2021年10月11日月曜日

2021ノーベル経済学賞に米大学の研究者3人 ノーベル賞2021 NHKニュース



Josh Angrist: Isn't Econometrics Boring?!
2019/03/06

ノーベル経済学賞に米大学の研究者3人 | ノーベル賞2021 | NHKニュース
参考:
計量経済学及びGMM 
http://nam-students.blogspot.jp/2015/12/gmm.html
Mostly Harmless Econometrics: An Empiricist's Companion: Joshua D. Angrist & (「ほとんど無害」な計量経済学―応用経済学のための実証分析ガイ ド)
http://nam-students.blogspot.jp/2016/09/mostly-harmless-econometrics-empiricist.html


2021ノーベル経済学賞に米大学の研究者3人 ノーベル賞2021  NHKニュース


ノーベル経済学賞に米大学の研究者3人

スウェーデンの王立科学アカデミーは日本時間の11日午後7時前、ことしのノーベル経済学賞の受賞者を発表しました。
受賞が決まったのはいずれもアメリカの大学の研究者で、カリフォルニア大学バークレー校のデビッド・カード教授、マサチューセッツ工科大学のヨシュア・アングリスト教授とスタンフォード大学のグイド・インベンス教授の3人です。

王立科学アカデミーは理由について「『自然実験』と呼ばれる手法を使って、労働市場に関する新たな知見を提供した」としています。


https://twitter.com/nobelprize/status/1447502041467793408?s=21


THE SVERIGES RIKSBANK PRIZE IN ECONOMIC SCIENCES IN MEMORY OF ALFRED NOBEL 2021

David Card
"for his empirical contributions to labour economics"

Joshua D. Angrist
Guido W. Imbens
"for their methodological contributions to the analysis of causal relationships"

THE ROYAL SWEDISH ACADEMY OF SCIENCES




インベンス受賞後インタビュー

Nobel Economics Winner Imbens Looks to Move Beyond Eco Models




アレックス・タバロック「ノーベル経済学賞は信頼性革命に」(2021年10月11日)

Alex Tabarrok ”A Nobel Prize for the Credibility Revolution” Marginal Revolution, October 11, 2021

ノーベル経済学賞はデビッド・カード、ジョシュア・アングリスト、グイド・インベンスが受賞した。経済学における実証研究で有名誌に載っているもののほとんどすべて(そして有名誌に載らない大量の研究も)は、差分の差法、操作変数法、回帰不連続といった技術を使った自然実験の分析によるものだ。こうした技術は強力なものだが、それだけでなくその背後にある考え方は一般の人にも理解できるもので、このことが経済学者が一般に向けて話す際にとてつもない利点となっている。ひとつ例を出すとすれば、カード&クルーガー (1994) (全文はここから読める)による有名な最低賃金研究が挙げられる。この研究は、ニュージャージー州における1992年の最低賃金引上げがファーストフード店の雇用を減らさず、雇用を増やした可能性すらあるというその逆説的な発見によってよく知られている。しかし、この論文の真に偉いところは、カードとクルーガーが問題を研究するにあたって使用した手法の明快さなのだ。

最低賃金の効果を推定するための手法は、法律が施行される前と後でのファーストフード店での雇用の差をみることなのは誰だって分かる。しかし、時間とともにその他の事情変化もあるため、1992年頃の標準的なアプローチは経済状況といった統計的な分析要因も含めることでその他の変数を「制御」することだった。十分な制御変数を含めることで推論を行うことで、最低賃金の真の効果を明らかにするという具合だ。カードとクルーガーは別のやり方をした。彼らは対照群に注目したのだ。

ペンシルバニア州では1992年に最低賃金法は成立しなかったが、ニュージャージー州に近いため、カードとクルーガーはニュージャージー州のファーストフード店に影響したその他の要因のいずれもペンシルバニアのファーストフード店にも影響した可能性が非常に高いと推論した。例えば経済状況はニュージャージー州とペンシルバニア州のファーストフード店の需要に同じような影響を与えるだろうし、天気なんかも同じことだ。実のところ、この主張は人口、好みの変化、供給費用の変化といった想像可能なあらゆるその他要因にもあてはまる。1992年ころの標準的なアプローチであるその他変数の「制御」には、甘く言ってもどの変数が重要であるかが分かっていることが最低限必要になる。しかし対照群を使うことでその他の変数が何であるかを知る必要がなくなり、それらが何であれニュージャージー州とペンシルバニア州のファーストフード店に同じような影響を与えるということだけ分かればいいことになる。言い換えれば、ニュージャージー州とペンシルバニア州は煮ているため、ペンシルバニア州で起こったことはニュージャージ州で最低賃金法が成立しなかったならば起きたことの良い推定になるということだ。

そのため、カードとクルーガーはニュージャージー州における最低賃金法の前と後での雇用の差を計算した上で、同法の前と後でのペンシルバニア州の雇用の差を差し引くことでニュージャージ州の最低賃金の効果を推定した。これが差分の差法と言われる所以だ。ニュージャージー州での差(実際に起きたこと)からペンシルバニアでの差(つまりはニュージャージー州で法律が成立しなかったならば起きただろうこと)を差し引くことで、後には最低賃金の効果が残るというわけだ。お見事!

今日の標準においてさえ明白だ。実際、1992頃にこの差分の差法という考えが一般的でなかったことは理解に苦しむ。差分の差法を初めて使ったのは実は物理学者のジョン・スノーで、なんと1840年代と1850年代におけるコレラの原因を特定するためだったにも関わらずだ。今日においては明らかに思えることでも、例えより優れた手法を使うのに何ら障害はなかったのであっても、それ以外のより信頼性の低い技術を使っていた時代の経済学者にはそう明らかではなかったのだ。

さらに、これよりも評価はされていないものの同様に重要なこととして、カードとクルーガーはニュージャージー州とペンシルバニア州の比較に留まらなかった。ペンシルバニア州はニュージャジー州の良い対照群ではないかもしれない。それなら他の対照群を見てみようじゃないか。ニュージャージー州のファーストフード店の一部は、最低賃金の施行前から最低賃金以上を支払っていた。これらのファーストフード店はずっと最低賃金以上を支払っているから、最低賃金法はこれらの店の雇用には影響がないはずだ。しかしこうした高賃金ファーストフード店は経済状況や投入価格、人口等々といったファーストフードの需要や費用に影響を与えるその他の要因によって影響を受けているはず。そのためカードとクルーガーは低賃金店の雇用の差から(法による影響を受けない)高賃金店の雇用の差を差し引くことでも最低賃金の効果を計算した。その結果はニュージャージー州とペンシルバニア州の比較と同様のものだった。

カード&クルーガー(1994) の重要性はその結果ではなく(これについては議論が続いている)、カードとクルーガーが経済学者たちに対し、それを見つける創造性さえあるのであれば自分たちの身の回りには妥当な介入と対照群を備えた自然実験にあふれていると明らかにしたことにある。

アングリスト&クルーガー (1991)の論文「Does Compulsory School Attendance Affect Schooling and Earnings?(義務教育は学歴と所得に影響するか)」は経済学における最も美しい論文のひとつだ。この論文は馬鹿げたように見える戦略から始まるものの、いくつかの図によって読者はその戦略は馬鹿げておらず素晴らしいものであると納得してしまう。

問題は典型的なものだ。収入に対する学歴の効果をどう推定するか。学歴の高い人は学歴があるから多く稼ぐのか、それとも学歴の高いひとは能力があるからなのか。アングリストとクルーガーの戦略は生徒の生まれが属する四半期と彼らの教育年数の相関を用いるものだった。はあ?生徒の生まれが属する四半期が生徒がどれだけ教育受けるかに何の関係があるんだ?馬鹿げた経済占星術か何かの類の話なの?

アングリストとクルーガーはアメリカの教育におけるふたつの特徴について調べた。ひとつ目の特徴は12月末に生まれた子供は、1月始めに生まれたほとんど同じの子供よりも早く初学年を迎えるということだ。もうひとつの特徴は、数十年に渡って、16歳になったら学校を退学できたことだ。このふたつの特徴を組み合わせると、第4四半期に生まれた人は第1四半期に生まれた似たような人よりも少しだけ多くの教育を受ける可能性が少しだけ高い。スコット・カニンガムの因果推定についての素晴らしい教科書であるミックステープに分かりやすいダイアグラムが載っている。

(訳注;上軸は12月に生まれた子供が6歳になる時点、学校に通い始める時点、16歳に時点を示しており、赤字Sは義務教育期間の長さを示している。下軸は1月に生まれた子供について同様に示している。)

これらのことをまとめると、生まれの属する四半期というランダム要因が教育(の月数)と相関していることを意味している。そんなこと誰が考えつくだろうか。私でないことは確かだ。データ上のそんな小さな効果を取り出してみるのなんて馬鹿げたことだと思ってしまっただろう。しかしここで図を見てほしい。図1(レビュー論文であるアングリスト&クルーガー(2001)による)は生まれの属する四半期と教育を受けた年数を示している。図から見て分かるのは、どんな人にとっても16歳以降も学校に残ることがより一般的になることで時とともに教育年数が増えていっていることだ。しかしギザギザのパターンを描いていることに注目してほしい。ある年の第1四半期に生まれた人は第4四半期に生まれた人よりも少しだけ教育年数が少ない!差は小さい。1年の0.1つ分かそこらだが、そこに違いがあることは明らかだ。

(訳注;縦軸は教育年数、横軸は出生年、グラフ中の数字がどの四半期かを示している)

さあここで山場である収入について見てみよう。生まれが属する四半期はランダムであるため、これはあたかも誰かが一部の生徒を他の生徒よりも多くの教育を受けるようにランダムに配置したかのようであり、アングリストとクルーガーは自然データのランダム実験を明るみに出したのだ。次のステップは生まれが属する四半期によって収入がどう変化するのかを見ることだ。

(訳注;縦軸は週単位の収入の対数、横軸は出生年、グラフ中の数字がどの四半期かを示している)

なんてこった。しかしこれは一目瞭然、第1四半期に生まれた人は第4四半期に生まれた人よりもわずかに教育が少なく(図1)、そして第1四半期に生まれた人は第4四半期に生まれた人よりもわずかに収入が少ないのだ(図2)。所得に対する効果は0.1程度と少ないが、生まれが属する四半期が教育を0.1だけ変化させることを思い出してみよう。前者を後者で割ると、教育年数が1年多くなると収入が10%も増えると推定できることが示唆される。

この点については他に色々議論ができる。生まれの属する四半期がランダムというのは確かだろうか。ランダムのように思えるものの、おそらくは日照や食料入手性効果によって生まれの属する四半期と統合失調症、自閉症、IQに相関があることが研究によって分かっている。こうした効果は非常に小さいが、生まれが属する四半期による収入への影響も同じように小さいことを思い出してほしい。小さな効果であっても結果に影響を与えうるのだ。生まれが属する四半期はランダム生成機と同じようにランダムだろうか。多分違う。科学の進歩というのはそういうものだ。

カード&クルーガーと同じように、この論文の革新的なところは結果ではなくてその手法にある。目を開いて、創造的になり、まわりにいっぱいある自然実験を発見しよう、これが信頼性革命の教訓だ。

スタンフォード大学のグイド・インベンス(オランダ育ち)は実証的な現象の巧みな研究にはあまり関わってはおらず、それよりもむしろ理論枠組の開発を行ってきた。重要な論文はアングリスト&インベンス (1994)「Identification and Estimation of Local Treatment Effects (局所処置効果の特定と推定)」とアングリスト&インベンス&ルービン「Identification of Causal Effects Using Instrumental Variables(操作変数法を用いた因果効果の特定)」で、これは次の質問に答えるものだ。すなわち、私たちが操作変数を使用する際、私たちが計測しているのは正確には何なのか。例えばあるインフルエンザの研究において、一部の医者は患者に予防ワクチンを打つようランダムに想起・奨励されるとしよう。ワクチンの効果を計測するのにランダム化を操作変数として使用することができる。しかし注意しよう。一部の患者は必ずワクチンを接種する(例えば高齢者)。一部の患者はワクチン接種を全くしない(例えば若者)。そのため、私たちが計測しているのはみんなに対するワクチンの効果(平均的処置効果)ではなく、患者のうち医者に推奨されてワクチンを接種したグループに対する効果であり、この効果は局所的平均処置効果として知られている。これは操作(ランダムな奨励)によって影響された人たちに対する処置効果であって、操作による影響を受けなかった人々の集団に対するワクチンの効果とは必ずしも同一ではない。

なお、インベンスはスーザン・エイシーの夫で、彼女もまたノーベル賞候補だ。インベンスとエイシーは因果推定と機械学習を組み合わせた共同論文をたくさん書いている。新世代のアカロフ・イエレン夫婦(訳注;hicksian氏による訳はこちら)というわけだ。まさに同類婚だ。ちなみにその結婚式ではアングリストがベストマンを務めた。

受賞にふさわしい3人だ。



同様に、ノーベル医学賞を疫学方法論の大家であるGreenlandとRobinsに与えて欲しい。かつてNorman Breslowが「なぜ統計学者は医学分野でノーベル賞をもらえないのか?」といった内容の論文を書いていました。

http://www.medicine.mcgill.ca/epidemiology/hanley/bios602/CondnlLogisticRegrn/BreslowStatContributionsUnderestimated.pdf 

medicine.mcgill.ca/epidemiology/h…





Mastering 'Metrics: The Path from Cause to Effect (English Edition) Kindle Edition


レビュー

I would be hard pressed to name another econometrics book that can be read for enjoyment yet provides useful quantitative insights.---M.S.R., Financial Analysts Journal

The writing is lively and engaging, with quotes, anecdotes and jokes scattered throughout. . . . I have become a big fan of this new textbook, and I am thinking about how we can use it in our econometrics courses at the ANU. . . . In my view, the emphasis on thinking about parameters of interest and identification before discussing technical matters is a huge improvement on traditional teaching approaches. Instructors may have to spend more time preparing lectures and tutorials, but I predict significant benefits in terms of students' learning and appreciation of applied econometrics.---Tue Gørgens, Economic Record --This text refers to the paperback edition.

著者について

Joshua D. Angrist is the Ford Professor of Economics at the Massachusetts Institute of Technology. Jörn-Steffen Pischke is professor of economics at the London School of Economics and Political Science. They are the authors of Mostly Harmless Econometrics (Princeton). --This text refers to the paperback edition.

レビュー
楽しみながら読めて、しかも定量的に役立つ洞察を与えてくれる計量経済学の本は、他にはないだろう。

随所に引用や逸話、ジョークが散りばめられており、文章が生き生きとしていて魅力的である。. . 私はこの新しい教科書の大ファンになり、ANUの計量経済学のコースでどのように使用できるかを考えています。. . . 私の考えでは、技術的な問題を議論する前に、関心のあるパラメータと同定について考えることに重点を置いていることは、従来の教育アプローチを大きく改善するものです。講師は講義やチュートリアルの準備に多くの時間を費やさなければならないかもしれませんが、学生が応用計量経済学を学び、理解するという点で大きな効果があると私は予測しています。
著者について
ジョシュア・D・アングリストはマサチューセッツ工科大学のフォード経済学教授です。ジョシュア・D・アングリストはマサチューセッツ工科大学のフォード経済学教授、イェルン・ステフェン・ピシュケはロンドン・スクール・オブ・エコノミクス・アンド・ポリティカル・サイエンスの経済学教授である。著書に『Mostly Harmless Econometrics』(Princeton)がある。--この文章はペーパーバック版を参照しています。

BLIND MASTER PO: Close your eyes. What do you hear? YOUNG KWAI CHANG CAINE: I hear the water, I hear the birds. MASTER PO: Do you hear your own heartbeat? KWAI CHANG CAINE: No. MASTER PO: Do you hear the grasshopper that is at your feet? KWAI CHANG CAINE: Old man, how is it that you hear these things? MASTER PO: Young man, how is it that you do not? Kung Fu, Pilot

BLIND MASTER PO:目を閉じてください。何が聞こえますか?ヤング・クワイ・チャン・カイネ:水の音、鳥の鳴き声が聞こえます。マスター・ポ:自分の鼓動は聞こえますか?クワイ・チャン・カイン:いいえ。 マスター・ポ:あなたの足元にいるバッタの声が聞こえますか?KWAI CHANG CAINE: 老人よ、どうしてこれらのことが聞こえるのですか?マスター・ポ:若者よ、どうしてあなたは聞こえないのか?カンフー、パイロット






。。。。
Mostly Harmless Econometrics: An Empiricist's Companion: Joshua D. Angrist & …(「ほとんど無害」な計量経済学―応用経済学のための実証分析ガイ ド)
http://nam-students.blogspot.jp/2016/09/mostly-harmless-econometrics-empiricist.html


「ほとんど無害」な計量経済学 応用経済学のための実証分析ガイド|書籍出版|NTT出版

ヨシュア・アングリスト, ヨーン・シュテファン・ピスケ, 大森 義明, 田中 隆一, 野口 晴子, 小原 美紀 2013)

http://www.nttpub.co.jp/search/books/detail/100002252



計量経済学 New Liberal Arts Selection [Print Replica] Kindle Edition

2019

by 西山慶彦 (), 新谷元嗣 (), 川口大司 (), 奥井亮 () Format: Kindle Edition

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Book 4 of 5: New Liberal Arts Selection


https://www.amazon.co.jp/-/en/dp/B07YGPBF95/


9 1 アングリストらによる自然実験アプローチの発展 

 第8章でも触れたアングリストは, アメリカとイスラエルの二重国籍を持 つ労働経済学者で, 現在はマサチューセッツ工科大学教授である。 プリンス トン大学大学院で労働経済学者のオーリー・アッシェンフェルター O. C. Ashenfelter の指導のもと, 博士論文を執筆した。 博士論文ではベトナム戦 争への従軍が退役後の労働所得にどのような影響を与えたのかを調べた Angrist 1989)。 

 ベトナム戦争への従軍経験者と非従軍経験者を単純に比較してしまうと,  トナム戦争に従軍した人とそうでなかった人の労働所得がそもそも異なってい た可能性が高いという内生性の問題が発生する。 一般的な傾向として労働市場 で得られる所得がそれほど高くない人々が従軍する傾向があるためである。  の問題に対処するため, アングリストはベトナム戦争への従軍者の一部が誕生 日に基づくくじ引きで決定されていたことに着目 し, ベトナム戦争への従軍が 所得に与える因果的な影響を推定した。 その際に, くじで選ばれた人の中でも 従軍しなかった人がいる一方で, くじで選ばれなかったにもかかわらず自発的 に従軍した人がいるという状況を操作変数法を用いて解決した。 操作変数法自 体は古くから存在する推定手法であるが, アングリストによる操作変数法の解 釈は, 操作変数法の特性を際立たせるものであったといえる。 

 なお, この論文の中でアングリストは, くじで選ばれて従軍した者と  ら志 願して従軍した者では, 従軍が所得に与えた因果効果が異なる可能性を指摘 し, 操作変数法が推定するものは, くじで選ばれて従軍した者の中での平均 的な因果効果であることを指摘している。 つまりアングリストは, 操作変数 法が推定するものは, くじの結果によらず従軍する常時参加者, くじの結果 によらず従軍しない常時不参加者, くじに当たれば従軍するが当たらなけれ ば従軍しない遵守者のうち, 遵守者の中での平均処置効果であることを指摘 したのである。 この指摘は, 後に数理的な計量経済学者であるグイド・インベ ンス G. Imbens や統計学者のドナルド・ルービンとの共同研究でより洗練 された形で一般化され, 局所平均処置効果という新しい考え方につながって いった。 また, 推定にあたっては, くじの当たり外れを決める誕生日と所得が 入っている社会保険料の払い込みの記録(社会保険料の払い込み額は所得に 依存するため, 所得額も記録されている) と, 誕生日と従軍の有無が入ってい るサーベイデータ Survey of Income and Program Participation; SIPP という 2 つのデータを使っている。 操作変数と被説明変数が入っているデー タと,操作変数と内生の説明変数が入っているデータの 2 つを組み合わせて 推定を行ったのである。 この考え方は, 後に サンプル 2段階最小2乗法」 として発展を遂げていくことになる。 このアングリストの論文は, 社会保険料 の払い込み記録という, 利用しているデータの特異性も含めて, 革新的な論文 であり, ここ半世紀ほどの間に書かれた経済学の論文の中で最も影響力を持っ た論文の 1 つであるといっても過言ではないだろう。 

 アッシェンフェルター, デイビット・カード D. Card), アラン・クルー ガー A. Kruger), アングリストという 1980年代後半に教員,大学院生と してプリンストン大学に在籍した労働経済学者は, アングリストの博士論文 に代表されるような因果関係の識別を重視する研究の重要性を強調し, 彼ら  身がそのような研究を多数進めるとともに, 学界の研究の方向性を決定づける ことに貢献した。 実験が難しい状況下であたかも実験が行われたかのような状 況を使って因果関係を推定する研究手法が, 本文でも紹介した自然実験である が, 彼らは説明変数の変動が外生であるかどうかの重要性を強調したので,  果関係を信頼のおける形で推定する際には自然実験を上手に使う必要があると いうことを研究者に認識させることに成功した。 労働経済学に端を発するその 研究手法は, まずは教育経済学,公共経済学,開発経済学,医療(健康)経済 学といったミクロデータを多用し, 取り扱うテーマも労働経済学に近い分野で 広まっていった。 その後は, マクロ経済学のミクロ的基礎,国際経済学,都市 経済学などといったさまざまな分野に燎原の火のごとく広がり,現在では経済 学のほぼすべての分野の実証経済学者が, 何を外生変動として実証研究を行っ ているかを明確に意識するようになった。 

 自然実験の状況を上手に探すためには社会制度や歴史的出来事を深く知る必 要があるため, 彼らの研究は数理的な側面が強調される形で発展してきた経済 学研究の進め方に一石を投じるという意義も持つことになった。 一方で, その 後の経済学の実証研究は, 外生性の重要性を強調しすぎるあまり, 自然実験が 存在しない研究テーマを 「研究不能」 と頭から決めつけ, 経済学的には重要な 研究を放置するような傾向を生み出したという批判もある。 そのため, 自然実 験が存在しないけれども経済学的に重要な問題に対して, 本書で紹介するさま ざまな研究手法を総動員して取り組む泥臭い研究も引き続き重要であるといえるだろう。 


川口大司 (かわぐち だいじ) 〔担当:第8 9 章,付録C 

2002 年, ミシガン州立大学経済学部博士課程修了 現職,東京大学大学院経済学研究科教授, Ph.D. (経済学) 

専門:

労働経済学 

主著: 

Kawaguchi, Daiji, and Yuko Mori (2016) “Why Wage Inequality Have Evolved so Differently between Japan and the US? The Role of Supply of College Educated Workers,” Economics of Education Review, 52, 29 50. Kawaguchi, Daiji, Tetsushi Murao, and Ryo Kambayashi (2014) “Incidence of Strict Quality Standards: Protection of Consumers or Windfall for Professionals?” Journal of Law and Economics, 57(1), 195 224. 

川口大司 2017 『労働経済学理論と実証をつなぐ』 有斐閣。 


Angrist, J. D. (1989) “Using the Draft Lottery to Measure the Effect of Military Service on Civilian Labor Market Outcomes,” Research in Labor Economics, 10: 265 310. 


Angrist, J. D. (1990) “Lifetime Earnings and the Vietnam Era Draft Lottery: Evidence from Social Security Administrative Records,” American Economic Review, 80 (3), 313 336. 

Angrist, J. D. and A. B. Krueger (1991) “Does Compulsory School Attendance Affect Schooling and Earnings?” Quarterly Journal of Economics, 106 (4), 979 1014. 

Angrist, J. D. and W. N. Evans (1998) “Children and Their Parents’ Labor Supply: Evidence from Exogenous Variation in Family Size,” American Economic Review, 88 (3), 450 477. 

Angrist, J. D. and J.-S. Pischke (2008) Mostly Harmless Econometrics: An Empiricist’s Companion, Princeton University Press. (大森義明ほか訳 『「ほとんど無害な」  量経済学応用経済学のための実証分析ガイド』 NTT 出版, 2013 年) 

Angrist, J. D. and J.-S. Pischke (2014) Mastering ’Metrics: The Path from Cause to Effect, Princeton University Press. 

Angrist, J. D., K. Graddy, and G. W. Imbens (2000) “The Interpretation of Instrumental Variables Estimators in Simultaneous Equations Models with an Application to the Demand for Fish,” Review of Economic Studies, 67 (3), 499 527. 

Asai, Y., R. Kambayashi, and S. Yamaguchi (2015) “Childcare Availability, 


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Guido Imbens, Keynote Address, EWMES, Causal Models for Panel Data, Dece...
2020



Guido Imbens, "Exact p-values for network inference"
2015




Causal Inference for Statistics, Social, and Biomedical Sciences: An Introduction (English Edition)1st Edition, Kindle Edition


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デヴィッド・カード

デヴィッド・カード
David Card (2006年)
生誕1956年(64 - 65歳)
国籍カナダの旗カナダ
研究機関カリフォルニア大学バークレー校
研究分野労働経済学
母校B.A. (1978), クイーンズ大学
Ph.D. (1983), プリンストン大学
博士課程
指導教員
オーリー・アッシェンフェルター英語版[1]
博士課程
指導学生
トーマス・レミュー英語版
フィリップ・レヴィン(経済学者)英語版
クリストフ・M・シュミット英語版
マイケル・グリーンストーン英語版
ジェシー・ロススタイン英語版
フィリップ・オレオプロス英語版
受賞ジョン・ベイツ・クラーク賞 (1995)
フリッシュメダル英語版 (2008)
BBVA Foundation Frontiers of Knowledge Award (2014)
ノーベル経済学賞(2021)
情報 - IDEAS/RePEc
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ノーベル賞受賞者ノーベル賞
受賞年:2021年
受賞部門:ノーベル経済学賞
受賞理由:労働経済学への経験的貢献

デヴィッド・エドワード・カード(David Edward Card, 1956年 - )は、カナダ労働経済学者。カリフォルニア大学バークレー校経済学教授。 2021年ノーベル経済学賞受賞。

目次

  • 1 研究
  • 2 経歴
    • 2.1 受賞歴
  • 3 著作
    • 3.1 著書
  • 4 脚注
  • 5 外部リンク

研究

1990年代前半に当時プリンストン大学で同僚であったアラン・クルーガーと共に発表した、「ニュージャージー州で最低賃金が引き上げられたが、州内のファストフード企業で人員削減は起こらなかった」という発見によって注目された。 [2][3]

この発見はそれまで経済学者の間で一般的であった考えとは異なっていた。その方法論(差分の差分法)と主張は一部では論争の種になったが(詳しい議論のためには最低賃金を参照)、ジョセフ・E・スティグリッツポール・クルーグマン[4]をはじめとした多くの経済学者がこの発見を受け入れた。[5]

カードは、ほかに移民[6]や教育、[7] 職業訓練、不平等といった分野の研究にも重要な貢献をしている。カードの研究の多くはアメリカカナダをあらゆる場面で比較することに集中している。移民に関しては、「新たに入ってくる移民がもたらす経済効果は限りなく小さい」という研究を発表した。また、複数の事例研究を行い、「移民グループの急速な同化による賃金への影響は、ほとんどまたは全くない」ということを発見している。ニューヨーク・タイムズのインタビューでは、「正直に言って、(移民に対する)経済的な議論は、二次的なものだと思う。ほとんど関連性がない」[8]と発言している。しかしながら、この発言はカードが「移民を増やすべきだ」と考えているわけではなく、単に「移民は労働市場に対する脅威にはならない」と言っているにすぎない。

カードは政治的な影響の大きいテーマについて研究を行うことがあるが、自身はこうした問題について立場を公言したり政策提言を行うことはない。にもかかわらず、カードの研究は移民の増加や最低賃金の法的規制を肯定する文脈で引用されることがふつうになっている。

経歴

1978年にクイーンズ大学学士(教養)を取得。1983年にプリンストン大学オーリー・アッシェンフェルター英語版の指導を受け、経済学博士号を取得した。博士論文は"Indexation in long term labor contracts"(長期労使契約下におけるインデクセーションについて)。

1982年〜1983年、シカゴ大学ブース・スクール・オブ・ビジネスビジネス経済学助教授として研究者としてのキャリアをスタートさせた。1983年〜1997年のバークレーに移るまでの期間プリンストン大学教員を務めていた。[9]1988年〜1992年、Journal of Labor Economics 編集者、1993年〜1997年、エコノメトリカ編集者、2002年〜2005年、American Economic Review編集者を歴任した。[9]

受賞歴

1995年、ジョン・ベイツ・クラーク賞受賞。同賞は経済学の思想および知見に最も貢献したと考えられる40歳未満のアメリカの経済学者に授与される。また、2008年にはディーン・ヒスロップとともにEconometric Societyよりフリッシュメダル英語版を授与された。[10]2009年、サンフランシスコで行われたアメリカ経済学会の年次会議で、毎年行われているリチャード・イーリー英語版記念講演(イーリー講演)を担当した。2011年、経済学教授への「一番好きな存命で60歳未満の経済学者」を聞いた調査で5位になった。[11]2013年には、ヨシュア・アングリスト英語版アラン・クルーガーとともに実証的ミクロ経済学への貢献を評価され、クラリベイト・アナリティクス引用栄誉賞(旧称:トムソン・ロイター引用栄誉賞)を受賞。[12]2014年、グレゴリー・マンキューとともにアメリカ経済学会の副会長に任命された。

2014年、リチャード・ブランデル英語版とともに経済財務管理のカテゴリでBBVA Foundation Frontiers of Knowledge Awardを受賞。審査員のコメントによると、「実証ミクロ経済学への貢献」が評価されたことによる。「重要な実証的問いを動機として両者は適切な経済学的モデルの開発と予測を行い、方法論の確立に大きく貢献した。両者ともに、緻密で注意深くかつ革新的で組織だった研究デザインをすること、経済学的方法を厳密に適用すること、結果を冷静に報告することで知られている。」

著作

著書

2020年6月5日現在、すべて未邦訳。

Card, David; Krueger, Alan B. (2016). Myth and Measurement: The New Economics of the Minimum Wage(Twentieth-Anniversary ed.). Princeton: Princeton University Press. ISBN 9780691169125

脚注

  1.  David Card BBVA Foundation Frontiers of Knowledge Award Awarded In 2014
  2.  Card, David; Krueger, Alan B. (1994). “Minimum Wages and Employment: A Case Study of the Fast-Food Industry in New Jersey and Pennsylvania”. American Economic Review 84 (4): 772–793. JSTOR 2118030.
  3.  Card, David E.; Krueger, Alan B. (1997). Myth and Measurement: The New Economics of the Minimum Wage. Princeton University Press. ISBN 978-0-691-04823-9
  4.  Liberals and Wages
  5.  Stiglitz, Joseph (2002). “Employment, social justice and societal well-being”International Labour Review 141 (1–2): 9–29. doi:10.1111/j.1564-913x.2002.tb00229.x.  オリジナルの2006-07-25時点におけるアーカイブ。.
  6.  Card, David. "Is the new immigration really so bad?", Federal Reserve Bank of Philadelphia.
  7.  Card, David. "Is it worth it to go to college?" Archived 2006-03-14 at the Wayback Machine.
  8.  "The Immigration Equation" by Roger Lowenstein. The New York Times Magazine, July 9, 2006
  9. a b Curriculum Vita ‐ David Card” (2018年1月). 2019年12月29日閲覧。
  10.  Awards” (英語). 2020年6月3日閲覧。
  11.  https://econjwatch.org/file_download/487/DavisMay2011.pdf
  12.  クラリベイト・アナリティクス引用栄誉賞”. 2020年6月19日閲覧。

外部リンク

ジョージ・アカロフ / マイケル・スペンス / ジョセフ・E・スティグリッツ(2001) - ダニエル・カーネマン / バーノン・スミス (2002) - ロバート・エングル / クライヴ・グレンジャー (2003) - フィン・キドランド / エドワード・プレスコット (2004) - ロバート・オーマン / トーマス・シェリング (2005) - エドムンド・フェルプス (2006) - レオニード・ハーヴィッツ / エリック・マスキン / ロジャー・マイヤーソン (2007) - ポール・クルーグマン (2008) - エリノア・オストロム / オリバー・ウィリアムソン (2009) - ピーター・ダイアモンド / デール・モーテンセン / クリストファー・ピサリデス (2010) - トーマス・サージェント / クリストファー・シムズ (2011) - アルヴィン・ロス / ロイド・シャープレー (2012) - ユージン・ファーマ / ラース・ハンセン / ロバート・シラー(2013) - ジャン・ティロール (2014) - アンガス・ディートン (2015) - オリバー・ハート / ベント・ホルムストローム (2016) - リチャード・セイラー(2017) - ウィリアム・ノードハウス / ポール・ローマー (2018) - アビジット・V・バナジー / エスター・デュフロ / マイケル・クレーマー (2019)  - ポール・ミルグロム / ロバート・バトラー・ウィルソン (2020) - デヴィッド・カード / ヨシュア・アングリスト / グイド・インベンス (2021) 

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差分の差分法

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2016年9月
差分の差分法のイメージ

差分の差分法(さぶんのさぶんほう、difference in differences)とは計量経済学社会学における量的調査において用いられる、観測データによって実験的な研究を模倣するための統計手法である。'Difference-in-Differences'[1] や'DID'[2]、'DD'[3] と呼ばれることもある。差分の差分法は成果(つまり、反応変数や被説明変数)における処置(つまり、説明変数や独立変数)の効果を、処置群における成果変数の時間を通じた平均的な変化と対照群における時間を通じた変化と比較することで計算している。この方法は、あるバイアス(平均回帰バイアスなど)を持っているが、選択バイアスの効果をある程度取り除くことができる。同一被験者による処置効果(つまり時間についての変化を測る)の場合と異なる被験者間による処置効果(つまり処置群と対照群の間の変化を測る)の場合とは対照的に、差分の差分法は異なる時点での処置群と対照群の間の差を取り、さらにその異なる時点の差の差を取る。

目次

  • 1 一般的な定義
  • 2 正式な定義
  • 3 仮定
  • 4 実装
  • 5 Card and Krueger (1994) の例
  • 6 関連項目
  • 7 脚注
  • 8 参考文献
  • 9 外部リンク

一般的な定義

Illustration of Difference in Differences.png

差分の差分法では2時点、もしくはそれ以上の時点で計測されたデータを必要する。図の例において、処置群は線Pで表現され対照群は線Sで表現されている。どちらのグループも処理を受ける前(つまり独立変数もしくは説明変数)の時点1における成果変数(非説明変数)が計測され、点 P1と S1 で表されている。処置群は処置を受け、両方のグループはその後の時点2において再び測定される。時点2における処置群と対照群の差(つまり、P2 と S2 の差)は処置の効果を説明できない。なぜならば、処置群と対照群は時点1において同じ点から出発したわけではないからである。差分の差分法はそれゆえに二つのグループ間の成果の変数の"普通の"差(もしどちらのグループも処置を受けなかった場合の差)を計測する。その差は点線Qで表される(P1 から Q への傾きは S1 から S2 への傾きと同じである)。処置効果は観測された成果変数と"普通の"成果変数の差(P2 と Q の差)である。

正式な定義

以下のモデルを考える。

ここで  は個人  が  と  を所与とした下での被説明変数である。 と  の次元は例えば国と時間を表している。 と  は  と  のそれぞれの垂直的な切片である。 は処置状態を示すダミー変数であり、 は処置効果、 は誤差項である。

ここで

,
,
,
,
,

とし、単純化のために かつ とする。すると

完全に説明変数が外生的であるという仮定の下で

となる。一般性を失わずに、かつ であると仮定すれば、差分の差分法による推定量は以下のように与えられる。

,

ここでこの推定量は  が示唆する処置の処置効果として解釈できる。

仮定

最小二乗法におけるすべての仮定は差分の差分法でも同じく当てはめられる。加えて差分の差分法は平行トレンドの仮定parallel trend assumption)が必要になる。平行トレンドの仮定とは の値が異なる と で等しいということである。上の正式な定義が正確に現実を反映しているという仮定の下では、平行トレンドの仮定は自動的に成立する。しかし であるようなモデルの方がより現実的ではあろう。

処置効果とは観測変数 y と処置を受けなかったとして平行移動した y の値の差である。差分の差分法のアキレス腱はあるグループにおいて処置ではない何かが変化を与えたものの、他は処置群と同じである時で、これは平行トレンドの仮定の破綻を意味している。

差分の差分法による推定量の正確性を保証する為に、二つのグループの個人の構成が時間によって変化しないと仮定することがある。差分の差分法を用いる際には、結果を信用ならないものとする多様な問題、例えば自己相関や Ashenfelter の dip など、を考慮して取り扱う必要がある。

実装

差分の差分法は下記の表の様に実装される。ここで下の右側のセルは差分の差分法による推定量である。

回帰分析を行っても同じ結果が得られる。以下の回帰モデルを考える。

ここで  は であるというダミー変数で  は であるというダミー変数である。積の変数 は である時のダミー変数である。ここで厳密に証明することはしないが、このモデルの推定量は以下のようになる。

,

これは以下に等しい。

.

しかしこれは正式な定義と上の表で与えられた処置効果と同じである。

Card and Krueger (1994) の例

差分の差分法による研究の最も有名なものの内の一つを考えよう。デビッド・カード(David Card)とアラン・クルーガー(Alan Krueger)によって1994年に出版された、ニュージャージーにおける最低賃金についての論文である[4]。カードとクルーガーは1992年2月と11月のニュージャージーとペンシルベニアにおけるファストフード産業における雇用を比較した。これはニュージャージーの最低賃金が4.25ドルから5.05ドルに1992年4月に上がった後である。処置の前後でのニュージャージーのみの雇用の変化を観測すると、天候やマクロ経済学的要因などの除外変数をコントロールし損なう。ペンシルベニアを差分の差分法におけるコントロールとして含めると、ニュージャージーとペンシルベニアで共通の変数からもたらされるあらゆるバイアスが、たとえそれらの変数が観測できないとしても、コントロールされる。ニュージャージーとペンシルベニアは時間を通じて並行なトレンドを持つと仮定すると、ペンシルベニアでの雇用の変化は最低賃金の上昇がなかった場合のニュージャージーで起こるはずだった雇用の変化として考えることが出来るし、逆もしかりである。実証証拠が示唆することには、ニュージャージーにおける最低賃金の上昇は、標準的な経済理論が示唆するような、失業の増加はもたらさなかった。下の表はカードとクルーガーが推定した雇用の(フルタイム当量 full-time equivalentで測った)処置効果を図示している。この発見が仮想的な効果であることを念頭におけば、カードとクルーガーはニュージャージーにおける0.80ドルの最低賃金の上昇が2.75の雇用におけるフルタイム当量の増加をもたらしていると推定した。

ニュージャージーペンシルバニア差分
2月20.4423.33-2.89
11月21.0321.17-0.14
変化0.59-2.162.75

関連項目

脚注

  1.  Angrist, J. D.; Pischke, J. S. (2008). Mostly harmless econometrics: An empiricist's companion. Princeton University Press. ISBN 9780691120348
  2.  Abadie, A. (2005), “Semiparametric difference-in-differences estimators”, Review of Economic Studies 72 (1): 1–19, doi:10.1111/0034-6527.00321
  3.  Bertrand, M.; Duflo, E.; Mullainathan, S. (2004), “How Much Should We Trust Differences-in-Differences Estimates?”, Quarterly Journal of Economics 119 (1): 249–275, doi:10.1162/003355304772839588
  4.  Card, David; Krueger, Alan B. (1994), “Minimum Wages and Employment: A Case Study of the Fast-Food Industry in New Jersey and Pennsylvania”American Economic Review 84 (4): 772–793, JSTOR 2118030

参考文献

出典は列挙するだけでなく、脚注などを用いてどの記述の情報源であるかを明記してください。記事の信頼性向上にご協力をお願いいたします。2016年9月
  • Imbens, Guido W.; Wooldridge, Jeffrey M. (2009), “Recent Developments in the Econometrics of Program Evaluation”, Journal of Economic Literature 47 (1): 5–86, doi:10.1257/jel.47.1.5

外部リンク


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最低賃金

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確認のための文献や情報源をご存じの方はご提示ください。出典を明記し、記事の信頼性を高めるためにご協力をお願いします。議論はノートを参照してください。2014年7月
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労働
Syndicalism.svg
2019年 OECDにおける最低賃金、
USドル  購買力平価[1]
ドル/時間
オーストラリア
12.59
フランス
12.06
ドイツ
11.81
ニュージーランド
11.04
オランダ
11.02
ベルギー
10.97
イギリス
10.47
カナダ
10.23
アイルランド
10.06
韓国
8.61
スペイン
8.58
日本(2018年)
8.00
米国
7.25
ポーランド
6.89
イスラエル
6.85
トルコ
6.74
リトアニア
6.69
ポルトガル
6.29
チェコ
5.8
ギリシャ
5.71
ハンガリー
5.53
エストニア
5.17
ラトビア
4.32
コスタリカ
3.46
スロヴァキア
3.18

最低賃金(さいていちんぎん)とは、労働市場セーフティー・ネットとして、最低限支払わなければならない賃金の下限額を定め、使用者に強制する制度のこと[2]。最賃(さいちん)とも略される(法律上は略称として定義されていないが、新聞記事の見出しや労働組合等では用いられている)。ナショナル・ミニマムのひとつ。

労働基本権に基づくもの。多くの国では労働者の基本的な権利として広く適用されているが、必ずしも全ての労働者に適用されるものではなく、外国人労働者は対象外とするような特定の層に対して減額や、適用除外が行われることがある。シンガポールのように清掃業と警備業、造園業を除き最低賃金制度は存在せず、賃金は労働力の需要と供給のバランスで決定される国家もある[3]

日本では、最低賃金法第1条において 「この法律は、賃金の低廉な労働者について、賃金の最低額を保障することにより、労働条件の改善を図り、もつて、労働者の生活の安定労働力の質的向上及び事業の公正競争の確保に資するとともに、国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。」 [4]と謳っている。

傾向としては、発展途上国フランス語圏の国では、広範に最低賃金が適用されている[5]

目次

  • 1 歴史
  • 2 決定方式
    • 2.1 減額・適用除外
      • 2.1.1 若年者への適用
  • 3 雇用との関係
    • 3.1 理論的考察
    • 3.2 実証
  • 4 代替案
  • 5 各国の状況
    • 5.1 各国間の格差
      • 5.1.1 EU加盟国
      • 5.1.2 OECD加盟国
      • 5.1.3 世界
  • 6 脚注
    • 6.1 注釈
    • 6.2 出典
  • 7 参考資料
  • 8 関連項目
  • 9 外部リンク

歴史

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[6]

世界で初めて導入されたきっかけは、1890年ニュージーランドで起きた港湾労働争議である。この56日間に渡る争議は、ニュージーランドの社会に多大なる影響を与えた。しかしながら、当時としては、法律のシステムでは解決できなかったため、その解決手段として、1894年強制仲裁法を制定されたのである[7]

また、1907年オーストラリアの連邦調停仲裁裁判所のヒギンズ判事による最低賃金の取り決め、のちに基本賃金と呼ばれたものに関する判決があった。

この裁判は、ビクトリア州の製造業者マカイHugh Victor McKayが、彼の会社が製造した農機具への1906年物品関税法の適用除外を求める請求を求めたものである。何故なら、「公平かつ妥当な」賃金を支払っていると認めない限り、製造業者は物品税の形で関税を支払わねばならない旨を定めていたからである。その時、担当した判事は、企業の収益性より労働者保護の点に注目し、請求を却下する判決を下した。後に連邦最高裁から違憲が出るが、彼の示した原則は最低「生活賃金」living wageへの強力な論拠として受け容れられていった[8]

この判決が出る前、生活賃金の構想は存在していた。1776年に出版されたアダム・スミスの『国富論』では、最低でも家族を養うための十分な賃金が必要であり、賃金上昇なくして、国の経済は発展しないことを述べており、生活賃金を支持するような考えが伺われる(出所 :AdamSmith, Wealth of Nations, I .viii.36[9])。しかし、その理論体系の成熟化は、20世紀末から21世紀初頭にかけての時期になってなされている[10]

1894年、イギリスの経済誌 The Economic Journal(Vol.4, No.14)に「A Living Wage(生活賃金)」[11]という名で論文が発表され、冒頭で生活賃金を「労働者が労働効率を最高の状態に維持し、市民権義務を果たすために必要な余暇を提供するのに十分な年間賃金総額である。[* 1]」として、明確に定義した[10]

その後、イギリスの大蔵大臣だったPhilip Snowdenは、生活賃金の立法化を試みようとしていた。そして、アメリカの生活賃金運動の先駆者であるAugustine Ryan氏は、1906年 に『A Living Wage: Its Ethical and Economic Aspects』という著書を出版し、経済学の視点から生活賃金の正当性を唱えた。Ryan氏はこの著書の中で、資産の無い成人男性が、家族を十分に養える収入として「公平な賃金」(Just Price)を雇用主に求める権利があることを主張した[10]

そして、最低賃金の方面では、1909年にイギリスで産業委員会法が制定され、1911年に低賃金業種で働く労働者に対して、強制的に賃金を決定する機関として賃金委員会が設置された[12]

翌年、アメリカ国内の州で、初めて制定された。その州はマサチューセッツ州で、女性および若年者の労働保護を目的として制定された。[13]更に、1915年にフランスで初めて、衣料関連の家内労働者を対象に、最低賃金制度ができた。[14]

1928年6月16日には、ILOによって、ILO条約の第26号が採択された[15][16]

日本の場合は、1947年(昭和22年)に制定された労働基準法において、行政官庁が最低賃金審議会の意見を聞いて最低賃金を定めることができるという旨の規定が置かれた。その後、1959年(昭和34年)に、最低賃金法(昭和34年4月15日法律137号)によって、最低賃金制度が導入された[17]

1970年6月22日には、発展途上国を念頭に置いたILO条約の第131号が採択された。同時に135号も採択された[18][19]

決定方式

最低賃金制度に関するILO条約 (第26号) も最低賃金率の適用や低賃金労働者に対する所得保障、労使両方参加による協議の内容となっており、この条約を批准している諸国ではほぼ共通している[20]

しかし、目的は同じでも、国によって、最低賃金の改定や決定の方法が異なっている。一般には4つに分かれており、殆どの国は上記の3つの方式によって、運用されている。しかしながら、同じ国でも、業種や地域によって異なり、決定方式が並立している場合がある。以下は、大橋勇雄の「特集:最低賃金 日本の最低賃金制度について 欧米の実態と議論を踏まえて[17]」を転載した内容である。

  • 審議会方式
労働側と使用者側をそれぞれ代表する同数の委員と中立委員から構成される審議会が最低賃金を決定するが、形式的にも実質的にも賃金委員会と呼ばれる審議会が決定権をもつ場合と、実質的には審議会が決定権をもつが形式的には決定権限をもつ者の諮問機関として機能する場合とがある。
現在、前者の方式をとる国として、ベルギーやある特定業種に賃金審議会を設置したかってのイギリス (1993年に廃止) などがある。
他方、現在のイギリスやフランスドイツスペインなどの多くのEU諸国、及び日本では、後者の審議会方式がとられている。また、労使のみの代表で構成される審議会で最低賃金が決定される場合、それはさながら団体交渉に近くなり、ベルギーは団体交渉の結果として最低賃金が決まる国と分類されている。
他に、イギリスではサッチャー政権下で規制緩和策が推進され、その一環として賃金審議会法が廃止された。しかしその後、1998年の最低賃金法により低賃金委員会が設置され、その推薦に基づいて政府が最低賃金を決定するという方式がとられている。そして、ドイツではかつては決定方式が労働協約方式のみであったが、2016年以降は、フランスとスペイン同様、審議会方式と労働協約方式が並立した国となっている。
  • 法定方式
法律によって最低賃金を決定する方式であるために、その改定は一般の法改正と同じ手続きで行う必要がある。その例として、アメリカの連邦最低賃金は上院下院での議会審議という立法過程を経て決められ、公正労働基準法1938年制定)にその額が直接規定される。
またアメリカの各州には州法に基づいて州最低賃金制が存在するが、州によって様々であり、法定方式を中心に審議会方式や両者の併用などもみられる。州によっては、産業別・職種別の最低賃金も存在する。2009年以降は連邦最低賃金の改定がなく、物価上昇による実質的な最低賃金の低下を避けるため、及びFight for $15(最低時給15ドルへ引き上げるために闘う)運動による影響により、それを上回って最低賃金の水準を決める州が少なくない。
ただし、州によっては、最低賃金額は連邦のそれより同額、または低く決められる。これは適用労働者がほとんどの州で、州内のすべての労働者とされるのに対して、連邦最低賃金の場合、州際商業 (州相互間、または1州とその領域外の場所との取引輸送通信など) に関連した仕事に従事しているとか、一定の規模以上の企業で雇用されている、などの範囲が決められているからである。
  • 労働協約方式
この方式は、労働組合と使用者との間の団体交渉で締結された労働協約上の賃金の最低額を、拡張適用法のもとに、協約の締結当事者 (組合員)以外の外部の労働者に対しても強制的に適用しようとするものである。ただし、元になる労働協約が、一定の地域内の特定の産業または職種の労働者のかなりの部分、すなわち法で決められた一定比率以上の者に適用されていなければならない。
この方式をとる国として、ドイツイタリアオーストリアデンマークスウェーデンノルウェーなどがある。
こうした各部門別の協約賃金の拡張適用の結果、経済全体で協約最低賃金によってカバーされる雇用者割合は、ドイツが56.0%(2016)、イタリアが80.0%(2016)、オーストリアが98.0%(2017)、デンマークが82.0%(2016)、ノルウェーが72.5%(2014)となっている[21]
オランダは団体交渉で締結された賃金を援用して政府が決めるとされているが、実質的には労働協約方式に分類できる。フランスでも労働協約方式が特定の業種で存在し、審議会方式による全国全産業の労働者に一律に適用される 「発展のための全職業最低賃金」(SMIC) と並存している。SMICを上回って特定業種の協約最低賃金が決められた場合、その拡張適用によって最低賃金が決められるという形である。これは基本的にスペインも同様である。
日本でも労働協約の拡張適用が法制化され、広島県滋賀県塗装製造業関係で実施されていたが、日本の労使関係にマッチしていないとして2007年の最低賃金法の改正により労働協約に基づく地域的最低賃金は廃止されることになった。
  • 労働裁判所方式
オーストラリアやニュージーランドで採用されているもので、労働裁判所労働委員会などの労使関係を調整する機関が労使の意見を聴きながら審議し、最低賃金を裁定したり、決定したりするものである。

減額・適用除外

以下の状況では、最低賃金の減額や、適用除外が行われることがある[5]

  1. 労働生産性が低く、適用範囲から外れても危険が生じない状況においては最低賃金を払うことが困難な層
    • 例:若年者、学生、障害者、見習生
  2. そもそも高い所得や手厚い加護を受けており、最低賃金の保護が必要のない層 (ホワイトカラーエグゼンプション)
  3. 雇用関係が特殊なため、最低賃金を適用しないことが正当化される層
    • 例:管理職、専門職、家事手伝、歩合給の者、チップをもらっている者
  4. 公的部門の被用者
    • 例:日本・フランスの政府一般職員

他には、事業所人数が10人未満のところは除外(バングラデシュスーダンミャンマーなど)、農業は除外(カナダパキスタンなど)といった国もある。

減額と適用除外とでは、減額とする国が一般的である[5]。また、かつては女性に対する減額も一般的に行われていた[5]

若年者への適用

若年者に対しては、大多数の国が減額を適用していないが[5]、一部の国では企業の負担が軽減されることにより労働需要が生まれるとして、減額制度を適用している。

適用に際して、どの程度減額するか、何歳までを最低賃金の適用除外とするかは、国によって異なる。一般的には「18歳または17歳以下の労働者に5%から15%の間の率を減じた率を適用している」[5]より引用(以下本文において若年者に対する減額率は、成人の最低賃金に対するもの)。

  • オランダ
    21歳以上は最低賃金を適用。21歳未満は最低賃金が減額される。減額率は、下表のとおりである。かつては最低賃金の適用年齢が最も高い23歳以上であったが、2018年1月から22歳以上となった。2019年7月以降は21歳以上である。また、変更に伴い、減額率の変更もあった[22]
オランダにおける年齢ごとの最低賃金減額率(%)
年齢20歳19歳18歳17歳16歳15歳
減額率(%)20.040.050.060.565.570.0

若年者最低賃金を設定している考え方としては、オランダを例に以下のものがあげられる。

  • 生産性:21歳未満の労働者の生産性は、一般より低い最低賃金を設定できるという考え方。
  • 必要性:若年者は、通常家族と同居することが前提である為、自ら労働をして、賃金を得るという必然性が低い。そのため、所得保障として一般の最低賃金を保証する必要はないという考え方。
  • 就学との関係:若年者は、あくまで就学することが前提であり、一般と同じ最低賃金にすると、学業を怠けるなど悪影響を与えること。

なお、オランダでは2004年5月に制定された法律により年齢差別を禁止してるが、若年者最低賃金に関しては例外として維持している。また、13歳及び14歳の労働について労働時間法(Arbeidstijdenwet - ATW)の規定により、学校の無い日に工業系の仕事でない軽微な仕事が認められている。ただし、学業を専念すべき年齢であるとの考えの基、最低賃金は適用外である。

また、一部の業種では、若年者最低賃金が適用されない、または、減額率が小さくなってしまう年齢になると解雇をしてしまう問題があり、中央労働団体(FNV)は、若年者最低賃金の撤廃と一般最低賃金を18歳から適用することを求めている。その要求に応える形で、一般最低賃金の適用年齢は23歳以上から21歳以上へと引き下げられている。また、オランダの隣国であるベルギー、ルクセンブルクの若年者への一般最低賃金の減額適用に対し、オランダの減額率は大きい[23]

雇用との関係

最低賃金法の雇用に対する影響の良し悪しは論争になっている[24][25]。最低賃金に関する蓄積された諸研究の解釈を巡って、最低賃金が雇用に与える影響が負だという証拠はないという者もいれば、最低賃金の研究についてコンセンサスはないと結論づける者もいる[26]

理論的考察

完全競争下における最低賃金と雇用の関係[24]
需要独占下における最低賃金と雇用の関係[24]

元来、経済学者達は伝統的な完全競争モデルに基づき、最低賃金法を厳しく批判してきた[27]。一般に経済学では、雇用量と賃金は労働の需要量(求人量)と供給量の一致する点(均衡賃金)で決定するため、失業は存在しないとされている[28]。最低賃金法は社会保障の観点から、均衡賃金より低い場合は、それより高い水準に最低賃金を設定する[28]。したがって、最低賃金を下回る労働生産性しか持たない人は雇用機会を奪われ、失業が発生するとされている[28]。所得格差を是正するはずの最低賃金が、逆に格差を拡大させる可能性を生じさせるとされている[28]

ミクロ経済理論の代表的なものの一つに、最低賃金の存在がかえって低賃金労働者の厚生を引き下げるという命題がある[29]。企業の労働コストを引き上げ、労働需要を減少させる最低賃金制度は、労働者の最低生活保証手段として有効なツールではないこと、労働市場の需給には直接介入せず、低賃金労働者への生活保障は事後的な政府からの所得移転によって行うべきであること、の二つの基本命題は、1990年代以降、主流派経済学者間のコンセンサスであり続けている[29]

しかし2013年現在、労働市場を完全競争だとみなすことの不備が、経済学者自身によって指摘されている[27]。まず賃金の上昇は労働者に一生懸命働くインセンティブを与えるので、生産性が向上し、転職が抑止される。従って雇用者はこうした効果を期待して、均衡水準より高い賃金を労働者に与える傾向がある[* 2]ジョセフ・E・スティグリッツは、最低賃金法による賃金上昇は、こうした効果による賃金上昇により相殺されるため、最低賃金法は予想していたほどの悪影響を与えないかも知れないとしている[30]

また最低賃金法が長期的には雇用によい影響を与えるという意見もある。最低賃金法は短期的には低賃金労働者によって成り立っていた産業を壊滅させるかもしれないが、結果としてそれは労働者への投資を増大させる事に繋がり、長期的には生産性を増大させる可能性があるからである。たとえばスタンフォード大学経済史家であるゲイビン・ライトによれば、最低賃金法は南北戦争から大恐慌の頃までのアメリカ南部での低賃金の解消に決定的役割を演じ、アメリカ南部の労働市場をより高賃金の産業へとシフトさせる上でダイナミックな役割を果たしたとしている[30]

別の指摘としては、労働市場は完全競争ではなく需要独占[* 3]である可能性がある、というものがある。このモデルによれば、企業はその独占的立場を利用し、雇用の不当な縮小と賃金の不当な値下げを行う事ができてしまう。最低賃金法はこうした状況を改善するのに役立つとしている。更に、短期的ではあるが、最低賃金の引き上げが右の図の W'm を超えない範囲においては、雇用が増加していく。但し、長期的には、引き上げによって人件費増加し、利益が減少してしまうため、減少を理由に倒産する企業が出てくることが考えられ、その場合には雇用への減少圧力が働くことに注意する必要がある。[24]

また、高い水準の最低賃金はワーキング・プアの問題をなくすという利点がある。高い最低賃金は、労働から得られる収入が失業時に生活保護から得られる額よりも高い事を保証し、結果的に失業者に職探しをさせるインセンティブをもたらすとされている[30]

カリフォルニア大学アーバイン校のニューマーク教授とFRBのワッシャーは、最低賃金が雇用へ与える影響を調べる上で、

  1. 賃金引上げの影響は短期ではなく、長期で出てくることが多いこと
  2. 特定の産業の影響だけでなく、低賃金労働者全体の雇用を分析すること
  3. 最低賃金の引き上げは、低賃金労働者の中で雇用の代替を発生させる可能性があること

に注意する必要があるとしている[31]

特定最低賃金(産業別最低賃金)については、理論的には労働集約型産業に適用した場合には、労働者の厚生が高まるという理論的な裏づけがあるが、現実の適用業種は、支払能力が高い業種、産業に適用されており、理論的裏づけとは関係していない[誰?]。また、特定最低賃金には、その産業への新規参入への障壁となる効果もあるため、その産業側の利益という意味合いもある[要出典]

実証

実証的には、最低賃金の雇用の縮小の効果が出るような大幅な最低賃金の上昇をした例がないため、雇用の縮小効果は小さく、好影響・悪影響を判断・確認できるような研究ができていない[30]

1994年9月に「アメリカン・エコノミック・レビュー」に掲載されたデービッド・カードとアラン・クルーガーの論文は、ニュージャージー州ペンシルベニア州東部の410のファーストフードレストランを対象に、最低賃金引き上げによる雇用の影響を調査したが、減少が見られなかった。[32][33]

また、イギリス最低賃金委員会から委託されたランド研究所が2017年に発表した「The impact of the National Minimum Wage on employment A meta-analysis(全国最低賃金が雇用に与える影響 メタ分析)」によれば、1999年以降のイギリスでの最低賃金の引き上げによる雇用への影響を分析した1451もの研究をまとめてメタ分析した結果、パートタイム労働者に悪影響が見られたものの、全体的な雇用への悪影響を及ぼさないことが分かった。これは、最低賃金引き上げにより非正規雇用が減り、正規雇用が増えるからである。更には、最低賃金引き上げによって賃金格差を減らし、低賃金労働者の生活水準を向上させる効果があることを明示している[34][35]

2019年8月に「アメリカン・エコノミック・レビュー」に掲載されたピーター・ハラストシとアッティラ・リンドナーの論文によれば、ハンガリーで2001年と2002年に最低賃金が大幅に引き上げられた時(2000年:2万5500ハンガリーフォリント→2002年:5万ハンガリーフォリント)、国際競争にさらされている貿易財産業(大企業が多い)の雇用が減少し、そうでない非貿易財産業では消費者に負担させる形(2%の価格上昇)で価格転嫁を行った。また、この引き上げにより、最低賃金労働者29万人のうち、約3万人(総雇用の0.076%)が職を失い、残りの26万人は60%の賃金上昇の恩恵を受けた。最終的には、最低賃金引き上げによって増加した労働費用の内、77%を価格を上昇させた商品を購入した販売先が負担し、残りの23%を利益の減少を受ける形で雇用者が負担した[36][37]

ビル・クリントン政権であった1996年に最低賃金が引き上げられた際に、失業率の上昇はみられず、低所得者層の給料が増加した[38]

オーストラリアでは、トヨタフォードホールデンなどの撤退が相次いでおり、2017年には自動車の生産拠点が無くなるなど、製造業全体が先細りして雇用が減少しているが、この原因として、経済成長で最低賃金が上昇し、国際的な競争力を失ったためとの意見がある[39][40]

イギリスでは、1999年の全国最低賃金再導入後、最低賃金の引き上げに対して、経済社会にプラスの影響を及ぼしている[41]

何故なら、全国最低賃金だけでなく、税額控除職業訓練などの他の政策も用いて、低所得者対策をしたこと、引上げペースを経済状況に応じて調整したからである[41]

その結果、最低賃金が1999年から2019年までの20年間の間に約2.3倍(1999年:3.60ポンド[22歳以上]→2019年:8.21ポンド[25歳以上])もの引き上げが行われたにもかかわらず、その間の失業率は、2008年のリーマンショックやその後に深刻化した欧州債務危機を除いて、減少している。また、1999年から2018年までの平均経済成長率(名目)は、日本の0.9%を上回る1.9%と高い水準を維持してきている[41]

逆にマイナスの影響を与えた例では、大韓民国が挙げられる[41]

何故なら、所得分配に偏った政策により、重い企業負担を強いて、企業に経営改善の余地を与えなかったこと、2018年に経済事情を無視した引き上げを行ったことからである。その結果、失業率の上昇という形で実体経済を悪化させた。2019年1月の失業率は、リーマンショックで記録した2010年1月の4.7%に迫る4.4%まで悪化した[41]

また、デービッド・アトキンソンによれば、最低賃金額が12%以上の引き上げは、危険な水準であるとされている。韓国の2018年の最低賃金引き上げにおいても、その悪影響が上記のように指摘されている[42]。しかし、2020年8月6日の東洋経済ONLINEの記事では一転して、韓国の最低賃金引き上げの失敗を否定し、引き上げの影響がそれ程ないことを主張している。また、同時に日本が韓国のような急激な引き上げを主張しているわけでないことも断りを入れた上で、否定している。[43]

経済産業研究所森川正之によれば、全国一律のイギリスとは異なり、都道府県ごとに最低時給額が設定されている日本において、最低賃金引き上げが生産性を高める効果や非正規雇用の比率を低下させる効果が確認されなかった[44]

代替案

最低限所得保障」も参照

いくらかの経済学者は最低賃金に代わる制度を提案している。大竹文雄は「賃金規制という強硬手段で失業という歪みをもたらすのではなく、税・社会保障を用いた所得再配分政策で貧困問題には対応するべきである」と指摘している[45]

また、川口大司によれば、貧困対策の選択肢として給付付き税額控除である勤労所得税額控除(Earned Income Tax Credit)を提案しており、生活保護と比べて、就労意欲を促し、低賃金労働者の就業率を向上させる利点があるとしている。一方で、制度設計を慎重に行わないと、企業の賃上げが行わなくなり、却って労働者の賃金を下げてしまう恐れがあること、そして対象を限定してしまうと、対象外の労働者の就労意欲が無くなってしまう欠点があることを指摘している[46]

『法と立法と自由』を著したフリードリヒ・ハイエクのように労働市場への不介入の原則と法の支配による個人の生存権の保護を両立させるために『ベーシックインカム』を主唱する経済学者もいる[47]

各国の状況

詳細は「各国の最低賃金の一覧」を参照
日本については「最低賃金 (日本)」を参照
アメリカについては「最低賃金 (アメリカ)」を参照
イギリスについては「最低賃金 (イギリス)」を参照
ドイツについては「最低賃金 (ドイツ)」を参照
フランスについては「最低賃金 (フランス)」を参照
スイスについては「最低賃金 (スイス)」を参照
韓国については「最低賃金 (韓国)」を参照

以下は、各国の法定最低賃金及びその推移である。なおデフレーションなど、物価変動の調整は行われていない。

  • ルクセンブルクの旗 ルクセンブルク - 月2,201.93ユーロ※18歳以上(18歳以上の熟練工等、一部の労働者は、20%加算され2.642,32ユーロ)[2021年1月現在][48]
  • アイルランドの旗 アイルランド - 時給10.20ユーロ(2021年1月現在) ※20歳以上(2018年雇用雑則法より簡素化され、勤続年数や研修中か関係なく年齢のみとなった。20歳未満は減額適用され、19歳は最低賃金額の90%、18歳は80%、18歳未満は70%となっている。)[49]
  • オランダの旗 オランダ - 月1,684.80ユーロ(2021年1月現在)※21歳以上(見習いは除く)[22]
  • ベルギーの旗 ベルギー - 月1,643.57 ユーロ(2020年3月現在)※18歳以上。ただし、18歳未満と交互職業訓練からの利益を受けない職務経験の無い18歳以上20歳以下の研修生は若年者減額適用を受ける。また、勤続月数による加算制度があり、勤続12ヵ月未満は19歳以上の労働者が、勤続12ヵ月以上24ヵ月未満は20歳以上の労働者が、勤続24ヵ月以上は22歳以上の労働者が加算される。22歳以上の労働者は勤続6カ月で月1,687.18ユーロ、勤続12カ月で1,706.56ユーロ。22歳以上で勤続24カ月で月1,722.54ユーロ、勤続36カ月で月1,727.70ユーロ[50][51]ただし、公共部門の雇用者、見習労働者、訓練生は除く。
  • フランスの旗 フランス - 月1,554.58ユーロ、時給10.25ユーロ(2021年1月現在)[52][53]
  • ドイツの旗 ドイツ - 9.60ユーロ(2021年7月~2021年12月)、9.82ユーロ(2022年1月~2022年6月)、10.45ユーロ(2022年7月より)[54]
  • スペインの旗 スペイン -月950ユーロ、年1万13,300ユーロ(賞与2カ月を足した14カ月分)(2021年1月現在)[55]
  • チェコの旗 チェコ -月1万5,200コルナ(指示により厳密に範囲が規定された単純作業[例:掃除人配達人、器具の単純な組立工など]。仕事内容によって、最低賃金額が異なり、単純作業以外に7つのカテゴリーで分けられており、最低月給は1万6,800~3万400コルナである。)(2021年1月現在)[56]
  • トルコの旗 トルコ-月給月給2,825.90リラ社会保険料所得税控除後の手取り額で、独身の場合。夫婦の場合、共働きの有無及び子供の数によって2,825.9~3,013.7リラ) [2021年1月~2021年12月][57][58][59]
  • オーストラリアの旗 オーストラリア - 週772.60、時給20.33豪ドル(新型コロナウイルスの影響の矢面に立つ一般小売業は2021年9月1日、航空業、観光業、フィットネス業界、一部の一般消費者向け小売貿易部門は、2021年11月1日から改定される。それらの産業以外の労働者は2021年7月1日より改定額が適用される)※21歳以上(見習いや研修生は除く)[60][61]
  • ニュージーランドの旗 ニュージーランド - 時給18.90NZドル(2020年4月より)、時給20.00NZドル(2021年4月より)※16歳以上。ただし研修期間中の場合は、15.12NZドル(2020年4月より)、16.00ドル(2021年4月より)[62][63][64][65]
  • 中華人民共和国の旗 中華人民共和国の場合は地域により、最低賃金が異なる。(最高:上海[月額2,590元]~最低:安徽省4類[月額1,180元])[66][67][68][69](2021年9月現在)
    • 北京市 - 月2,320 (2021年8月現在)[ただしパートの時給は25.3元][70]
    • 上海市 - 月2,590 (2021年7月現在)[ただしパートの時給は23元][71][72]
    • 広州市 - 月2,100 (2018年7月現在)[73][74]
  • 香港の旗 香港- 時給37.5香港ドル(2019年5月-2023年4月) [75][76][77][78]また、外国人家政婦の場合は、月給4,630香港ドル(ただし最低月給とは別に、食費手当も1,121香港ドル支給する義務がある。)(2019年9月28日現在)[79][80]
  • 中華民国の旗 中華民国 - 時給160ニュー台湾ドル、月24,000ニュー台湾ドル(2021年1月1日より)[81][82]
  • モンゴル国の旗 モンゴル - 月42万トゥグルク(2020年1月1日現在)[83]
  • 大韓民国の旗 大韓民国 - 時給8,720ウォン(2021年1月現在)[84][85]。2022年1月より9,160ウォン[86][87]
  • 朝鮮民主主義人民共和国の旗 朝鮮民主主義人民共和国 - アメリカ国務省の2019年国別人権報告書[88]によれば、最低賃金制度はない。ただし、開城工業地区では定められていた。
    • 開城工業地区(北朝鮮従業員) - 月73.87ドル(2015年8月時点)[89]2016年の北朝鮮によるミサイル発射実験により運用停止される前であることに留意する。(現在は韓国との協議を経ず、無断で北朝鮮により運用再開される。)
  • インドの旗 インドの場合は、複雑な最低賃金システムを用いており、2014年末時点で、中央政府は45職種、州政府は延べ1,822職種について最低賃金を定め、随時改定している[90]。しかし、2019年8月に1948年最低賃金法・1936年賃金支払法・1965年賞与支払法・1976年均等報酬法の4つの法律を統合し再編して成立した2019年賃金法典[91]より今まで中央政府及び州政府にも定められなかった業種も含め全ての業種が対象となり、中央政府が定めた最低賃金基準(floor wage)を下回ってはならないと定められ、2021年4月1日に施行される予定である[92][93]
    • 全国最低賃金水準(National Floor Level Minimum Wage) - 日額178ルピー(2019年7月現在)[94]
    • 中央政府(未熟練農業労働者) - A地区:日額411ルピー B地区:日額375ルピー C地区:日額379ルピー(2021年4月~2021年9月)[95]
    • デリー(未熟練労働者) - 月収15,492.00ルピー(日額596ルピー)(2020年10月時点)[95]
    • ウッタル・プラデーシュ州(未熟練労働者) - 月収9,078ルピー(2021年4月~2021年9月)[95]
    • マハーラーシュトラ州 (ホテル・レストランで働く未熟練労働者) - Ⅰ地区:月収11,400ルピー、Ⅱ地区:月収11,100ルピー、Ⅲ地区:月収10,900ルピー(2021年1月時点)[95]
    • ビハール州(未熟練農業労働者) - 日額279ルピー(ただし、トラクターなどの収穫作業をした場合を除く。)(2020年10月~2021年3月)[95]
    • チャッティースガル州(未熟練労働者) - A地区:日額365.00ルピー B地区:日額355.00ルピー C地区:日額345.00ルピー(ただし、農業は、地区問わず日額257.00ルピー)(2020年10月~2021年3月)[95]
    • ナガランド州 (未熟練労働者)- 日額176ルピー(ただし、荷物の積み込みと積み下ろし作業は重量による出来高制であり、トラックの積み込みは、木材の大きさによる。)(2019年6月現在)[95]
    • ハリヤーナー州 (未熟練労働者)-日額363.78ルピー(2020年7月現在)[95]
  • バンコク - 月9,930バーツ(2020年1月現在)[96]
  • ホーチミン - 月4,420,000ドン(2020年1月現在)[97][98][ただし、職業訓練を受けた労働者に対してはこの最低賃金より少なくとも7%上乗せした給与[99]
  • マニラ - 月13,425ペソ(2018年11月現在)[100][101]
  • ジャカルタ - 月441万6,187 ルピア(2021年1月より)[102]
  • ミャンマーの旗 ミャンマー - 月144,000チャット(2018年5月現在)[103][104]
  • マレーシアの旗 マレーシア - 月1,100リンギ(人口15万人未満の自治体)、月1,200リンギ(人口15万人以上の自治体)[2020年2月現在][105][106][107]
  • カンボジアの旗 カンボジア - 月額192ドル(2か月の試用期間中は187ドル)[2021年1月現在] 対象は縫製製靴業に従事する労働者のみ。また、最低賃金に加えて10ドルの皆勤手当、7ドルの居住・通勤手当、その他の福利厚生については引き続き受け取ることができる[108]。2022年1月からは月額194ドル(2か月の試用期間中は192ドル)[109]。2021年から出来高制の給与体系の企業では労働職業訓練省が出した省令の限りではないが、支払金額が最低賃金を下回らないことと明記された[110][111]

各国間の格差

EUでも加盟国間における最低水準の格差が指摘されている。

EU加盟国

GDPの場合

2006年1月時点:約11.7倍(最高:ルクセンブルクの旗 ルクセンブルク[月額1,503ユーロ] 最低:ラトビアの旗 ラトビア[月額129ユーロ])[112]

2009年1月時点:約13.3倍(最高:ルクセンブルクの旗 ルクセンブルク[月額1,642ユーロ] 最低:ブルガリアの旗 ブルガリア[月額123ユーロ])[113]

2020年2月時点:約6.9倍(最高:ルクセンブルクの旗 ルクセンブルク[月額2,141.99ユーロ] 最低:ブルガリアの旗 ブルガリア[月額311.89ユーロ])[114]

2021年2月時点:約6.6倍(最高:ルクセンブルクの旗 ルクセンブルク[月額2,201.93ユーロ] 最低:ブルガリアの旗 ブルガリア[月額332.34ユーロ])[114]

購買力平価で換算した場合

2006年1月時点:約5.9倍(最高:ルクセンブルクの旗 ルクセンブルク[月額1,417ユーロ] 最低:ラトビアの旗 ラトビア[月額240ユーロ])[112]

2009年1月時点:約5.9倍(最高:ルクセンブルクの旗 ルクセンブルク[月額1,413ユーロ] 最低:ブルガリアの旗 ブルガリア[月額240ユーロ])[113]

2020年1月時点:約2.9倍(最高:ルクセンブルクの旗 ルクセンブルク[月給1,562.37ユーロ] 最低:ラトビアの旗 ラトビア[月給538.35ユーロ])[115]

2021年1月時点:約2.8倍(最高:ルクセンブルクの旗 ルクセンブルク[月給1,738.37ユーロ] 最低:ブルガリアの旗 ブルガリア[月給626.46ユーロ])[116]

フルタイム労働者賃金に対する法定最低賃金の比率(EU)[116]

中央賃金の場合(2019年時点) 最高:フランスの旗 フランス(0.614) 最低:アイルランドの旗 アイルランド(0.421)

平均賃金の場合(2019年時点) 最高:フランスの旗 フランス(0.496) 最低:アイルランドの旗 アイルランド(0.352)

OECD加盟国

OECD加盟国間内の実質最低賃金格差(ドル換算)[117] GDP(2019年実質為替レート)の場合

2000年:約24.7倍(最高:オーストラリアの旗 オーストラリア[時給12.09ドル] 最低:メキシコの旗 メキシコ[時給0.49ドル])

2010年:約26.8倍(最高:ルクセンブルクの旗 ルクセンブルク[時給13.15ドル] 最低:メキシコの旗 メキシコ[時給0.49ドル])

2019年:約23.5倍(最高:ルクセンブルクの旗 ルクセンブルク[時給13.40ドル] 最低:メキシコの旗 メキシコ[時給0.57ドル])

購買力平価(2019年)で換算した場合

2000年:約11.7倍(最高:オーストラリアの旗 オーストラリア[時給10.55ドル] 最低:メキシコの旗 メキシコ[時給0.90ドル])

2010年:約12.4倍(最高:ルクセンブルクの旗 ルクセンブルク[時給11.29ドル] 最低:メキシコの旗 メキシコ[時給0.91ドル])

2019年:約12.1倍(最高:オーストラリアの旗 オーストラリア[時給12.59ドル] 最低:メキシコの旗 メキシコ[時給1.04ドル])

※メキシコの最低賃金(一般向け)は2021年1月時点で日給141.70ペソ(7.12ドル)、北部国境地域は日給213.39ペソ(10.72ドル)、家事手伝い業は154.03ペソ(7.74ドル)、季節農業従事者160.19ペソ(8.05ドル)である[118]。2019年は、日給102.68ペソ、北部国境地域は日給176.62ペソであり、2021年は2019年に比べて前者は約1.38倍、後者は約1.21倍である[119][120]

フルタイム労働者賃金に対する法定最低賃金の比率(OECD)[121]

中央賃金の場合(2019年時点)
最高:コロンビアの旗 コロンビア(0.90)月給90万8,526ペソ(米ドル換算で約263.15ドル。月収が最低賃金の2倍を下回る労働者には、別途交通費補助10万6,454ペソ/月を支給) [2021年1月現在][122]
最低:アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国(0.32)

平均賃金の場合(2019年時点) 最高:コロンビアの旗 コロンビア(0.59)最低:アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国(0.22)

世界

1人当たりGDPに対する法定最低賃金の比率(地下経済並びに失業率の調整あり)[123]

最高:中央アフリカ共和国の旗 中央アフリカ共和国(2.511)(平均最低月給28,000CFAフラン 公務員月給:26,000CFAフラン 農業労働者月給:8,500CFAフラン[2018年時点][124]

最低:ブルンジの旗 ブルンジ(0.003)(ブジュンブラ[未熟練労働者]:非公式最低日給3,000ブルンジフラン 農村部:非公式最低日給2,000ブルンジフラン+昼食[2018年時点][125])

最貧国の一部ではGDPが比較的低いため、最低賃金の比率が高くなることがあることに留意する。また、最低賃金制度や団体交渉に基づく産業別労働協約などで規定された最低賃金が導入されなかったり、特定分野にしか適用されていないため、比率が0となっている国(カンボジアシンガポールトンガ等)は除く。

脚注

注釈

  1.  原文:yearly wage sufficient to maintain the worker in the hightst state of industrial efficiengy and to afford him adequete leisure to diacharge the duties of citizenship
  2.  、これは労働市場が実際には完全競争ではないことに起因している。雇用者は労働市場の不完全情報性により、労働者の良し悪しを完全には把握できない。したがって労働の良し悪しとは無関係な所でインセンティブを生み出す必要が生じるのである。
  3.  市場に買い手が1人しか存在しない状況のことを指す。しかしながら、情報の不完全性により売り手(労働者)には職探しのコストが掛かり、使用者側の場合、採用活動におけるコストが発生している場合、使用者側は純粋な需要独占の状況と同様、右上がりの労働の供給曲線に直面することになる。

出典

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  2.  菅野 2017, p. 442,444.
  3.  厚生労働省 (2020-06-20) (PDF). [2019年の海外情勢]第5章 東南アジア地域にみる厚生労働施策の概要と最近の動向 第5節 シンガポール共和国(Republic of Singapore)(1)労働施策 (Report) 2021年3月6日閲覧。.
  4.  日本政府 (2012年4月6日). “最低賃金法(昭和三十四年法律第百三十七号)”. e-Gov(イーガブ)2019年8月12日閲覧。
  5. a b c d e f 厚生労働省 (2004-12-7). “配付資料『諸外国の最低賃金制度における減額措置・適用除外の考え方について』”第4回最低賃金制度のあり方に関する研究会 2019年4月16日閲覧。
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  118.  志賀大祐 (2020年12月21日). “2021年1月適用の最低賃金を15%引き上げ、業界団体は警鐘鳴らす(メキシコ)”. 独立行政法人 日本貿易振興機構(ジェトロ). 2020年12月27日閲覧。
  119.  独立行政法人 労働政策研究・研修機構 (2018年12月). “HP > 調査研究成果 > 海外労働情報 > フォーカス > 2018年 > 12月:メキシコ>2019年最低賃金を発表―全国16%増、北部国境地域は2倍へ”. 2019年5月13日閲覧。
  120.  岩田 理 (2019年1月9日). “ビジネス短信>一般最低賃金を1月から16.2%引き上げ、米国境地帯は2倍に”. 独立行政法人 日本貿易振興機構(ジェトロ). 2019年5月13日閲覧。
  121.  OECD. “Minimum relative to average wages of full-time workers(フルタイム労働者の平均賃金に対する最低賃金の比率)”. 2021年5月30日閲覧。
  122.  独立行政法人 日本貿易振興機構(ジェトロ) (2021年1月). “投資コスト比較 選択した都市:ボゴタ(コロンビア) メデジン(コロンビア)”. 2021年5月30日閲覧。
  123.  オックスファム・インターナショナル (2018年10月9日). “The Commitment to Reducing Inequality Index 2018(2018年度格差縮小コミットメント指数)Data file Figure1”. 2018年10月12日閲覧。
  124.  United States Department of State(アメリカ国務省) (2019年3月13日). “2018 Country Reports on Human Rights Practices:Central African Republic (2018年国別人権報告書 中央アフリカ共和国)”. 2019年6月1日閲覧。
  125.  United States Department of State(アメリカ国務省) (2019年3月13日). “2018 Country Reports on Human Rights Practices:Burundi (2018年国別人権報告書 ブルンジ)”. 2019年6月1日閲覧。

参考資料

出典は列挙するだけでなく、脚注などを用いてどの記述の情報源であるかを明記してください。記事の信頼性向上にご協力をお願いいたします。2016年1月

関連項目

外部リンク

雇用

雇用関係
基本概念
雇用形態
就職活動
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法定帳簿
労働意欲
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労働市場
職業訓練

ーー
190 名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 2021/10/11(月) 21:22:59.82  ID:AU1Y/KXR 

受賞の理由は、社会的に偶然起きた出来事や政策の変更のために、
異なった影響を受けた複数の人たちのグループを比較する「自然実験」という手法をとることが、
物事の原因と結果の因果関係を理解するのに大きく役立つことを証明したというもの。

カード氏は自然実験の手法を用いて、最低賃金や移民、教育が労働市場に
どういった影響を与えるかについて分析。

従来、最低賃金の引き上げは雇用を減らすとされてきたが、
引き上げがあった二つの地域を比べることにより、
必ずしも雇用が減るとは言えないことを実証した。

アングリスト氏とインベンス氏は自然実験を行う際の方法論上の問題を解決した。

アカデミーは「彼らの手法は、他分野にも広がり、実証研究に革命的な変化を与えた」とした。

ノア・スミス「みんなが待ち望んでいた授賞:カード、アングリスト、インベンスのおかげで経済学はより科学的になった」(2021年10月12日) — 経済学101
https://econ101.jp/%E3%83%8E%E3%82%A2%E3%83%BB%E3%82%B9%E3%83%9F%E3%82%B9%E3%80%8C%E3%81%BF%E3%82%93%E3%81%AA%E3%81%8C%E5%BE%85%E3%81%A1%E6%9C%9B%E3%82%93%E3%81%A7%E3%81%84%E3%81%9F%E6%8E%88%E8%B3%9E%EF%BC%9A%E3%82%AB/

ノア・スミス「みんなが待ち望んでいた授賞:カード、アングリスト、インベンスのおかげで経済学はより科学的になった」(2021年10月12日)

Noah Smith ”The Econ Nobel we were all waiting for -Card, Angrist, and Imbens have made econ a more scientific field.-“, Noahpinion, October 12, 2021

新しい考えは全てを疑いに持ち込み、
火の元素は完全に消失し、
太陽も大地も失われ、誰の知恵をもっても
どこを探すべきかは教えてくれない

ジョン・ダン

2021年のノーベル経済学賞は、その実証経済学における業績によってデビッド・カード、ジョシュア・アングリスト、グイド・インベンスが受賞した。誰がノーベル経済学賞を受賞するかを予測するのにはとっても簡単なやり方がある。その分野においてまだ受賞してない最も影響力のある人たちを並べて、ミクロ理論家が2年連続で受賞することはないと仮定するんだ。最も影響力の強い人たち10人か20人そこらを、その研究がインパクトを与えた時点で見た場合の影響力の大きさの順に並べて、その中でもその影響力が一番昔にさかのぼる人が受賞する可能性が最も高い。(もちろんここで問題となるのは影響力が強いのはだれかを決めることだ。インパクトランキングや、経済学者に訊いてみたり、単にその分野で全体として何が起きているかの知識に基づいたりといったことの組合せでやるんだけど、思ったより難しくはない)

何年もの間、このやり方で僕も含めて多くの人たちがデビッド・カードがノーベル賞を受賞すると予想した。アラン・クルーガーとの共著による最低賃金に関する1994年の論文は経済学業界全体を揺さぶった衝撃的なもので、新時代の訪れを告げるものだった。それ以降、カードは実証労働経済学の最前線に立ち続け、教育から移民男女間の賃金差格差やその他ありとあらゆるものの研究に自らが先鞭をつけた技術を拡張・改善してきた。この分野におけるアングリストとインベンスの影響も同じようにとてつもないものなのだけれど、それが出てきたのはもっと後になってからなので、彼らが受賞するのはもっと後の年になっていたとしても不思議じゃなかった。でもカードの受賞は明らかに遅すぎだ。

たぶんこんなに時間がかかった理由は、彼の有名な最低賃金論文の結論が経済学分野にいる多くの人にとっては受け入れがたいものだったからだ。カードとクルーガー(受賞に値したのに残念ながらその前にこの世を去ってしまった)はニュージャージー州における1992年の最低賃金引上げについて調べ、雇用の喪失が行らなかったことを発見した。彼らはニュージャージー州をお隣のペンシルバニア州と比較して、雇用の喪失がなかったことを発見した。彼らはニュージャージー州の高賃金レストランと低賃金レストランを比較して、それでも雇用の喪失がなかったことを発見した。実のところは多少の雇用の増加すらあった可能性がある。

今やこれはまったくもっておかしな発見じゃない。それどころか一般標準であって、その結果としてこの問題についての経済学者の考えも変わった。でも当時においてこれはほとんど異端も同然だった。競争下の供給と需要についての基本理論によると、最低賃金を上げると人々は仕事から放り出されてしまう!教科書の導入部分にだってそう書いてある。これは経済学が発見した最も基本的な事実の一つ、善意の政府介入が意図しない悪い結果を招きうるということの典型例だと広く信じられていた。そんな中でカードとクルーガーはニュージャージーではそんなこと起きませんでしたが何か?と言ったんだ。政府が賃金を上げるように言って、企業はそれに従って、それでも人々は仕事を失わなかった。

何たる異端!ジェームズ・ブキャナンは、彼自身も1986年にノーベル経済学賞を受賞しているけれど、この結果を笑い飛ばした。1996年のウォールストリートジャーナルの論説欄に彼は次のように書いている

「水は上に向かって流れる」と主張する物理学者がいないように、経済学者たることを自負する者が最低賃金の引き上げが雇用を増やすと主張することはない。そんな主張は、仮に真面目に言っているとしてだが、経済学に最低限の科学的中身があることすら否定し、その結果として経済学者はイデオロギー的な利益の擁護者として物を書くしかなくなってしまう。幸運なことに、2世紀に渡る教えを捨て去ろうとしている経済学者はほんの一握りだけだ。我々はまだ誰にでも尻を振る売女にはなっていない。

もちろんブキャナンは完全に間違ってる。最低賃金の少しの上昇が雇用を増やす状況を想像するのは簡単だ。経済にある程度の買い手独占力があればいい。買い手独占の基本理論は経済学101(初級)クラスで完全競争モデルとちょうど並行して習うはずだ。下の図のようなみたいな感じで。

この図にはまったくもって標準的な右下がりの労働需要曲線(青線)があるけれど、支配的な企業の市場支配力が労働供給曲線を歪めていて、最低賃金によって実際に雇用が前よりも多い点に引き上げられる。現実世界の労働市場では雇い主が一人だけということはないけれど、少数の支配的な雇い主がいるのであれば同じような結果になる。事実、最近の研究ではこうしたこと、つまりは穏当な最低賃金引き上げは雇用をなくさない一方で大幅な引き上げは雇用をなくし、労働市場集中度が高いほど安心して最低賃金を引上げられるということが一般的に認められている。アレックス・タバロックはこのことを「逆説的」な結果と言っている(訳注;拙訳はこちら)けど、実のところそうじゃない。これは教科書にも載っていること、あるいはなんにせよ教科書に載せとくべきことだ。

でも当時、カードとクルーガーの発見は革命的で異端のように思われた。事実、他の研究者もたぶん同じ発見をしていただろうけど、正統派に逆らうことの恐怖から結果を公表するのを怖がった。

https://twitter.com/besttrousers/status/1447572968704458754?s=20

(マット・ダーリングのツイート:@besttrousers @TheTheGrinch7 @profstonge @mises 正の粘着性の結果にくっきりとした断絶があるだろ?(その断絶部分の)結果がでた回帰をやった人は報告をしない場合が多いからだ。)

伝統、そして競争モデルに対する行き過ぎた自信がおそらくはこの背景にある。でもたぶん政治も重要だった。1990年代では、経済学は他の学術分野がそうであったようにかなり保守的な分野で、経済学者の中にはたぶん自分の役割は社会主義に対する防波堤だと考えている人が未だにいた。実際、政治右派に傾倒している経済学者は今もカードとクルーガーの結果は真ではあり得ないって言っている。その後の大量の研究で同じ結果が得られているにも関わらずだ。例えば、ヘリテージ財団とミーゼス研究所に勤務しているピーター・St.オンゲは今日の授賞について以下のように言っている。

(ピーター・St・オンゲのツイート:今年のノーベル賞はデビッド・カードを含む3人の労働経済学者に授与された。カードの論文で一番有名な最低賃金が雇用を傷めないと主張する論文は、経済学がどれだけ社会主義プロパガンダへと堕落してしまったかを学生に説明する好例として使っているよ。
引用RTされているノーベル賞のツイート:速報!2021年のアルフレッド・ノーベル記念経済学スウェーデン国立銀行賞の半分はデビッド・カード、もう半分はジュシュア・D・アングリストとグイド・W・インベンスの2人に共同で授与されました。)

あるプロパガンダのエコーチャンバーの中にいると、実証的な証拠が反対側のプロパガンダに見えてしまうらしい。

でもこうした研究を萎えさせたのは保守派の反対だけじゃない。こうした研究の限界や注意書きを考慮しないリベラル活動家に付け入られてしまうという思いもあった。カードは2016年のインタビューで次のように言っている。

労働経済学にまつわる不確実性にも関わらず、最低賃金に関するカードの研究は賃上げの便益をほとんど確信しているかのような運動家によって何度も引用されてきた。これをカードは不快に思っている。「最低賃金を引き上げるべきだって主張して回ってるわけじゃないのに、最低賃金の擁護派は最低賃金を引き上げるべきだと主張するのに私の研究を引合いに出すんだ。それがこの問題についてこれ以上研究しない理由のひとつだよ。私が最低賃金の引き上げを擁護しているとだけみんなが思ってしまうから、私が何をするにあたっても疑いの目で見られてしまうんだ。」

「移民についても同じだ」と彼は続ける。「移民についても新たに論文を書こうとはこれっぽっちも思わない。私が移民の増加を擁護するに違いないとみんなが思うからだ。」

これは正しい。カード&クルーガー (1994)を単に「最低賃金最高!」とだけ受け取ったとしたら、それは読み間違いだ。

カードがやりたかったのは最低賃金を推し進めることや移民を拡大することじゃなくて、それよりももっと大きなことだ。彼は経済学分野をより科学的にしたかったんだ。そのことは2006年のインタビューで述べられている。

経済学を全体としてみると、まさに二つの種類の人が組み合わさっている。応用分野に強く目を向けている人と、それよりももっと数理哲学者に近い人だ。数理哲学者のほうがほとんどの関心を集めている。彼らは壮大な答えのない問題に取り組んでいる。労働経済学者はより科学的であろうとしていて、非常に具体的な予測を探してそれらを可能な限り慎重に検証しようとしている。数理哲学者たちは労働経済学者にいら立ちを感じている。彼らが広範な一般理論を持ち出すと、私たちがそれは証拠に合わないと言うからだ。

つまり、カード&クルーガー (1994)の重要さは最低賃金なんかを大きく飛び越えて、経済学それ自体の科学的性質に関するものなんだ。他のどれよりも愛用されて、基本的で、みんなが同意している理論であっても実証的な証拠によって覆されるのであれば、それはつまり経済学が単なる思考実験なんかではなくて、僕らが生きているこの世界に関する反証可能な主張からできているってことなんだ。

つまり経済学は科学だってこと。

もちろん、こういう話をすると毎回「経済学は科学じゃない!」叫ぶイナゴの群れが出てきて喜んで教えてくれるけど、彼らの言うとおり経済学は自然科学とは同じじゃない。実験室でできる実験もあるけど、一般的にはほとんどの経済学の現象は実験室での観察から導き出した行動に関する普遍的な法則で理解できるようなものじゃない。それよりも、経済学での反証は現実世界での実証的な証拠を必要とする。

そしてこれには危険が伴う。現実世界は実験のように条件を制御できないというのがその理由のひとつだ。移民が大量に押し寄せたときにマイアミの労働市場にダメージがなかったのは、移民が一般的に見て安全だからだろうか、それとも80年代のマイアミが好調だったからだろうか。都市を実験室に放り込めるのであればその他の条件が同一の二つの都市で実験できるけど、それは無理な話だ。

そしてこれこそカード、そしてアングリストとインベンスの研究の真骨頂が発揮されるところだ。彼らは自然実験と政策実験のための比較(基本的には対照群)を発見するための賢い方法を考え出した。その一般的な方法は差分の差法と呼ばれていて、アレックス・タバロックがカードとクルーガーに関する記事(訳注;拙訳はこちら)でうまく説明している。これに関連する技術が合成比較法(synthetic controls)で、これはニュージャージー州を例えばペンシルバニア州と比べる代わりに、最低賃金以外の全ての点でニュージャージ州に似るように設計した仮想的な他州のマッシュアップと比べることだ。これら以外の技術としてはランダム化比較実験(RCT)があって、これにより経済学者は現実世界をまさにある種の政策実験室として使う。開発経済学におけるRCT研究の先駆的役割を果たしたアビジット・バナジー、エステル・デュフロ、マイケル・クレマーも2年前にノーベル賞を受賞している。

これらの技術はまとめて「準実験」手法と呼ばれていて、実証経済学における「信頼性革命」と経済学者が呼んでいるものの中核をなしている。この「信頼性革命」という用語はアングリストが2010年に出したヨーン・シュテファン・ピスケとのエッセイで使った造語で、その中でアングリストは公共経済学、労働経済学、開発経済学における準実験手法の利用を称賛しつつ、マクロ経済学と産業組織論はそれに抵抗していると苦言を呈した。その後これらの分野もすべてアングリストとピスケが望んだ方向へと進んだけれど、公共経済学などの分野においてはその結果は特に際立ったものだった

(追記:2020年の研究では、全米経済研究所のワーキングペーパーの優に40%がいずれかの準実験手法を使っていることが分かった!)

でも単に信頼性革命の教えを広めるだけに留まらず、アングリストはそれを前に進め、多くの場合インベンス、そして今は亡きアラン・クルーガーと共同で、因果効果を測定する新しい統計的手法を開発して、そうした新しい手法を教育、医療その他の分野の問題へと応用したんだ。インベンスについていえば、彼もまた因果関係を見つけ出すためのこれまでにない更に正確な方法の開発を追求する才能はアングリストに何ら劣るところがなかった。

当然、こうした変化に対してはある程度の反発もあった。ご立派で壮大な構想を開陳してきた経済学者たちは、そうした構想がちっぽけなRCT研究によって打ちまかされてしまうかもしれないといら立った。ただ美しい数学がほしいだけの人たちは、自分たちの数学を窓の外の薄汚れた不純な世界と結びつける論文を引用するよう査読者たちに要求されていら立った。そして経済学なんて運動家の小間使いであるべきと信じる人たちは、自分たちが選択した政策に対して経験主義者が疑念を投げかけるかもしれないと色めき立った。

もちろんながらこれらの手法には理論上の制約がある。信頼革命の技術はある程度標準化されたけれど、原因と結果をボタン一つで解きほぐす解決法には程遠い。どんな自然実験にも失敗を招いてしまう特殊な状況はたくさんある(ニュージャージー州が最低賃金の引き上げで打撃を受けなかったのは、ニュージャージー州は僕らが理解できない何らかの点でおかしかったのかも)。ランダム化比較実験には、経済学者たちを大きな問題の代わりに小さくてつまらない政策変化に向かわせてしまうバイアスがありうる。

それに信頼性革命が理論にとって代わると期待するのは期待外れに終わってしまう。科学は単に出来事の一覧を作ろうとしているのではなくて、その理由を説明しようとするものだからだ。化学は反応式の一覧以上のものだし、生物学は薬物投与効果の一覧以上のもの、等々。経済学も同じことになるだろう。

でも信頼性革命が何をするかと言えば、それは理論と証拠の関係を変化させることだ。証拠が信頼できる場合、理論は証拠の指令にひざを折らなきゃならない。つまり理論は間違うことがある、少なくとも特定の時と場所においては。そしてこれは、信頼性ある証拠によって検証できる理論であれば何であれ、現実世界の政策決定に用いられる前に信頼性ある証拠によって検証される必要があるということだ。治験もせずにワクチンを患者に処方したりしないのと同じことだよ。

これは経済学者にとって自分自身に考えさせる必要のあるとても新しい方法だ。でもこの分野はまだよちよち歩き、まだフランシス・ベーコンやガリレオの段階なんだ。時間をあげてほしい。

この変化の一番アツいところは、実のところ今後の展開が読めないところなんだ。ポール・クルーグマンが指摘しているように、これまでのところ信頼性革命によって得られた結果の中で最も注目すべき結果の多くは、政府による介入の擁護を支持するものだ。でもそれは森羅万象に通じる特性というわけじゃない。単に自由市場が最高だと結論付けた人気の理論の残滓があったせいで、それは違うということを示す研究が大きな注目を集めただけだ。このことは事実にリベラルなバイアスがあるって意味じゃない。実際、経済学者たちが政治的に左に動くにつれて、保守的な結論のある論文が注目を浴び始めているかもしれない。直近の例はノリス他の論文で、親の収監は長期的には子供にとって良いことだって発見をしてる!

それでいいんだ。短期的には僕らはみんな自分の選んだ政治が勝つことを望んでる。でも政治の名のもとにあまりにも長く現実を無視してしまうと、しまいには僕らが叫ぶ命令に自然の摂理は従うことを拒むことになるだろう。信頼性革命とは長期にわたるゲームだ。これはいつの日にか経済的運命に対して僕らが今よりも大きな力をふるえるようになるように、人類の経済的知識をゆっくりと増やしていくものだ。

それがデビッド・カードが僕らの前に引いてくれた道筋で、ジョシュ・アングリストとグイド・インベンスが更にその道を進めてくれた。そしてこれこそ進むべき正しい道筋なんだ。


ノーベル経済学賞に米の3氏 最低賃金の影響検証

カード氏ら、データ分析生かす


191 名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 2021/10/11(月) 21:40:21.89  ID:AU1Y/KXR 

授賞理由はデータ分析の手法を洗練させ、最低賃金引き上げなどの影響を確かめたことだ。

経済学は生身の社会問題を扱うため、自然科学のように繰り返しの実験ができない。
このためカード氏らは似たような社会集団の動向を比較する手法を用いた。

代表的な分野が労働経済学で、カード氏は最低賃金の研究で知られる。
1990年代の論文では同じ時期に最低賃金を引き上げた州と据え置いた州で、
ファストフード店の雇用の変化に関するデータを集めた。

当時の経済学では、最低賃金を上げると経営者がコスト増を嫌って雇用を減らすとされていた。
しかしカード氏らが2つの州の同じ業態の店のデータを比べると、雇用は減っていなかった。

安部由起子・北海道大教授は
「移民流入が低賃金労働者に悪影響を与えないことを確かめた研究でも知られ、
幅広い分野で労働経済学の実証研究を発展させた」と指摘する。

理論の通説をデータの力で覆す研究はその後の経済学に大きな変化を与える。教育の効果分析もその一つだ。

アングリスト氏は、教育期間が長ければ人々の生涯所得が増えるかを確かめようとした。
目を付けたのは「学齢」。
日本でいうと小学校入学時点で4月生まれの子どもと3月生まれの子どもとでは、
卒業までの教育期間が約1年異なる。

アングリスト氏はこの差を利用して子どものデータを集め、
教育期間が長ければ卒業後の収入が増えることを確かめた。
インベンス氏はこうした「自然実験」と呼ばれる統計的な手法を開発した。

自然実験は経済現象の原因と結果を分析する手法として発展し、
エビデンス(証拠)に基づく政策立案(EBPM)に応用されている。

中室牧子・慶大教授は
「自然実験の研究の蓄積は、米オバマ政権でEBPMが推進される原動力になった」と
学問の進展が政策に与えた影響を指摘する。

ことしのノーベル経済学賞にアメリカの大学の研究者3人が選ばれたことについて、
ノーベル経済学賞に詳しい慶應義塾大学の坂井豊貴教授は
「ノーベル経済学賞は受賞者を聞いて驚く年もあるが、ことしは本当に驚かなかった年だった。
経済学という非常に実験がしにくい分野で、
社会でたまたま起きた変化を実験のように見立てて理解する手法を確立した。
特に労働や教育の分野への貢献が明らかで、受賞は非常に順当だった」と述べました。

また、人々の暮らしへの影響として「最低賃金についての議論という面では、
日本の政策にも大きな影響を与えていると思う。

最低賃金を上げるのは、一般的に喜ぶ人が多いが、
政策としては企業が雇用に消極的になり失業率が上がるのではないかと懸念の部分も出てくる。
ただ、カード氏らの功績で、わりと安心して最低賃金を上げても大丈夫だということが分かった」と指摘しました。


194 名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 2021/10/11(月) 22:48:09.82  ID:Gk7A2j/V 
分野としては今注目されている分野だから驚くにはあたらないが、
treatment effectでこの3人に絞られるというのは順当なのかなぁと思う
トップ研究者なのは間違いないけど3人と3人以外の研究者を分け隔てるような
圧倒的な研究成果がないように思う








3 件のコメント:

  1. 198 名無しさん@お腹いっぱい。[] 2021/10/18(月) 10:30:07.11 ID:8P7KhKer
    「宝くじ当選者は幸せというわけでない」…ノーベル経済学賞受賞者が結論
    ttps://japanese.joins.com/JArticle/283774

    「私の研究によると、宝くじ当選者は宝くじに当選しなかった人よりも幸せだとみることはできない」。

    今年ノーベル経済学賞を共同受賞したグイド・インベンス米スタンフォード大教授はこのように述べ、
    「保証された」基本所得が労働市場に及ぼす結果に対する自身の研究を説明した。

    11日(現地時間) のAPTNなどによると、インベンス教授はこの日のオンライン記者会見で
    「我々はマサチューセッツ州で宝くじに当選した約500人を含めて調査を実施した」とし、
    基本所得を受けるとしても人々の勤労意欲が落ちるなど大きな影響を及ぼすのではないと述べた。

    宝くじ当選者と未当選者の比較研究を通じて、
    基本所得が ▼労働力供給▼勤労時間▼所得 などに及ぼす影響と因果関係を研究したということだ。

    また50万ドル(約5660万円)の宝くじに当選した人が20年間にわたり毎年2万5000ドルずつ受ける場合、
    これは保証された基本所得と非常に似ていると説明した。

    インベンス教授は「我々は(基本所得が)明確に労働力の供給に一定の影響を及ぼすという事実を知ることになった。
    保証された所得を受けた人々に一定の変化をもたらした」としながらも
    「(しかし)基本所得受給者は自分たちの勤労量を大きくは変えなかった」と強調した。

    返信削除
  2. 199 名無しさん@お腹いっぱい。[] 2021/10/18(月) 10:30:17.62 ID:8P7KhKer
    >>198
    ノーベル経済学賞を共に受賞したジョシュア・アングリスト米マサチューセッツ工科大(MIT)教授と
    デビッド・カードUCバークレー大教授もそれぞれオンライン会見に応じた。

    1992年に最低賃金を引き上げたニュージャージー州と
    引き上げなかった隣のペンシルベニア州の比較研究をし、
    「最低賃金が雇用にマイナスの影響を及ぼさなかった」という論文で注目を集めたカード教授は、
    自身の過去の研究について結論よりも方法論に注目してほしいと述べた。

    カード教授は
    「研究結果の中で重要なことは、みんなの考えとは違い、必ず最低賃金を上げるべきという点ではない」とし
    「賃金がどのように策定されるのかについて、他の考え方にも焦点を合わせることができるという点が重要だ」と述べた。

    続いて「基本的に賃金が上がれば雇用に影響を与えなくても雇用主の収益が減るというのは事実」とし
    「労働者の賃金と雇用主の利益の間に基本的な均衡がある」と話した。

    カード教授は「(92年の論文発表)当時の結論については少し論争があった」とし
    「一部の経済学者は我々の結論に懐疑的であり、あたかも『常温核融合研究スキャンダル』のように我々を非難した」と振り返った。

    「常温核融合研究スキャンダル」とは、米ユタ大の教授陣が89年に「常温で核融合に成功した」と発表して注目を浴びたが、
    その後、米物理学会が「根拠なし」という結論を出した事件だ。

    返信削除
  3. 2021/10/12
    「宝くじ当選者は幸せというわけでない」…ノーベル経済学賞受賞者が結論 | Joongang Ilbo | 中央日報
    https://japanese.joins.com/JArticle/283774

    「宝くじ当選者は幸せというわけでない」…ノーベル経済学賞受賞者が結論
    「私の研究によると、宝くじ当選者は宝くじに当選しなかった人よりも幸せだとみることはできない」。

    今年ノーベル経済学賞を共同受賞したグイド・インベンス米スタンフォード大教授はこのように述べ、「保証された」基本所得が労働市場に及ぼす結果に対する自身の研究を説明した。

    11日(現地時間) のAPTNなどによると、インベンス教授はこの日のオンライン記者会見で「我々はマサチューセッツ州で宝くじに当選した約500人を含めて調査を実施した」とし、基本所得を受けるとしても人々の勤労意欲が落ちるなど大きな影響を及ぼすのではないと述べた。

    宝くじ当選者と未当選者の比較研究を通じて、基本所得が▼労働力供給▼勤労時間▼所得などに及ぼす影響と因果関係を研究したということだ。また50万ドル(約5660万円)の宝くじに当選した人が20年間にわたり毎年2万5000ドルずつ受ける場合、これは保証された基本所得と非常に似ていると説明した。

    ◆「基本所得を受けても勤労量は大きく変わらず」

    インベンス教授は「我々は(基本所得が)明確に労働力の供給に一定の影響を及ぼすという事実を知ることになった。保証された所得を受けた人々に一定の変化をもたらした」としながらも「(しかし)基本所得受給者は自分たちの勤労量を大きくは変えなかった」と強調した。

    ノーベル経済学賞を共に受賞したジョシュア・アングリスト米マサチューセッツ工科大(MIT)教授とデビッド・カードUCバークレー大教授もそれぞれオンライン会見に応じた。

    ◆「最低賃金引き上げ、雇用に影響ないが均衡あるべき」

    1992年に最低賃金を引き上げたニュージャージー州と引き上げなかった隣のペンシルベニア州の比較研究をし、「最低賃金が雇用にマイナスの影響を及ぼさなかった」という論文で注目を集めたカード教授は、自身の過去の研究について結論よりも方法論に注目してほしいと述べた。

    カード教授は「研究結果の中で重要なことは、みんなの考えとは違い、必ず最低賃金を上げるべきという点ではない」とし「賃金がどのように策定されるのかについて、他の考え方にも焦点を合わせることができるという点が重要だ」と述べた。

    続いて「基本的に賃金が上がれば雇用に影響を与えなくても雇用主の収益が減るというのは事実」とし「労働者の賃金と雇用主の利益の間に基本的な均衡がある」と話した。

    カード教授は「(92年の論文発表)当時の結論については少し論争があった」とし「一部の経済学者は我々の結論に懐疑的であり、あたかも『常温核融合研究スキャンダル』のように我々を非難した」と振り返った。「常温核融合研究スキャンダル」とは、米ユタ大の教授陣が89年に「常温で核融合に成功した」と発表して注目を浴びたが、その後、米物理学会が「根拠なし」という結論を出した事件だ。

    ◆「ノーベル賞? 最初はいたずら電話だと思った」

    一方、カード教授はノーベル賞受賞の連絡を初めて受けた時、いたずら電話だと思ったという。カード教授は「いたずら好きな友人の仕業だと思ったが、携帯電話の番号がスウェーデンの番号だった。もしかすると事実かもしれないと考えた」と話した。

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