2020年5月16日土曜日

コロナ&GND

20200516
財源は税金ではない? コロナ危機で崩れる「財政赤字」の神話 | Forbes JAPAN(フォーブス ジャパン)

財源は税金ではない? コロナ危機で崩れる「財政赤字」の神話

新型コロナウイルスによる経済的打撃が世界中で深刻な問題となるなか、米連邦準備理事会(FRB)のジェローム・パウエル議長は5月13日、米経済が長期にわたり低迷する恐れがあるとした上で、議会と政府は支出を拡大する必要があるとの見解を示した。

すでに行われている経済縮小への初期対応が無駄にならぬようやむを得ないとはいえ、政府は巨額の財政負担を背負えるのかという疑問を抱く人も少なくないのではないだろうか。

パウエル議長は4月末にも、経済活動の「前例のない」落ち込みを警告し、現在は財政赤字への懸念による「妨害を許す時ではない」と断言していた。

財務省は5月4日、第2四半期に過去最大の3兆ドル(約320兆円)の借り入れをする方針を明らかにし、米連邦政府の債務残高は5月6日までに25兆ドル(約2560兆円)の大台を突破。今後も前例のないペースで拡大する見通しだ。とりわけ「財政赤字を膨らますのは悪いことだ」「財政収支のバランスを取らないといけない」という一般的な通念に照らしてみれば、経済対策の財源をどこに求めるかという議論は重要だ。

緊急事態下において、果たして財源の見通しをどこから得ているのだろうか。

「政府支出に財源の裏付けは必要ない」MMTの財政赤字論


この疑問に答えた、ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校教授のステファニー・ケルトンのツイートが話題だ。FRBによる緊急の経済対策が開始された3月半ばに、彼女はニューヨークタイムスで以下のように語っている。

「この公衆衛生上の危機が金融危機へと変貌した際、FRBはすぐさま行動し、1週間足らずで数兆ドルを金融システムに投入しました。 銀行に短期ローンが提供され、金利は実質的にゼロへと引き下げられ、7000億ドル相当の米国国債と不動産担保証券の購入開始が発表されたのです。その後、FRBは信用の流れをサポートするために、最大1兆ドルのコマーシャルペーパーを購入する権限を自らに与えました(追加の対策は確実に続くでしょう)。一連の発表が行われる中、私はリーマンショック時のFRB議長であるベン・バーナンキの8秒間ほどの動画をツイートし、中央銀行がこれら1兆ドルの措置を実現するために、資金をどのように工面しているのかを説明しました」

財源は税金ではない? コロナ危機で崩れる「財政赤字」の神話

この動画は、CBSが2009年に放送したテレビ番組「60 Minutes」のワンシーンに若干の編集が加えられたものだ。番組の中でバーナンキ元議長は前後の部分を以下のように述べていた。

「いえ、税金ではありません。今回救済された銀行は、ちょうどあなたが市中銀行に口座を持っているのと同じような感じで、FRBに口座を持っています。だから銀行に融資するために行うことは、彼らのFRBの口座をコンピューターを使って操作するだけです。それは借りるというよりも、お金を印刷することにはるかに似ています」

バーナンキ元議長によれば、リーマンショック時のFRBの1兆ドルの銀行救済策の財源は、「コンピューターを使って口座を操作する」ことによって贖われた。「無からの創造」のような話だが現実の出来事である。議会がFRBに支出を指示をするならば、コンピューターのキーボードを叩くだけでお金を生み出せるという事実は、「キーストロークマネー」と呼ばれている。MMT(現代貨幣理論)の提唱者として知られるランダル・レイは『MMT現代貨幣理論』(島倉原監訳、鈴木正穂訳、東洋経済新報社)のなかで、バーナンキ元議長の同じエピソードを引用している。

「政府はキーストローク、つまりバランスシートへの電子的な記帳行うことで支出する。そうするための能力に、技術的なあるいはオペレーション上の限界はない。キーボードのキーがある限り、政府がそれを叩きさえすれば、利払い資金が生み出されてバランスシートに書き込まれる」

もし「バランスシートへの電子的な記帳を行う」ことで政府支出がなされるのだとすれば、「経済対策の財源をどこに求めるか」ということはそもそも問題になり得ない。4月17日に英紙ガーディアンに掲載された「新型コロナウイルスが打ち砕いた財政赤字という神話」の中で、彼は次のように述べている。「この緊急経済対策で用いた額をどのように支払うのかを真剣に問う者など誰もいないし、もしいたとしても、問うべきではない。連邦政府が財政支出に用いた『代金を支払う』必要があるという神話を論破するには、世界的なパンデミックが必要だった」

コロナウイルスの影響で閑散とするウォールストリート(Getty Images)

一般的には、どんな政策を実行するのにも財源の裏付けが必要だと強く思い込まされてきたし、財源とは税収や国債によって賄われるものであり、借金が膨らみ過ぎると財政破綻のリスクが増すと言われてきた。

しかし、MMT派はこの発想自体が誤りだと強調する。駒澤大学経済学部准教授で経済学者の井上智洋が『MMT 現代貨幣理論とは何か』(講談社)のなかで指摘するところによれば、「自国通貨建てで借金をしている国が財政破綻することはない」ということは、主流派経済学者であっても受け入れざるを得ない事実だという。 



コロナショックで潮流に変化 MMTが「ニューノーマル」に?


MTT提唱者ランダル・レイは自著で「政府の財政は家計や企業のそれとは全くの別物だ」と主張している。

「主権を有する政府が、自らの通貨について支払い不能となることはあり得ない。自らの通貨による支払い期限が到来したら、政府は常にすべての支払いを行うことができるのである」

なぜだろうか。彼によれば、主権を有する政府は、自分たちでお金が作ることができるのだから、この点において支出に制約はないということだ。同書の解説で経済学者の松尾匡が述べているように「通貨発行権のある政府にデフォルトリスクはまったくない。通貨が作れる以上、政府支出に財源の制約はない。インフレが悪化しすぎないようにすることだけが制約である」。

この議論に添うならば、財政収支を均衡させること自体には意味がない。言い換えれば、全体としてインフレが管理可能なところに抑えられているならば、赤字は問題とならないということだ。増税などの緊縮政策が必要となるのは、財政赤字を解消するためではなく、社会が好景気となりインフレを抑える必要がある場合に限られる。

そもそも財政赤字とは民間の資産増を意味しており、民間への資金供給のことだと言い換えることもできる。逆に、財政黒字とは民間の借り入れ超過を意味し、失業が存在する中ではむしろ経済に悪影響を与えるという見方もある。

英ヘッジファンド、ユリゾン・SLJキャピタルのスティーヴン・ジェン氏はブルームバーグの記事の中で、コロナショックによって潮流は変わりつつあるとし、次のように今後を予想する。

「巨額の財政赤字を中央銀行がすべて引き受けることが『ニューノーマル』になる可能性が高い。意図的であるかどうかにかかわらず、われわれはみなMMTにシフトしているのだ」

「財政赤字が膨らむと破綻のリスクが増す」という主張が「神話」であり、今回の新型コロナウイルスへの緊急経済対策がその証左であるとするならば、ポストコロナのわたしたちの経済にはどのような道が開かれているのであろうか。


「グリーンニューディール」に期待広がるアメリカ。ポストコロナ経済対策となるか | Forbes JAPAN(フォーブス ジャパン)
https://forbesjapan.com/articles/detail/34484/1/1/1

「グリーンニューディール」に期待広がるアメリカ。ポストコロナ経済対策となるか

新型コロナウイルスによる経済的打撃が深刻化し、債務残高が過去最高の25兆ドルに達したアメリカでは、「財政赤字が膨らむと破綻のリスクが増す」という主張を「神話」とみなすMMT(現代貨幣理論)に関する議論が加熱している。

前編で紹介した「政府支出に財源の制約はない」と主張するMMTに依拠するならば、コロナ収束後の経済政策の可能性も広がることになるが、具体的にどのような政策が可能になるのだろうか。グリーンニューディールは、ポストコロナの経済対策として注目されるものの一つだ。

グリーンニューディール論争 アメリカ最年少女性下院議員が活躍


グリーンニューディールとは、気候変動と経済的不平等の両方に対処することを目的として提唱された経済刺激策のことを意味する。1929年の大恐慌からアメリカ経済の救済を図ったフランクリン・D・ルーズベルトの経済的アプローチと、再生可能エネルギーや資源効率などの現代的アイデアを組み合わせた政策だ。自然エネルギーや地球温暖化対策に公共投資することで、新たな雇用や経済成長を生み出すことが狙いとなる。グリーンニューディールという言葉自体は、2007年、トーマス・フリードマンによって既にニューヨークタイムズ紙のコラムで提唱されていた。多くの新しい「グリーンジョブ」によって経済停滞を乗り越えようとする彼の提案は、リーマンショック後のオバマ前大統領にも影響を与えた。

近年この政策を再び議論の中心に据えたのは、アメリカ最年少女性下院議員としても注目される民主党のアレクサンドリア・オカシオ=コルテスである。

彼女がエド・マーキー民主党上院議員と共に2019年2月に発表したグリーンニューディールの決議案の主張は、例えば以下のようなものである。

・温室効果ガスの実質排出ゼロ
・電力の100%再生可能エネルギー化
・炭素税を含むカーボンプライシング(炭素価格付け)
・労働者の最低賃金保障
・すべての人への医療保険(ヘルスケア)


オカシオ=コルテスは、これらを10年以内に達成するという目標を掲げている。温暖化対策とともに、気候変動の被害を被る人々や、エネルギー政策の転換により失業する労働者への支援策も盛り込み、国民の完全雇用や国民皆保険を通じた貧困層への対策を同時に充実させる。気候変動への対処を社会保障と一体的な問題として捉えようと試みるのがグリーンニューディールのポイントだ。

グリーンニューディール決議案は非常に意欲的な内容であるため、共和党陣営からの批判も多い。確かに地球温暖化には緊急の対策が必要だが、グリーンニューディールには年平均1.6兆ドルもの費用がかかる。巨額な財源をどう手当てするのかという点について、オカシオ=コルテスの念頭にMMTがあることは間違いないが、保守的な論客を中心に、この点については「非現実的だ」という見方も多い。

巨額な財源が必要であるだけでなく、左派的な政策を集約させるような論点になっている以上、古典的自由主義の伝統が強いアメリカでは、「大きな政府」に対する反感を呼び起こしやすいのは間違いない。実際にトランプ大統領は、グリーンニューディールを「社会主義」と呼んで批判している。

共和党議員のマット・ガエツは、「グリーンニューディール」をもじった「グリーンリアルディール」を対案として発表している。同政策案はグリーンニューディールのラディカルな主張を修正し、より保守的なものに再考案したものだという。



同氏の掲げたロゴには「Green New Deal」のロゴのパロディが採用され、「New」がバツ印で消され、代わりに子ども向けの書籍に用いられる書体で「Real」の文字が記されている。しばしば「非現実的」と批判される「Green New Deal」への皮肉が込められているようだ。 

「グリーンニューディール」に期待広がるアメリカ。ポストコロナ経済対策となるか

コロナ危機で注目「今こそグリーンニューディールにふさわしい時」


しかし、コロナ危機によってリーマンショックを超える経済的被害が出ていると言われ、政府による経済刺激策に注目が集まる中、財政赤字への世の中の見方も変わりつつある。

ジャーナリストのケン・シルバースタインはフォーブスに「今こそグリーンニューディールにふさわしい時かもしれません」と述べ、「共和党員たちはもはや、経済刺激策に反対することはできません。議論すべきなのは、公的資金をどこに投入するかということだけなのです」と語る。

「今、経済刺激策に注目が集まっていますが、これは市場を落ち着かせ、市場の信頼を高めるのと同時に、グリーンエネルギー経済を加速させる現実的な機会なのです」

「ニューディール」とはもともと、ポーカーなどのトランプ遊びで「親」がカードを配り、新たなゲームが始まる際に使われる言葉だ。2030年までに気温が1.5℃上昇すると予測され、悲惨な結末を避けるには大変革が必要だと叫ばれる現在、グリーンニューディールは積極的に追求されるべき政策の一つだろう。オバマ政権時には国務長官も務めたジョン・ケリーはニューヨークタイムスに、パンデミックは、科学者が警告する気候変動のような脅威に対して、政府は前もってきちんと準備しなければならないということをアメリカ人に意識させたと語る。

「コロナウイルスによって真の対話の可能性へと扉が開かれたと思います。今回、人々は科学者の話を聞かなかった場合の困難を学んだのですから」

環境問題の論客として知られるアル・ゴア元米副大統領も、アメリカのテレビ局HBOの番組に出演した際、コロナ問題と地球温暖化問題には明確な共通点があると述べ、今回の一件は「政府の指導者たちは科学者からの警告を単に却下することはできないという呼びかけとして機能した」と述べた。

アル・ゴア元副大統領。コロナ問題と地球温暖化には明確な共通点があると指摘した。(Getty Images)
ドナルド・トランプ大統領は5月13日、新型コロナウイルス対策の早過ぎる制限解除に警鐘を鳴らした米国立アレルギー感染症研究所(NIAID)所長のアンソニー・ファウチ博士の発言について、「受け入れられない」と述べた。アメリカでは新型コロナウイルスに140万人近くがかかり、約8万4000人が亡くなっている現状があるが、それによって経済は大きな打撃を受け、失業率は14.7%と、1982年11月の10.8%を大きく上回り、戦後最悪となっている。 

「環境と経済」2つの危機に立ち向かう


新型コロナウイルスの世界的流行の思いがけぬ結果として、多くの地域で社会経済活動がストップしたことにより、大気汚染物質の濃度が下がったことが現場観測や人工衛星からの観測によって把握されている。

しかし、コロナショックによる世界的な景気後退は、長期的に見れば気候変動対策に大きな影を落としかねない。「環境か、経済か」という選択を迫ることによって、どちらかを後回しにすることはできない状況だ。新型コロナと環境問題、2つの危機に同時に立ち向かう経済政策を考える必要がある。

「神は常に赦される。人はある時は赦し、ある時は赦さない。自然は決して赦さない。わたしたちが地球を荒廃させたなら、その答えはひどいものでしょう」

これは今年50周年を迎えた4月22日の「アースデイ」に、フランシスコ教皇が述べた言葉だ。グリーンニューディールを「非現実的だ」として退け、科学の警告を無視し、大変革への挑戦を冷笑することは、単に将来的にやってくる悲惨な結末に対応するためのコストを先送りにしているにすぎない。

コロナショックを機に、グリーンニューディールが活発に議論されることを期待したい。 




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