論を、デジタル化の遅れ挽回する好機」、週刊エコノミスト6月2日)
 *「これら[米国や日本での全国民に対する一律の給付金支給]は、1回限りの予定で『一時的なBI』と位置づけられる。……一時的であれ世界各地でこれほどの規模のBIが実施された例はない。危機が長引けば『恒常的BI』として根付く可能性もあり、社会保障制度が様変わりするかもしれない」(井上智洋「ベーシックインカム導入を主要国が検討する『必然性』」、週刊エコノミスト5月26日)。
(2)いくつかの国では、コロナ恐慌に対する生活支援のために、国民全員に所得制限付きとはいえ一律の現金給付を行う政策が取られた(日本は所得制限なしの一律給付)
 *米国/大人11200㌦(約13万円)、子ども1500㌦(約5.5万円)を、年収75000㌦(825万円)以下の世帯に対して現金給付する。
 *韓国/全世帯のうち所得下位7割の1400万世帯(全世帯)に対して、1人世帯は40万ウォン、2人世帯は60万ウォン、3人世帯は80万ウォン,4人以上世帯は100万ウォン(約9万円)を支給する。総額で91000億ウォン(約8000億円)。
3スペインでは、左派連立政権が限定的なBIの導入を閣議決定した(5月29日)。スペインでは有期雇用の割合が25%もあり、失業率も14.8%(4月、ユーロ圏は7.3%)と際立って高い。導入される制度は、1人暮らしの成人には月462ユーロ(約5.5万円)、家族には月139ユーロ(約1.7万円)を給付するが、これは最低賃金月950ユーロの半分に当たる。世帯当たりの上限は1015ユーロ(約12万円)である。これによってどの世帯も年1万70ユーロ(約120万円)の最低所得が保障されることになる。ただし、支給対象は低所得の人びとに限定され、約85万世帯、230万人が恩恵を受ける。全国民を対象にしたBIではなく、貧困層を支援する限定的なBIである。費用は、年30億ユーロ(約3600億円)かかるとされる(AEFbbnews)。

 コロナ危機は、BI導入の必要性を浮上させている。
1)いま、BI導入の必要性が主張されるのは、コロナ危機がかつてない雇用の危機をもたらしているからである。失業や休業がすさまじい勢いで広がると、「働いて所得を得る」 機会が奪われることになる。言いかえると、「働かざる者、食うべからず」という近代社会の基本原則が崩れてしまう。そうした社会状況では、労働とは切り離された所得保障の仕組み、すなわち税を使った政府による一律の現金給付(BI)に近い措置が必要になる。
(2)現代の資本主義社会は、雇用の危機に対処するセーフティネット制度(失業手当や休業手当、生活保護など)を備えている。しかし、これらの制度は失業や休業が一時的・短期的であること、公的扶助の受給者が少ないことを前提にしている。コロナ危機が長期化して大量の失業者や休業者が長期間にわたって発生したり、生活保護受給者が急増するならば、従来の制度では対応しきれなくなる
失業手当は、日本では給付日数が短く(平均90日)給付額の上限も低い。雇用保険に加入しているのは就業者の65%であり、短時間のパートやフリーランスなどは除外されている。コロナ危機で特例として給付日数が延長されたが、雇用保険の積立金にも限界がある(20年度は3.2兆円)。
*休業手当は、雇用保険に加入している正社員や一部のパートが支給対象で、多くの非正規労働者は受給できなかった。コロナ危機では拡大適用されることになったが、給与の6割の給付では低賃金の非正規労働者は生活できない。さらに、雇用調整助成金の手続きが煩雑で支給まで2カ月もかかるために、有効に機能していない。
*生活保護制度は最後のセーフティネットのはずだが、資産要件などが厳しく申請手続きが煩雑であったり、就労による自立が強制されることで受給者が極端に制限されてきた(最低生活費以下の所得しかない人のなかで受給しているのは2割)。コロナ危機では資産要件の緩和などが行われたが、いぜんとして利用しにくい。
(3)そのため、全国民に対する一律の現金給付といったBI型の生活保障が必要になっ。今回の「全国民への一律10万円の現金給付」は、所得制限を付けると)支援の網からこぼれ落ちる人をなくす措置であったが、BI導入への大規模な実験ある。

3 しかし、本格的なBI導入のためには多くの高い壁を越えなければならない
1)今回の「全国民への一律10万円の現金給付」は、一回きりの措置である。危機が長引くにつれて、この措置を数回繰り返すあるいは1年間続けることは可能だとしても恒常的な制度として確立するには大きな壁が立ちはだかる
(2)全居住者を対象にした恒常的な制度としてBIを実現するためには、巨額の財源を確保する必要がある。
 *今回は一律10万円を1回給付するだけで約13兆円かかったが、月8万円を給付するBIにすると年間115.2兆円が必要になる(20年度の政府予算は102.6兆円、2つの補正予算は57兆円)。これだけの財源を赤字国債の発行によって賄うことは、持続不可能である。MMT派は2%を超えるインフレになれば支出削減(と増税)に転じればよいと言うが、生存を保障するBIをインフレ抑制のために削減することはできない。
 *BIの財源は、税によって安定的に確保する必要がある。そのためには、従来の生活保障の仕組みを全面的に組み替える必要がある/一連の所得控除(給与所得者控除、配偶者控除、扶養控除など)をなくす基礎年金や児童手当の支給、失業手当や生活保護給付をやめてすべてBIに置き換える。
 *所得税の税率を、高所得者に高度の累進課税を課すだけではなく中所得者を含めて大幅に引き上げる/BIを支給すると、可処分所得は現行の税負担と変わらない。
(3)生活保障のためには、現金給付のBIだけでは決定的に不十分である。医療、介護、教育、子育て、住まいなど現物の社会サービスを無償(あるいは低料金)で提供することがますます重要になる。コロナ危機は、こうした社会サービスに資源(人材と資金)をより多く投入する必要性を教えた(例えば医療体制の拡充、大学の授業料の無償化など)。したがって、BI(現金)と現物の社会サービスの拡充の両方を賄うだけの税負担の公正な増大が問われる。
(4)BIの導入に向けては、給付付き税額控除の導入、あるいは生活保護の適用の抜本的な拡張、最低保障年金の導入といった改革が入り口になる。同時に、BIの導入についての議論を組織して、政治的な合意をつくり上げていくことが必要である。
 ※BIについては、白川「いま、なぜ、ベーシックインカムか」(テオリア18年9月10日、10月10日号)を参照。

Ⅵ 資本主義はどう変わるか
1 深刻な経済危機は資本主義の危機(従来のシステムの機能不全)を意味するが、同時に危機を通じて資本主義が延命するための自己修正を強いる。コロナ恐慌がもたらす第1の変化は、デジタル資本主義への転換であろう(Ⅱの5)
*世界大恐慌は、自由競争的資本主義からケインズ主義的資本主義への移行をもたらした。リーマン・ショックは、新自由主義を破綻させ、政府(金融緩和と財政出動)主導の金融化資本主義への転換を招いた。

2 株主資本主義からステークホルダー資本主義への転換
1201月のダボス会議(世界経済フォーラム)は、「資本主義の再定義」をテーマに掲げ、「ステークホルダー資本主義」への転換を打ち出した。これまで資本主義は、自社株買いによって株価を吊り上げ株主への配当を最大化する道(株主資本主義)を突っ走ってきた。そのことが格差拡大と地球環境危機を招いたという批判が高まり、従業員や地域社会の利益を尊重する方向への軌道修正を迫られている。
2)コロナ危機は、ステークホルダー資本主義」への転換の流れを加速する大きなきっかけになりつつある。世界の機関投資家は、株主への配当よりも従業員の雇用を求めることを企業に求め、また薬の開発で協調して研究開発を進めるよう要求している。これは、リーマン・ショック時には従業員を解雇して利益や資金を確保し株主への配当や自社株買いを優先した動きとは対照的である。
*世界45か国以上の年金基金や運用会社からなる国際コーポレート・ガバナンス・ネットワーク運用額が54兆㌦と巨額で影響力が大きい)は423日従業員の解雇を避けるべきとの公開書簡を公開した。配当や経営者報酬が、従業員や取引先を配慮して減額されることを容認する姿勢を始めて示した(日経427日)
*オランダの年金基金PCGMなど50以上の投資家は、連名で医療機器などのサプライチェーン維持に協力し、データを抱え込まず共有してワクチンや治療薬の開発で協調するよう求めた。
3)コロナ危機の最中、米国と欧州では政府が企業に対する資金の支援の条件として自社株買いの禁止を盛り込み、株主還元に対する監視を強化している。
 *米国は、3兆㌦の緊急経済対策の一環として企業への資金繰り支援を行うが、その条件として自社株買いの禁止を盛り込んだ。ボーイング社などの企業は、支援を受けている間は株式の買戻しができない。また、AT&Tは約40億㌦の自社株買い枠を撤回し、マクドナルドも自社株買いを停止した(日経4月19)。
 *ドイツでは、旅行大手のTUIがドイツ復興金融公庫から18億ユーロのつなぎ融資を承認されたが、貸付期間中に配当しないことが条件。フランス政府は、支援の条件として配当と自社株買い停止を挙げ、救済資金を雇用維持に使うよう求めている(同)
*ECBは、ユーロ圏の銀行に配当や自社株買いの中止を要求した。イギリスのHSBCホールディングスやバークレイズなど大手行は、自己資本規制の緩和や資金供給の拡大などの支援を受けているが、20年中の配当を見合わせると発表。米国でも、JPモルガン・チェースなど大手8銀行が、自社株買いの停止を発表し、個人や中小企業の融資に回すと表明(同)
4米国では、雇用の危機が深刻化する対極で、株を保有する富裕層の資産が株価の回復によって3カ月で5650億㌦、19%も増えている(CNN.co.jp65)それだけに株主への利益還元制限雇用維持優先すべきとの声が強まっている危機後もこの「ステークホルダー資本主義」への転換の流れは後戻りしないだろう。
 
 グリーン資本主義への転換
1)新型コロナによる経済活動の停止によって、20年の温暖化ガス(エネルギー関連のCO)排出量は、前年比8%(約26億㌧)減少すると予測されているIEA)これは過去最大の減少で、リーマン・ショック後(09年)の減少の6倍である。
 *UNEP(国連環境計画)は、パリ協定が掲げる産業革命前からの気温上昇を1.5度内に抑えるという目標達成のためには、30年までに年間7.6%のペースで温暖化ガスの排出量を削減する必要があるとしている。
しかし、リーマン・ショック後には温暖化ガスの排出は「リバウンド」と呼ばれる急増に転じた。気候変動分析サイト「カーボン・ブリーフは、経済活動の再開で「温暖化ガス減少が一時的なものになるだろう」と警鐘を鳴らしている(日経510日)
2多くの人びとは、航空機にも乗らず自動車の走行も控えた生活を体験した。そこからライフスタイルを変えて温暖化ガスの排出削減に進むチャンスが生まれている。
3CO2排出削減のグリーン投資(再生可能エネルギーなどへの投資)へと向かう流れが勢いを増している。しかし、景気回復に伴う温暖化ガス排出の急増に逆戻りする動きも強まるだろう。その行方は、すぐれて政治的な対抗と攻防にかかっている。
 *EUは、2050年のCO排出ゼロをめざす「欧州グリーンディールが我々の新たな成長戦略だ」(フォン・デア・ライエン委員長)と宣言し、向こう10年間で1兆ユーロ(約120兆円)を投資する計画を打ち出した。再生可能エネルギーの導入、輸送分野での排出量9割削減、建築物のエネルギー効率を高めるための改修率の2倍化などが含まれている(八田浩輔「欧州グリーンディールが描く未来のシナリオ」、『世界』206月号)
 *EUは、コロナ危機をうけてコロナ危機の収束後の経済対策の中心に環境投資を据えようとしている。欧州委員会はEUの中期予算案に、1兆ユーロを超える規模の景気対策を盛り込み、交通やエネルギーインフラのグリーン化などの対策を打ち出す(日経512日、419日)
 *フランス政府は、航空機による温暖化ガス排出を抑制するために、経営難に陥ったエールフランスに対して支援の条件として高速鉄道TVGと競合する国内の短距離路線の廃止を求めた(日経510日)
 *トランプ政権は、421日に「米国の偉大な石油・ガス産業を落胆させることは決してない」と、雇用確保のため化石燃料産業への資金援助を表明(同)

4 ポスト資本主義への試みは芽生えているか
1)コロナ危機をきっかけにした「ステークホルダー資本主義」や「グリーン資本主義」転換の流れは望ましいことであり、労働者や市民の運動を盛り上げることによってこの流れを確かなものにすることが求められる。しかし、資本主義が招いた巨大格差と気候変動危機は根本的には経済成長と利益を追い求める資本主義を乗り越えること、つまりポスト資本主義への移行によってのみ解決可能である。
2)コロナ危機のなかで、ポスト資本主義を形づくる新しい社会形成の試みがどのように芽生え発展したのかを注意深く見つめる必要がある。
 *人びとが生存する上で誰もが必要とする医療・介護・子育て・教育・住まいなどのサービスが十分かつ無償で提供されているか/家賃や電気代・水道代の支払いの猶予・免除の措置は、住まい・電力・水道などの公有化の動きにつながる。
 *人びとのなかで自発的な支えあい・助け合いの活動が、どのように広がっているか/食べ物の分かち合いやシェルターの提供、連帯基金へのカンパなど
 *食とエネルギーの自給、ケアの拡充、地域通貨などをもつ自立的な地域内循環型経済がどのように形成されはじめているか。

Ⅶ 現代文明の転換という問いかけ
1 新型コロナ感染症のパンデミックの原因は、①開発による自然生態系の破壊、②巨大都市への人口集中、③急速なグローバル化、④社会内部の深刻な格差にある。①と②は、コロナ危機が現代文明のあり方を根底的に問う問題であることを示している。

2 新型コロナウィルスの急激な感染拡大は、人間と自然の関係性という原点に立ち返って人間が自然の一員として生きる以外にはないことをあらためて告げている。すなわち、人類はウイルスによる感染症を撲滅することはできない「感染症との戦い(戦争)」に勝利するといった発想を脱して感染症の被害を最小限に押しとどめながらウイルスと共生する社会のあり方を選ばねばならない。
1近代において人間は、科学技術の力に依拠して自然を征服することができると信じ、効率性と便利さ・快適さを求めて経済成長と開発を無制限に続けてきた。その結果、自然生態系を破壊・撹乱して自らの生存基盤を危機に陥れるに至った。気候変動に代表される地球環境の危機(エコロジー危機)は、私たちに経済活動と日常生活を自然生態系の循環のうちに再び組み入れる社会変革を迫っている。いいかえれば、自然を征服・制御する現代文明を根底から問い直し、別の文明への転換を探求することが求められている。
2近年、新しいウイルスによる感染症の流行が頻発している。2003年のSARS、2009年の新型インフルエンザ、2012年のMERSそして今回の新型コロナウィルス感染の大流行である。人類の歴史は感染症との戦いの歴史と言われ、ワクチンの開発によって感染症を封じ込め撲滅することに成功したかに思われた。だが、新しいウイルスと感染症が次々に登場し流行する現実を直視すれば、山本太郎医師たちが指摘するように「ウイルスと共生する」道を模索するしかない。

4 「ウイルスと共生する」社会とは、どのような社会か。
1)山本太郎(医師)は、「病原体を根絶することで」急性感染症の大きな悲劇を避けることはできない。「私たち人間にとって決して心地よいものでないとしても」、「病原体との共生が必要だ」と主張する(『感染症と文明』2011年、岩波新書)。
 *「感染症のない社会を作ろうとする努力は、努力すればするほど、破滅的な悲劇の幕開けを準備することになるのかもしれない。大惨事を保存しないためには、『共生』の考え方が必要になる。重要なことは、達成された適応は、決して『心地よいとはいえない』妥協の産物で、どんな適応も完全で最終的なものでありえないということを理解することだろう」
 *「私たちは感染症を『撲滅するべき悪』という見方をしがちです。だけど、多くの感染症を抱えている文明と、そうでない文明を比べると前者の方がずっと強靭だった」。「感染症に対抗するため大量の抗生物質を使用した結果、病原菌をいかなる抗生物質も効かない耐性菌へと『進化』させてしまった実例もある」。「病原体のウイルスや細菌にとって人間は大切な宿主。宿主の死は自らの死を意味する。病原体の方でも人間との共生を目指す方向に進化していくのです。感染症については撲滅よりも『共生』『共存』を目指す方が望ましい」。「今目指すべきことは、被害を最小限に抑えつつ、私たち人類が集団として免疫を獲得することです」(「感染症と社会 目指すべきは『共存』」、朝日311日)
2)山本は、ナイル川のアスワン・ダム建設や熱帯林伐採によるゴム農園の開発の例を挙げて、巨大な開発(自然への介入)が感染症の流行を引きおこしたと指摘している。
 *「流行する病原体を選び、パンデミックを性格付けるのは『ヒト社会』あるいは大きく『ヒト社会のあり方』ではないかと。……。人の行き来により格段に狭くなった世界。野生動物が暮らす生態系への、私たち人間のとめどもない進出、温暖化による野生動物の生息域の縮小。そうしたことが新たな感染症の流行と拡大をもたらした」(「黒死病、スペイン風邪から考える新型肺炎のゆくえ 感染症と文明社会」、『中央公論』4月号)
3五箇公一も、ウイルスによる感染症拡大の原因は人間による自然生態系の破壊にあると指摘する。その上で、自然生態系や生物多様性のこれ以上の破壊をストップし、人間と野生動物との間に適度な距離を保ち、ウイルスと共存・共生していくべきだと提言する
 *「病原菌にも本来の棲み処があり、地域固有の生態系の中で共生関係を築いているのに、人間がそれを移動させり、病原菌の棲み処である生態系を破壊することで、共進化の歴史が崩壊して感染爆発が起こるのです」(五箇公一「パンデミックの背景にある根本問題 人獣共通感染症との闘いに終わりはない」、中公5月号)
 *「宿主―寄生生物間の共進関係が撹乱こそが、新興感染症の流行を生んでいるのです。根本原因は、人間による環境破壊と言っていいでしょう。エボラ出血熱が発生したアフリカでは、森林破壊が進み、伐採道路が建設され、人々が奥地に入り込み、伐採地周辺には市場ができ、野生生物が食料として売られました。野生動物の棲み処を人間が破壊することにより、野生動物が減少し、棲み処を奪われたウイルスたちが新たなる宿主を求めて侵略者である人間にとりつき、新天地である人間社会で感染を拡大しているのです」(同)
 *「ウイルスの進化速度は人間の創薬能力をはるかに上回っています。むしろ彼らとの無益な闘いに終止符を打ち、安全・安心な社会を持続していくためにも彼らとの共存・共生を考えるべきです。……。ひとつの新興感染症を収束させたとしても、必ずまた次のウイルスが現れます。終わりなき闘いにをちょっとでも減らしたいと思うなら、彼らの本来の領域である自然、生態系、生物多様性をこれ以上破壊してはならない(同)
 
5 現代文明のあり方総体を問い直し、別の文明に転換していくことが問われている。
1人間が自然を征服・制御する近代文明から自然の有機的で意識ある一員として生きる”新しい文明に転換する
人間の便利さや快適さへの欲望の極限的追求によって自然生態系を撹乱・破壊することをストップする/非更新性資源の大量消費を抜本的に減らし、気候変動危機を食い止める熱帯林を破壊し野生動物の生息圏を縮小する開発をやめ
*経済成長と開発を追求することから脱成長・脱開発の定常型の社会=文明へ転換する
2大都市への人口集中にストップをかけ、自立した小規模分散型の地域社会を主体にした経済・社会に移る
 *住民参加型の自治体=地方政府が主役となり(ミニシュパリズム、食とエネルギーとケアを軸にした地域内循環型経済圏を形成する。
3無制限のグローバル化に規制をかけ、食と農、住まいをはじめ地域の文化的な独自性を再生・発展させつつ、移民を迎え入れ多様性に富んだ地域コミューンを創る
 広井良典は、「コロナ後の世界」を①都市集中型から分散型システムへの転換、②格差の是正と持続可能な福祉社会、③グローバル化からローカル化へ、④情報から生命へ、として構想している(「AIは新型コロナの悪夢を予言したのか」東洋経済オンライン517、「コロナが露わにしたビッグデータという幻想」同523日)。
                                            (了)

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